"昭和21年、港で「娘ではない」と言った母" 第5話
しかし昼。
今度は妙子宛てに通のらせが届いた。
引揚援護の世話からだった。
福岡の別の収容施設に、
《神文子》
という名を名乗る女がいる。
齢歳。
朝鮮からの引揚者。
特徴欄には、
《眉にさな傷》
妙子のからが落ちた。
文子だった。
今度こそ、本当に文子かもしれない。
がを拾った。
読める部分だけを追った。
「文子ちゃん?」
妙子は頷くことしかできない。
はしばらく黙っていた。
そして、
「よかったね」
と言った。
笑おうとしていた。
けれど唇が震えている。
「ちゃん」
「文子ちゃんが帰ってくるんでしょう?」
「まだ確かめてないわ」
「でも帰ってきたら」
はを妙子へ返した。
「私は、もういらないでしょう?」
妙子は息を呑んだ。
そのの夕方。
森千代が再びへ来た。
「、を引き取りたいとっています」
妙子のには、文子のらせ。
目のには、の実母。
は、ようやく見つかるかもしれない実の娘。
もうは、本までさずに連れてきた娘ではない女。
翌になれば、
ともそれぞれ「本当の族」へ戻れる。
誰が見ても、それが正しい結末のはずだった。
しかし妙子には、
どうしてもそれが「元通り」だとはえなかった。
翌朝。
妙子はと福岡の収容施設へ向かった。
はに残った。
「緒にかなくていいの?」
妙子が聞くと、女は首を振った。
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「文子ちゃんが初めてお母さんに会うんでしょう」
「……」
「私がいたら、変だから」
歳の女が、自分からを引いている。
妙子は何も言えなくなった。
施設に着くと、職員がの女を連れてきた。
痩せていた。
髪は肩まで伸び、もきすぎる。
けれど眉のに、さな傷がある。
文子が歳の。
妙子が背負ったまま転び、へ額をぶつけてできた傷。
妙子のが震えた。
「文子」
女はじっと妙子を見た。
反応がない。
「文子。お母ちゃんよ」
歩づく。
女はろへがらなかった。
しかし抱きついても来ない。
職員が静かに説した。
「こちらへ来た、かなり衰していました。しばらく名も言えず、会話もほとんどありませんでした」
妙子は文子のにしゃがんだ。
「覚えてる?」
女の瞳がわずかに揺れた。
妙子は子守をった。
文子が幼い頃、寝るに何度もせがんだ。
節。
節。
女の唇がく。
「……お母ちゃん」
妙子は崩れるように抱きしめた。
文子の腕が、ゆっくり妙子の背へ回った。
「ごめんね」
妙子は泣きながら何度も言った。
「をしてごめんね」
文子は何も答えなかった。
ただ母の胸へ顔を埋めた。
帰り。
は言った。
「よかったな」
妙子も、
「うん」
と答えた。
だが声はかった。
はすぐ気づく。
「ちゃんのことか」
妙子は頷いた。
「文子が見つかったら、全部元へ戻るとってた」
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「戻らんか」
「戻らない」
妙子は窓のを見た。
「もう、戻る所自体がなくなってるのかもしれない」
へ帰ると、は玄関に正座して待っていた。
妙子のろに文子を見る。
の女が初めて向かいう。
文子が先に聞いた。
「誰?」
はさくをげた。
「森です」
妙子は驚いた。
は初めて、自分の姓と本当の字で名を名乗った。
「お母さんと、本まで緒に来ました」
文子が妙子を見る。
妙子は全て話した。
をした夜。
と会ったこと。
の。
博港。
が妙子を「お母さん」と呼ぶようになったこと。
文子は最まで黙っていた。
そしてへ言った。
「お母ちゃんと緒にいてくれたの?」
は頷く。
文子はし迷った、
「ありがとう」
と言った。
その瞬。
の顔が崩れた。
「ごめんなさい」
突然泣きした。
文子が驚く。
「どうして謝るの」
「お母さんって呼んだから」
妙子の胸が締めつけられる。
「文子ちゃんのお母さんなのに」
文子は困った顔をした。
歳の女に答えられる問題ではなかった。
それでもし考えてから言った。
「別にいいよ」
が顔をげる。
「だって、私いなかったんでしょう」
文子は妙子を見る。
「お母ちゃん、だったんでしょう?」
妙子は泣きそうになった。
「うん」
「じゃあ、いてくれてよかった」
それだけだった。
が何も悩んだことを、子どもはにもっと簡単な言葉で受け止める。
しかし、その夜。
妙子は文子の本当の傷をった。
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