みかん小説
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"昭和21年、港で「娘ではない」と言った母" 第9話

「妙子お母さん」

「じゃあ、それでいいでしょう」

「千代母さん、嫌じゃないかな」

「本に聞いてみたら?」

は本当に聞いた。

千代は最初、黙った。

そして笑った。

「今さら何言ってるの」

「嫌じゃない?」

「嫌だった期はある」

が驚く。

千代は続けた。

「そりゃ、自分の娘が別のを母親って呼ぶんだから、嫌だったわよ」

は俯いた。

「ごめん」

「でもね」

千代は娘の肩へを置いた。

「私がいなかった、あんたを守ってくれたを、お母さんって呼ぶなとはもう言えない」

「じゃあともお母さん?」

「贅沢ね」

千代は笑った。

「母親もいるんだから」

その話を聞いた妙子は、泣きながら笑った。

戦争は族を壊した。

しかし壊れた所から、しい族の形がまれることもある。

それを無理に元へ戻す必はなかった。

文子もまたになるにつれ、への複雑な気持ちを理していった。

ある夜。

文子が妙子へ言った。

「昔ね」

「何?」

ちゃんが来ると、ちょっと嫌だった」

ってる」

ってたの?」

「顔にてた」

文子は笑った。

「お母ちゃん取られるとった」

「うん」

「でも私がいなかった、お母ちゃんがじゃなかったのは、今はよかったとってる」

妙子は娘を見る。

ちゃんがいたから、お母ちゃん本まで帰れたんでしょう」

「たぶんね」

「じゃあ、私もちゃんに助けてもらったんだ」

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妙子は目くなった。

の子どもを助けたことが、

別の子どもを助けることにもなっていた。

そのつながりは、誰にも最初から見えていなかった。

40代に入った頃。

文子もも、それぞれ庭を持った。

は別々ので暮らしたが、盆や正には妙子ので顔をわせた。

子どもたち同士も仲がよかった。

の娘が幼い頃、

「どうしてお母さんには、おばあちゃんがいるの?」

と聞いたことがある。

し考えた、答えた。

「お母さんが子どもの頃、回助けてもらったから」

「誰に?」

「千代おばあちゃんにんでもらって、妙子おばあちゃんに本まで連れて帰ってもらったの」

子どもはそれで納得した。

が何も悩んだことを、子どもは案簡単に受け入れる。

妙子がを越えた頃。

で博港のくを訪れる会があった。

港の景は、昭21とは全く違っていた。

岸壁は備され、きなき交い、昔の引揚が着いた所もどこだったのか分かりにくい。

妙子はを眺めた。

潮の匂いだけが、あのと同じようにじられた。

「ここだったの?」

が聞く。

「たぶん、もうし向こう」

妙子は目を細めた。

痩せた々。

荷物。

泣き声。

兄の顔。

そして自分の袖を握る歳の女。

《この子は、私の娘ではありません》

あの

妙子は勢のではっきり言った。

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を傷つけた。

何度も悔した。

もっと別の言い方があったのではないか。

港では何も言わず、へ帰ってから話せばよかったのではないか。

それでも妙子には分かっている。

あそこで本当のことを言わなければ、は文子として扱われていたかもしれない。

という名を失っていたかもしれない。

森千代との再会も、もっと難しくなったかもしれない。

そして本当の文子が見つかった

女をさらにく傷つけただろう。

「あの

が言った。

「私、本当に捨てられるとった」

妙子は頷いた。

「ごめんね」

「今なら分かる」

「何が?」

「お母さん、私を捨てるために言ったんじゃなかったんだね」

妙子は何も言わなかった。

を見た。

「私を、のままにしておくためだったんでしょう」

妙子の目に涙が浮かんだ。

文子が隣で笑う。

「お母ちゃん、器用だからね」

「文子」

「もっと言い方あったでしょう」

「本当にそうね」

で笑った。

し歩いてから、文子が聞いた。

「お母ちゃん、もしあのちゃんの本当のお母さんが見つからなかったらどうしてた?」

妙子は考えた。

「たぶん育てた」

が驚く。

「本当に?」

「本当に」

「文子ちゃんが戻ってきても?」

「戻ってきても」

文子が笑った。

「うち、貧乏になってたね」

「相当ね」

でまた笑った。

しばらくして。

妙子は真面目な顔になった。

「でもね、昔は私も、族ってつしかないとってた」

が妙子を見る。

「母親は。娘も。血がつながっているのが本物で、それ以は仮のものだって」

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