"昭和63年、消えたいちご農園主――3年後の古い倉庫" 第1話
昭6345、千葉県成田郊の農では、朝5を過ぎる頃にはの空がみ始めていた。
田茂、46歳。
この域では比較くからビニールハウスを使ったいちご栽培に取り組み、5に数棟のハウスを建てたには、「そんなをかけて採算が取れるのか」と隣の農から笑われたこともあった。しかし試錯誤をねた末、田農園のいちごは京のでも評価されるようになり、の収穫期には族だけではがりないほどになっていた。
茂は毎朝5にをた。
ハウスの扉をけ、温度計を確認し、夜のに傷んだ実がないかを見て回る。それから収穫用の浅い箱を並べ、粒ずつ赤く熟した実を摘み取った。
このも、いつもと変わらない朝だった。
午7過ぎには、5から農園を伝っている佐藤誠と、その妻がやってきた。佐藤は茂より4歳で、数はないが仕事は丁寧だった。茂もく信頼し、繁忙期には当を乗せしていた。
ただ、ここ数かだけはのに微妙な空気があった。
佐藤はの暮れ、独して畑を借りたいのでを貸してほしいと茂へ頼んでいた。しかし茂は断った。
「今は農業で借を増やすじゃない。焦らない方がいい」
茂には忠告のつもりだった。
だが佐藤には、自分だけ成功しておきながら、こちらの挑戦は止めるのかと聞こえたらしい。
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それ以来、挨拶はする。仕事もする。
ただ以のような笑い話はなくなった。
そのの午9頃、向かいの農園主・本孝志が、自分の畑から茂の姿を見た。
の証言で本は、
「田がでハウスのへて、の方へ歩いていた」
と話した。
ところが佐藤の証言は違っていた。
「午10までは、田さんと緒に収穫していました」
のずれ。
失踪が判してから、このさない違いは警察にも伝えられた。
だが、この点では誰もく考えなかった。
正午をし過ぎた頃、茂は自宅へ戻った。
妻の幸子が噌汁と焼き魚を用していた。男の博志は京の学へ通う22歳。の娘・美穂は学へっており、昼のには夫婦しかいなかった。
「今はよく採れた?」
幸子が聞く。
「まあまあだ」
「今週、またのが来るんでしょう?」
「ああ」
茂はいつものように答えた。
そのだった。
居の黒話が鳴った。
幸子が受話器を取った。
「はい、田です」
相は男だった。
「主ですか? 々お待ちください」
幸子は茂へ受話器を渡した。
「誰?」
「分からない」
茂は話にた。
「もしもし」
それから分ほど。
茂はほとんど何も言わなかった。
「ああ」
「……分かった」
「午か」
最にそう言って話を切った。
幸子はすぐ気づいた。
夫の表が、それまでと違っていた。
「どうしたの?」
「何でもない」
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「誰から?」
「ちょっと用事だ」
茂はまだ半分ほど残っている飯をそのままにしてちがった。
「午、てくる」
「農園?」
「いや、内」
「何しに?」
茂は答えなかった。
寝へき、のついた作業着を脱いだ。
紺のズボン。
いシャツ。
普段、平の農作業にはほとんど着ない着。
幸子はますます議にった。
「夕飯までには帰る?」
茂は玄関で靴を履きながら、
「ああ」
とだけ答えた。
午1頃だった。
午2過ぎ。
の入くで、所の女性が茂を見た。
バスの方向へで歩いていたという。
鞄も持っていなかった。
しかし実際にバスへ乗ったかどうかを見た者はいない。
午7。
茂は帰らなかった。
8。
話もない。
幸子は農園へった。
ハウスは閉まっている。
はいない。
佐藤宅へ話すると、
「午は見てません」
という返事だった。
夜10を過ぎても戻らなかった。
翌朝になっても。
その次のになっても。
には通帳が残っていた。
印鑑もある。
着替えもある。
財布のに入れていたまとまった現にもをつけていない。
目。
幸子は警察へ捜索願をした。
「主が自分からいなくなる理由なんてありません」
何度もそう言った。
ところが警察は、の能性を否定しなかった。
成男性。
目った争いの痕跡なし。
自宅から自分のでしている。
「しばらく様子を見ましょう」
刑事はそう言った。
そのの夕方。
幸子が夫の作業着を片づけていると、胸ポケットからさく折った片が落ちた。
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