"昭和21年、港で「娘ではない」と言った母" 第4話
「私もく」
「もちろんだ」
「妙子お母さんも?」
妙子は頷く。
「くわ」
「途で帰らない?」
「帰らない」
翌朝。
妙子、、のは収容所へ向かった。
古い造建物の廊には、疲れた顔の引揚者が並んでいた。
世話が名簿を確認する。
「森千代さんですね。しお待ちください」
は妙子のを握った。
その力がどんどんくなる。
やがて廊の向こうから、の女性が現れた。
歳。
痩せ、頬がこけ、をし引きずっている。
女性はを見た。
が止まった。
唇が震えた。
「……?」
女の体が固まる。
女性は泣きながら駆け寄った。
「!」
抱きしめる。
本当の母親だった。
千代は娘の髪、頬、を何度も触った。
「きてた……きてた」
妙子はその景を見ながら、胸の奥で堵した。
これでいい。
は母親を見つけた。
自分は文子を探せばいい。
それぞれ元へ戻ればいい。
そうおうとした。
「お母ちゃん」
がさく言った。
千代の肩が震えた。
しかし次の瞬。
は千代の腕のから妙子を見た。
助けを求めるような目だった。
そしてまた、
「お母さん」
と呼んだ。
妙子は反射に、
「ここにいるわ」
と答えた。
その瞬。
森千代の表が変わった。
自分の娘が、別の女を「お母さん」と呼んだ。
廊の空気が凍った。
千代はゆっくりから体をした。
そして妙子を見た。
「あなたは……誰ですか」
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妙子は答えた。
「この子と緒に、本まで帰ってきた者です」
「どうして」
千代の声が震えた。
「どうして私の娘が、あなたをお母さんと呼ぶんですか」
妙子は何も言えなかった。
その。
が妙子のを掴んだ。
で千代。
で妙子。
歳の女が、の母親のにっていた。
森千代は事を聞くと、最初は妙子を責めなかった。
むしろ何度もをげた。
「本当にありがとうございました」
涙が止まらない。
「この子がきているのは、あなたのおかげです」
妙子もをげた。
「私も、この子に助けられました」
「え?」
「文子を失って、だったら、私はまでたどり着けなかったかもしれません」
はので俯いている。
問題が起きたのは、そのだった。
千代は当然のように言った。
「、帰ろう」
が顔をげる。
「どこへ?」
「お母ちゃんと緒に」
「どこ?」
「まだはないけど、親戚を探してる。見つかるまでここで暮らせるから」
はかなかった。
「?」
「今?」
千代は困った顔をした。
「もちろんよ」
が妙子を見た。
妙子の胸が締めつけられる。
千代がのさな呂敷包みにを伸ばした。
するとがろへがった。
「嫌」
千代のが止まる。
「?」
「帰らない」
「何言ってるの」
「妙子お母さんと帰る」
千代の顔が青ざめた。
妙子は慌てての肩を抱いた。
「ちゃん」
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「嫌!」
女が初めて叫んだ。
「お母さん、私を置いていった!」
千代の顔が歪む。
「置いていったんじゃない!」
「いなかった!」
「探したのよ!」
「でもいなかった!」
「!」
妙子は女を抱きしめた。
千代も泣いている。
誰も悪くない。
それなのに全員が傷ついていた。
収容所の職員がへ入った。
「今は決めない方がいいでしょう」
千代が振り返る。
「でも私の娘です」
「分かっています。ただ、お子さんもかなり混乱しています」
「親子なのに?」
職員は答えづらそうだった。
「だからこそです」
はその、妙子と緒にのへ戻った。
千代は納得していなかった。
当然だった。
自分の娘が見つかった。
それなのに別の女のへ帰っていく。
数。
千代がのへ来た。
にはさな包みを持っている。
「が好きだったものです」
から古い布形がてきた。
片方の目が取れ、着物のも褪せている。
はそれを見た瞬、きを止めた。
「……これ」
に取る。
表が変わった。
「覚えてる?」
千代が聞く。
の目から涙がこぼれた。
「うん」
その夜。
は形を抱いて眠った。
妙子は隣で、その姿を見ていた。
自分のらないのがある。
当然だった。
釜までの数週だけが、のではない。
母・千代と過ごしたがある。
妙子は苦しかった。
が千代をいすことに、嫉妬のようなが湧いた自分が嫌だった。
翌朝。
妙子は決めた。
を千代のもとへ返そう。
その方が正しい。
血のつながった母親がきているのだから。
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