みかん小説
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"夫と実母に裏切られたので、静かに二人との縁を切りました" 第1話

「あなたが婚すれば、全部丸く収まるのよ」

湯呑みからちるい湯気の向こう側で、実の母・静(しずか)は、眉ひとつかさずにそう言い放った。 歳。髪交じりの髪を綺麗にえ、品なのカーディガンを羽織ったその姿は、所の誰もが「穏やかで優しいお母さん」と信じて疑わない老女そのものだった。 だが、その細められた瞳の奥に宿っていたのは、慈などではない。自らの全な巣穴を守るためなら、腹を痛めて産んだ娘の喉元にさえ平然と刃を突きてる、剥きしの自己保だった。

リビングの対面に座る夫・直(なおと)は、が物顔で黒革のソファにく背を預け、嘲笑を浮かべていた。 歳。堅専商社で営業課を務める男の胸元には、すでに緩められたシルクのネクタイ。テーブルのに投げされたスマートフォンが、く振を繰り返している。画面に瞬だけ浮かびがった通――『今夜は奥さんとちゃんと話せた?♡』という、職の若い女からのメッセージ。

「……丸く収まる?」 織(かおり)――歳、医療器具メーカーの主計課でにわたり帳簿と伝票を睨み続けてきた女の喉から、掠れた声が零れ落ちた。 「お母さん、本気で言ってるの? 直が会社の輩と倫して、私を追いそうとしてるのよ? 何であなたが、裏切った夫の側にって、私にてけって命令するのよ!」

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「騒がないで頂戴、みっともない」 静はそうに線を逸らし、めかけた茶を啜った。 「直さんから全部聞いたわ。もう夫婦としてのはえ切っているんでしょう? 男のがにらぎを求めるのは、庭に隙があったあなたにも責任があるんじゃないの? それにね、織。直さんは本当に義理堅いよ。『婚したも、お義母さんのむ部の賃は俺が全額面倒を見ますから』って、をげて約束してくれたのよ」

織の界が、真っに滅した。 指先から急速に血の気が引き、臓が肋骨の内側を激しく乱打する。

に父を見送り、古い造の実を更にして売却させた、暮らしの母を案じて呼び寄せたのは織だった。 齢で暮らしの単者には、賃貸宅の審査の壁はあまりにもい。だからこそ、企業で定した勤続数を持つ織が【賃貸契約者】となり、敷も礼も全額織の独代の貯から排し、額万円の賃のうち万円を夫婦の計から援助する形で、駅の適な築マンションのを与えていたのだ。 直も当は「お義母さんも細いだろうから」と、理な娘婿の笑顔を浮かべて賛成してくれたはずだった。

「織は昔から際もいいし、会社の経理ででべていけるだけの料もあるでしょう?」

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静は諭すような、猫撫で声を作ってを乗りしてきた。 「でも私は違うの。今さらあのアパートを追いされたら、私、きていけないわ。直さんが賃をしてくれるって言ってくれているのに、あなたがを張って婚を拒んだら、直さんの会社でのも悪くなって、私のむ所まで失われちゃうじゃないの。ねえ、の対応をしなさい。あなたがを引けば、誰も傷つかずに済むのよ」

誰も傷つかない。 その「全員」のに、庭を支え、母の活の台を作り続けてきた娘のだけが、最初から綺麗に消されていた。

「聞いたろ、織」 直がを鳴らし、テーブルの央へ枚のを滑らせた。 緑の枠線が印刷された用。 すでに夫の署名と捺印が済まされ、ご丁寧に証欄には直の同僚名のサインまで揃えられた、完成済みの婚届だった。

「今さら騒いでも無駄なんだよ。お義母さんだって俺の方なんだ。おが泣き叫んで調だの裁判だの持ちしても、誰も方なんてしてくれないぞ。素直に判を押して、今週にてけ」

織は、テーブルのの緑のを見つめた。 が交わした裏切りの握。その絶対な悪のさに、涙すらなかった。 ただ、徹な数字の世界できてきた経理職の脳の片隅が、極めて静かに、ある決定な「事実」

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