夫の不倫を知った香織に、実母・静が突きつけたのは慰めではなく、「あなたが離婚すれば丸く収まる」という残酷な言葉だった。母は、自分が暮らすマンションの家賃を今後も払うという夫の約束と引き換えに、娘を切り捨てたのだ。 十七年間信じた夫と、長年支えてきた母。二人の密約を知った香織は、その場で離婚届に判を押し、母とも絶縁する。そして自分名義だった母の部屋を解約し、家族を支えてきた金と信用を静かに引き揚げていく。 ところが七日後、元夫の代理人弁護士から一本の電話が入る。夫は香織の同意を偽り、離婚後も彼女に契約責任を背負わせようとしていたばかりか、亡き父から相続した預金にまで手を伸ばしていたという。 消えた三百万円、不倫相手と設立された会社、そして母がどうしても香織名義の部屋を手放せなかった理由。裏切った二人が守ろうとしていた秘密を調べるうち、香織は、夫と母さえ互いの本当の目的を知らないまま手を組んでいたことに気づく。 娘を犠牲にすれば、すべて丸く収まるはずだった――。しかし香織が契約と通帳を一つずつ整理し始めた瞬間、その歪んだ同盟は内側から崩れ始める。