"昭和27年、父は町長へ戻らなかった" 第10話
荷捌き所を別に確保できないか。
移転対象を減らせないか。
梅のを残す方法はないか。
すべてを守ることはできなかった。
設計変更には追加費用もかかり、別のを使えば別の権者が響を受ける。
議会では「軒軒聞いていたら何もまない」と批判された。
その言葉も、違いではなかった。
もも限だ。
それでも正は、なくとも「補償済み」という言で活を処理することだけは避けたかった。
最終に計画は部修正された。
すべての民が満したわけではない。
酒の主は最まで補償額へ満を残し、別の軒は町をれることになった。
梅のも残せなかった。
ただ、伐採に女性から枝を本もらい、町営宅の庭へ挿しすることになった。
数、根付いた梅に最初のが咲いた。
正はそのことを宗郎へ話した。
父は「そうか」とだけ答えた。
褒めなかった。
けれど、その晩。
正が黒い帳面をくと、最の空ページに父のしい字があった。
《正。拡張。梅のまで見にった》
正はしばらく、そのから目をせなかった。
父は何も言わなかった。
ただ、自分の帳面に息子の名をいた。
「見落とさなかった」として。
それが正には、当選したより嬉しかった。
それからが流れた。
正は町議を続けたが、選挙のたびに「父のを継いで町へ」
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と勧めるが現れた。正自にも、そのを考えた期はあったが、父の名を使って当然のように階段をがることだけは避けた。
宗郎は次第にへることが減った。
腰だけでなく臓もり、になるとの半を鉢のそばで過ごした。それでも聞だけは毎朝読み、町議会の記事に正の名が載っていても、本へ直接を言うことはほとんどなかった。
あるの、正が実へ寄ると、宗郎は黒い帳面を読んでいた。
表は擦れ、角は丸くなっている。
「まだ読んでるの?」
「字がくなってきた」
「き直せば」
「それじゃ駄目だ」
宗郎は笑った。
「昔いた字だからいい」
正は向かいへ座った。
しばらく2で鉢へをかざした。
「父さん」
「何だ」
正は、ずっと聞きたかった質問をした。
「追放されて、よかったとったことある?」
宗郎の目がし細くなった。
すぐには答えなかった。
窓のではがっている。
くで除用のスコップが面を擦る音がした。
「よかったとはわん」
宗郎はようやく言った。
「仕事を失った。母さんにも苦労をかけた。おにも嫌ないをさせた」
正は黙っていた。
「あんな形じゃなく、自分で気づけたなら、その方がよかった」
「うん」
「でもな」
父が帳面を撫でた。
「なかったことにもしたくない」
正は顔をげた。
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「追放されたから派になった、なんて話にするつもりもない。そんなきれいなものじゃない」
宗郎は度咳をした。
「腹もった。もんだ。昔の仲がで目を逸らしたなんか、何度殴ってやろうとったか分からん」
正はわず笑った。
「父さんでもそんなことったんだ」
「当たりだ」
父も笑った。
「ただ、役ので働かなかったら、佐久さんの米俵のさはらなかった。林さんの半も、トメさんのもらなかった」
正は黒い帳面を見る。
「だから、なかったことにはしたくない?」
「ああ」
宗郎は頷いた。
「、自分に都の悪いほど、消したくなるからな」
その、宗郎は入退院を繰り返した。
を迎えるし。
へ古川が訪ねてきた。
かつて父を再び町にしようといた古川も、今では杖を使う老になっていた。
「さん」
「久しぶりだな」
2はい、昔話をした。
帰り際、古川が言った。
「あの、俺は本気であなたが戻るべきだとってた」
「ってる」
「今でも、戻っていたら違う町になっていたんじゃないかとうことはある」
宗郎は笑った。
「それは誰にも分からん」
「悔は?」
「しないようにしてる」
「しないように?」
「したか、しなかったかより、したどうするかしか残らんからな」
古川は何も言わずをげた。
その2週、宗郎は自宅で静かに息を引き取った。
葬儀には勢のが訪れた。
昔の町議。
商主。
農。
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