"昭和27年、父は町長へ戻らなかった" 第6話
「宗郎が正しかった。追放した方が違っていた。昔の町政を取り戻せ。そういう選挙になる」
「何が悪いんだよ」
「俺は昔へ戻りたいんじゃない」
父の声は静かだった。
「戻れる資格が返ってきたことと、昔の子へ戻る資格が自分にあるとうことは、同じじゃない」
正は返事ができなかった。
その夜遅く、が正の部へやって来た。
母は戸を閉め、声を落とした。
「お父さんね、追放されたばかりの頃、度だけ私に言ったの」
「何を?」
「『自分は町という仕事が好きだったんじゃなくて、町と呼ばれる自分が好きだったのかもしれない』って」
正は胸を突かれた。
自分も同じではないか。
父を町へ戻したかったのは町のためなのか。
それとも「町の息子」に戻りたかっただけなのか。
数、町内には宗郎馬の噂が広がっていた。古川たちが作ったを見た々が、「さんが戻るらしい」と話し始めていたからだ。
宗郎はついに、自ら公民館へを運んだ。
勢を集めた演説ではなかった。
支援者数だけをにして、く告げた。
「私は町選にはません」
古川がちがった。
「どうしてです!」
「追放されたからでも、を取ったからでもありません」
宗郎はの顔を見た。
「町だった頃の私は、この町をっているつもりでいました。
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でも、らないことがすぎた」
誰も声をさない。
「だから、昔の私を取り戻すための選挙にはません」
そのの番ろで、正は父を見ていた。
昔のような背広ではない。
米で働くときにも着ていた古い着だった。
それでも正には、そのの父が町代よりきく見えた。
そして同に、自分の胸にしい疑問がまれていた。
父が戻らないなら。
自分は、この町とどう関わるべきなのか。
町選がづくにつれ、瀬町のあちこちに候補者の名が掲げられた。宗郎が正式に馬を表したことで、古川たちのきもようやく収まり、結局、現職を含む2が候補することになった。正には投票権がなかったが、候補者の演説があると学帰りにを止め、聞に選挙の記事が載れば隅々まで読むようになった。
それまで選挙とは、父が町になるためにあるものだとっていた。だが注して聞くと、町の々が望んでいることは驚くほど違った。部の商主はや客の話をし、側の農は肥料代や林を気にし、子どものいる母親は学や診療所について話していた。
ある夕、正は突然言った。
「俺、いつか町議になる」
が箸を止めた。
宗郎は噌汁から顔もげなかった。
「そうか」
「それだけ?」
「何を言ってほしい」
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正はし苛った。
「父さんが戻らないなら、俺が町のことをやる」
その瞬、宗郎が顔をげた。
「それなら、やめろ」
正はを疑った。
「何でだよ」
「今のおがやるなら、やめた方がいい」
「今すぐるなんて言ってない。いつかって言ってるんだ」
「何でも同じだ。理由がそのままならな」
正はちがりかけた。
「父さんが教えたんじゃないか。町をから見るだけじゃ駄目だって。だったら俺が町のの話を聞く」
「簡単に言うな」
宗郎は厳しい声をした。
「おはまだ、が自分にをげる姿を像して嬉しいとってる」
正の頬がくなった。
「そんなことない」
「本当に?」
「違う!」
「俺の名誉を取り返したいんじゃないのか。からもう度議員をしたいんじゃないのか」
図だった。
だから余計に腹がった。
「何でそんな言い方するんだよ。町のために何かしたいってってるのに」
「町のため、という言葉ほど便利なものはない」
「父さんだって使ってたじゃないか!」
言った瞬、部が静かになった。
宗郎はらなかった。
ただ、ゆっくり頷いた。
「だから言ってるんだ」
正はをびした。
夜の町を歩き、気づけば役まで来ていた。窓のかりはほとんど消えており、玄関のにある「瀬町役」という文字だけがかりに浮かんでいる。
幼い頃、ここへ来るのが好きだった。
職員から「坊ちゃん」と呼ばれ、父の部へ通される。
きな机。
黒い話。
類の。
その央に座る父。
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