"昭和63年、消えたいちご農園主――3年後の古い倉庫" 第9話
きくするつもりもなかった。
「続けられるだけでいい」
博志は母へそう言った。
幸子も賛成した。
度、族は農園を放すことも考えた。
ここにいると夫をいす。
事件をいす。
しかし逆でもあった。
茂が朝5にけたハウス。
何度も失敗して育てたいちご。
族で箱詰めした夜。
そこにあるのは事件の記憶だけではない。
だから残した。
本は事件しばらく、から距を置かれた。
犯ではなかった。
しかしの異変をりながら黙っていたことは広くられた。
ある。
本は田へ来た。
幸子のでをげた。
「すみませんでした」
「……」
「俺がにを掘っていれば」
幸子は彼を見た。
本の髪は、よりずっとくなっていた。
「どうして掘らなかったんですか」
「怖かった」
本は正直に答えた。
「田と喧嘩してた。俺の倉庫だった。何かてきたら、絶対俺が疑われるとった」
「それで、うちのをあそこに?」
本は何も言えない。
幸子は腹がった。
だが同に、今さら何を言っても夫は戻らない。
「もういいです」
「でも」
「許したわけじゃありません」
本が顔をげる。
「ただ、これ以その話で毎暮らしたくないんです」
幸子はそう言った。
忘れることとは違う。
許すこととも違う。
事件以のをきたい。
それだけだった。
京にむ兄・茂雄も、そのは以より頻繁に田へ来た。
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美穂の学費をし助けた。
博志の農園にも、堂で使ういちごを注文した。
「きてるにやればよかった」
ある、仏壇ので言った。
「弟に」
幸子は何も返さなかった。
悔する者ばかりだった。
あの、
もう言話していれば。
もうし聞いていれば。
警察へ言っていれば。
掘っていれば。
誰もを戻せなかった。
事件からさらにが過ぎた。
佐藤の妻は裁判、をった。
どこで暮らしたのか、幸子たちはらなかった。
夫の罪をらなかった。
けれど夫が逮捕された、同じに暮らし続けることはできなかった。
彼女もまた、事件によって活を失っただった。
本の古い倉庫は完全に取り壊された。
も基礎も撤され、しばらくは何もない更になった。
数には雑がえた。
さらにが経つと、その所に昔何があったのからないも増えた。
田農園は博志がく守った。
規模な農園には戻さなかった。
へ量にすより、元で買ってもらうことを選んだ。
幸子も齢になるまで、になるとハウスへた。
腰がってからも、子に座っていちごのへたを取るくらいは伝った。
美穂は学卒業、京で就職した。
正と盆には帰省し、父の墓へ必ず寄った。
ある。
美穂が自分の子どもを連れて墓参りに来た。
学になった孫が聞いた。
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「おじいちゃんって、いちご作ってたの?」
幸子は頷いた。
「そうよ」
「だった?」
「とてもね」
「僕、会ったことない」
「そうね」
幸子は墓を撫でた。
孫には事件の詳しい話をしなかった。
いつかるかもしれない。
でも今、最初に覚えてほしいのは、
「方になった」
でも、
「事件の被害者」
でもなかった。
朝く起きて、
ハウスの温度を見て、
粒ずつ赤いいちごを育てていた。
それが田茂だった。
事件は、のを最のだけで説してしまう。
幸子はそれが嫌だった。
昭6345。
確かにあの、夫のは突然途切れた。
午1。
話が鳴った。
夫は事を残した。
着替えた。
「夕飯までには帰る」
そう言った。
そして帰らなかった。
、族はそのだけを何度も考え続けた。
けれど夫には、そのに46のがあった。
子どもを育てた。
父親と喧嘩した。
兄とも揉めた。
農業で失敗した。
借を配した。
初めていちごがく売れたにんだ。
から帰る途、族へ菓子を買ってきた。
そういうも全部、田茂だった。
幸子がを越えた頃。
農園の角に残っていた古いハウスを理した。
夫の使った具もほとんど処分することになった。
錆びた鋏。
温度計。
箱。
そのから、冊のさな帳面がてきた。
昭63の栽培記録だった。
失踪のページ。
《44 れ》
温度。
収穫量。
荷箱数。
そのに、
《美穂、来受験。博志も来卒業。
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