"昭和27年、父は町長へ戻らなかった" 第11話
元役職員。
米の佐久はすでにくなっていたが、息子が焼に来た。
林吉の族も来た。
本トメの孫も来た。
誰かが「名町だった」と言った。
別のは「頑固なだった」と笑った。
「追放された気の毒なだった」と話す者もいた。
正は、そのどれも訂正しなかった。
父はつの言葉で説できるではなかった。
派だったこともある。
見えていなかったこともある。
違ったこともある。
から学んだこともある。
葬儀が終わった夜、が黒い帳面を正へ渡した。
「これは、あなたが持っていなさい」
正は首を振った。
「父さんのものだろ」
「だからよ」
正は帳面を受け取った。
最のページには、以見た拡張の記録のに、もう増えていた。
《の話を聞くことを、仕事にしたようだ》
父がいついたのか分からない。
正は何度もその文字を指でなぞった。
宗郎がくなってから数、正は町役のを歩いていた。
昭27のと同じ所だった。
掲示板はしくなり、貼られているも変わっている。かつて講条約や公職追放についてのらせを読んだ17歳のは、もう40歳を過ぎていた。
あのの自分は、本当に単純だったとう。
追放が終われば父は町へ戻る。
町へ戻れば失った名誉が戻る。
昔父を避けた々もをげ、すべてが元通りになる。
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そう信じていた。
だが、資格が戻ることと、が元に戻ることは同じではなかった。
宗郎は町へ戻らなかった。
戻れなかったのではない。
戻らないことを、自分で選んだ。
戦の公職追放は、宗郎のために作られた制度ではない。その評価も、解除の経緯も、17歳の正が考えていたほど単純ではなかった。
ただ、にとってだったのは、もっと個なことだった。
宗郎が肩きを失った、初めて町を役の机以から見たこと。
60キロの米俵を担いだこと。
自分がで処理した「移転補償」の裏側に、6族が半を寄せた部があったとったこと。
に度訪ねただけの集落で、にはさえ通れなかったこと。
それらをったで、宗郎は昔の自分へそのまま戻ることができなかった。
正は父の黒い帳面を、今も持っている。
ただし、自分の帳面も別にある。
父と同じ文章をくつもりはない。
代も違う。
問題も違う。
それでも、何かを決めるときは必ず考える。
このの向こうに、誰がいるのか。
「5世帯」。
「利用者30」。
「予算50万円」。
「移転対象1戸」。
役所の類では、数字にしなければ仕事にならない。
数字は必だ。
図も必だ。
予算も必だ。
ただし数字になった瞬、が消えるわけではない。
正がそれを忘れそうになると、父の帳面をいた。
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ある、若い町職員が正へ尋ねた。
「さんのお父さんって、昔町だったんですよね」
「ああ」
「追放が解けたも、戻らなかったって本当ですか?」
「本当だよ」
「もったいないですね」
若者は何気なく言った。
正は笑った。
自分も17歳のとき、同じようにっていた。
「どうして戻らなかったんです?」
正はし考えた。
父なら何と答えただろう。
「町が嫌になったからではないとう」
「じゃあ?」
「町じゃない自分で、度町を見てしまったからじゃないかな」
若い職員はが分からない顔をした。
正も、それ以説しなかった。
理解するには、自分で見るしかないことがある。
昭27の。
17歳だった正は、役の掲示板からまでった。
父の名誉が戻る。
もう度、昔の族へ戻れる。
そう信じていた。
しかし父は斧を置き、静かに言った。
「もう町には戻らん」
あの、正にはその言葉が敗に聞こえた。
いが過ぎた今なら分かる。
あれは逃げたの言葉ではなかった。
自分が何を見落としていたのかをり、それをらなかった頃の自分へ簡単には戻らないと決めたの言葉だった。
宗郎は、自分の追放を正しかったとも言わなかった。
違っていたとも、息子に結論を押し付けなかった。
ただつだけ、最まで守ったことがある。
過を、自分に都のいい物語へき換えないことだった。
正もまた、父を「劇の町」にすることをやめた。
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