"昭和21年、港で「娘ではない」と言った母" 第1話
昭216、博港には朝から潮と炭の匂いが混じっていた。
引揚が着くは、岸壁の空気が普段とは違った。族の名をいたを胸に抱えてつ者、からりてくる顔をずつ確かめる者、何もからを見つめ続ける老。誰もが、次にタラップへ現れるが、自分の待っていた相かもしれないとっていた。
そのも、朝鮮半島からの引揚がゆっくりと接岸した。
からりてくる々は、皆よく似た姿をしていた。頬は痩せ、はくたびれ、持ち物といえば呂敷包みかさな李だけ。子どものには、首から名札のような板をげている者もいた。
岸壁で待っていた神は、の波の奥に妹を見つけた。
「妙子!」
歳の神妙子は、紺のもんぺを履き、にさな柳李を持っていた。そしてで、歳くらいの女のをしっかりと握っている。
の妻・静が目を潤ませた。
「文子ちゃん……きくなったわね」
終戦、妙子から届いた数枚の葉には、夫・隆志の消息が分からないこと、娘の文子を連れて帰国を目指していることだけがかれていた。
だから誰も疑わなかった。
妙子の隣にいる女こそ、く会っていなかった姪の文子なのだと。
女も、たちを見てししたようだった。
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妙子のを握り直し、さな声で聞く。
「お母さん、このたち?」
その声を聞いた瞬、妙子のが止まった。
が笑顔でづいた。
「そうだ。俺が伯父さんだ。よく帰ってきたな。さあ、荷物を――」
「兄さん」
妙子の声が、のを止めた。
彼女は兄をまっすぐ見た。
「先に言っておかなければならないことがあります」
「何だ」
妙子は女のを握ったまま、度唇を噛んだ。
そして、はっきり言った。
「この子は、私の娘ではありません」
の顔から表が消えた。
静もかなかった。
くにいた引揚援護の職員まで振り返った。
女だけが、何を言われたのか分からない顔で妙子を見げた。
「……お母さん?」
妙子はそのにしゃがんだ。
女と同じさまで目線をげ、両肩へを置く。
「ごめんね、恵」
女の瞳がきく揺れた。
「違うよ」
「恵」
「私はお母さんと緒に来たよ」
声が震え始める。
「でも緒だったよ。ずっと緒だったよ」
妙子の目にも涙が浮かんだ。
「分かってる」
「じゃあ、どうして」
恵は妙子の袖を両で掴んだ。
「私は誰なの?」
周囲の線が斉に集まった。
が慌ててのへ入った。
「妙子、今ここで話すことじゃない。疲れてるんだろう。とにかくへこう」
「疲れていて違えるようなことではありません」
「だったら何なんだ」
妙子はちがった。
そしてへ、さらに信じ難いことを言った。
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「文子は、緒に本へ着いていません」
の顔が張る。
「どういうだ」
「途で、いなくなりました」
恵が声をげて泣き始めた。
妙子は抱きしめた。
けれど、
「あなたが文子よ」
とは言わなかった。
そのの夜。
のの畳で、妙子はようやく事を話し始めた。
敗戦、朝鮮部で暮らしていた妙子は、夫の消息が分からなくなった。勤め先もなくなり、んでいたも全ではなくなったため、歳の文子を連れて何族かと緒にへ向かった。
列。
荷。
徒歩。
には野宿。
途には、焼けた駅舎も、で埋まった待所もあった。
「目の夜でした」
妙子は畳を見つめた。
「勢で押し込まれた宿舎で、夜にまた移だと言われて……暗くて、誰かがくしろって鳴って、子どもが泣いて」
度だけ、文子のをした。
ほんの秒だったのかもしれない。
必にを伸ばし、同じような背丈の女を掴んだ。
暗。
似た綿入れ。
痩せたさな。
そのままの流れに押され、へた。
違う子だと気づいたのは翌朝だった。
「その子が、恵か」
「はい」
恵の母親も、その夜の混乱で姿を消していた。
倒れたというもいた。
別の集団へ流されたという話もあった。
何も確かなことは分からない。
「じゃあ文子は?」
が聞いた。
妙子の喉がいた。
「分かりません」
恵も母を失い、妙子も文子を失った。
周囲のたちは言った。
港へけば名簿がある。
へ乗れば、本で探せる。
今は子どもをにするな。
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