"昭和63年、消えたいちご農園主――3年後の古い倉庫" 第2話
農作業用のメモだった。
肥料の量や荷予定がかれている。
番に、鉛でだけあった。
《佐藤 今に話す》
幸子は、その文字をい見つめた。
田茂の失踪がへれ渡るまで、はかからなかった。
最初に疑いの目を向けられたのは、佐藤誠だった。
理由はいくつもあった。
失踪当の午、最に緒にいた。
数かにはの貸し借りをめぐって関係が悪化している。
そして本が、
「午9頃、田はでを歩いていた」
と話したのに対し、佐藤は、
「午10までは緒だった」
と言い続けていた。
警察は佐藤を呼んだ。
「5の午、田さんと何か話しましたか」
「仕事の話だけです」
「揉めていませんか」
「揉めてません」
「田さんにを借りようとしたそうですね」
佐藤の表がわずかに張った。
「昔の話です」
「数かでしょう」
「断られただけです」
「腹はちませんでしたか」
佐藤はしばらく黙った。
「そりゃ、しは」
だが、それだけでは何の証拠にもならない。
午のについて佐藤は、
「昼からはにいました」
と答えた。
確認できるのは妻だけだった。
たちはすぐに噂した。
「あいつだろう」
「田にを断られたって話じゃないか」
「証言もおかしい」
ところが警察には、もう、佐藤以に分かりやすい容疑者がいた。
隣の農園主、本孝志。
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田の向かい側でいちごを作っていた、茂と同いの男だった。
はほぼ同じ期に農業を始めた。
最初の頃は資材を貸しい、農協の集まりでも緒に酒をむ仲だった。
関係が変わったのは、田農園が急速に売りげを伸ばしてからだった。
では茂のいちごの方がく売れる。
察に来る農も、田農園ばかりを見る。
本の畑のを通り過ぎ、茂のハウスへ入っていく。
のには、決定な衝突があった。
茂がしいハウスを建てようとした所の境界について、本が抗議した。
「そこはうちのへい込んでる」
「測量ではこっちだ」
「昔から境はここだ」
はで鳴りった。
結局、しいハウスの建設は延期された。
それ以来、はですれ違っても挨拶すらしなくなっていた。
警察は本にも事を聞いた。
「田さんをんでいましたか」
「気にわなかっただけです」
「失踪したの午9に見た?」
「見ました」
「どこへくようでした?」
「りません」
「午は?」
「自分の畑にいました」
証はいない。
それでも本には、自分の農園から茂の農園のきが見える。
しかも茂が消えれば、商売のきな競争相が減る。
疑われる理由は分にあった。
さらに目。
茂の兄・田茂雄。
京でさな堂を営んでいた。
兄弟は、父親の遺産をめぐって揉めている。
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父が残したを本来なら兄弟で分けるはずだった。
ところが茂は、農園の運転資が必になり、兄へ分に相談しないままを売却した。
「あとで必ず埋めわせる」
弟はそう言った。
だが兄は納得していなかった。
失踪のらせを受けて京から来た茂雄は、幸子へ言った。
「あいつ、俺に何も言ってなかったのか」
「何を?」
「のことだよ」
幸子の顔が曇る。
茂雄は慌てて首を振った。
「借ってじゃない。親父のの分だ」
「まだ返してなかったんですか」
「部だけだ」
幸子は初めてった。
警察も兄を調べた。
だが失踪当、茂雄は京のにいた。
昼も夜も客と従業員が見ている。
なくとも本が成田へ来ていた能性はかった。
「5に弟へ話しましたか」
刑事が聞いた。
「してません」
「最に話したのは」
「かくらいです」
あのの正午。
茂へかかってきた本の話。
幸子が聞いたのは男の声だけ。
誰だったのかは分からない。
当、現のように庭の話で簡単に発信者を確認できるものではなかった。
佐藤か。
本か。
兄か。
それとも、とは全く別の誰かなのか。
失踪から週。
警察は農園周辺をもう度確認した。
だが争った痕跡はない。
血痕もない。
茂の所持品もない。
そして、
「自発な失踪の能性がい」
という見方がくなっていった。
幸子は納得しなかった。
「だったら、どうして通帳も着替えも置いていくんですか」
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