みかん小説
本棚

"夫と実母に裏切られたので、静かに二人との縁を切りました" 第3話

母の静が、目に見えてパッと表をるくした。 「そうよ、それでいいのよ! やっぱり私の育てた子ね、聞き分けが良くて助かるわ。これで本当に、みんなが幸せになれるのよ」

直もまた、堵の息をく吐きし、勝ち誇った笑みを隠そうともしなかった。 「へっ……最初から素直に従えばいいんだよ。慰謝料だ財産分与だの喚かれたら面倒だったが、おも自分のが分かったようだな。引越し費用くらいは、切れとしてしをつけてやってもいいぞ」

織は何も答えず、戸棚の引きしから黒の油性ボールペンと、朱肉を取りした。 緑の用の【妻】の欄。 『織』 迷いのない致で署名し、旧姓の認印を力く押し込む。朱の円が、い面に鮮血のようにくっきりと刻まれた。

「満かしら」

「ああ、来だ」直は用を奪い取るように引き寄せ、印を確認した。「、俺が社に役所へしておいてやるよ」

「いいえ。まで待つ必はないわ」 織はちがり、机のの婚届の原本をサッと元へ引き戻した。 「今夜、これから本庁の夜受付窓へ持っていくわ。今の付で、完全に終わらせましょう」

「は……? 今からかよ?」 直が呆気にとられた声をげる。

「ええ。顔も見たくない男と同じ根ので、秒でもく夫婦でいるなんて耐えられないもの。

広告

……直、私が役所から戻ってくるまでに、あなたの私物はすべてまとめててって。ここは私の勤め先の借社宅規定を使っている部よ。契約者は私。てくのは、あなたよ」

「チッ……言われなくてもてくよ! 美咲のマンションに転がり込むだけだからな!」 直は吐き捨てるように言い、寝へと荷物をまとめに向かった。

織はコートを羽織り、玄関へ向かった。 背から、母の静が恐る恐る声をかけてくる。 「あの……織? 私の部の賃のことだけど、来からの引き落とし座、直さんの座に変更する続きが必よね? 類はどうすればいいのかしら?」

靴を履きながら、織は振り返りもしなかった。 「そんなこと、しい『息子』さんに相談すればいいじゃない。私にはもう、関係のない話よ」

「ちょっと、織! 何その言いは! 親に向かって――」

バタン。

い防音扉を乱暴に閉め、夜のたい空気のへびした。 の夜が、を持った頬をやしていく。 最寄りの区役所までは、徒歩で分。 灯のをで歩く織の取りは、議なほど軽やかだった。

夜通用の暗い窓。 眠たげな当直の警備員と宿直職員に、完成した婚届を提する。 「備はありませんね。織さん、本付で受理いたします」

械な受領印の音。 積みげてきた婚姻関係が、わずか数分で、法なへと変わった瞬だった。

広告

自宅マンションへ戻ると、直のゴルフバッグや型のスーツケースは、すでに忽然と消え失せていた。 ただ、リビングのテーブルのに、母が持参した産の菓子の袋だけが、ポツンと取り残されていた。

織はスマートフォンを取りした。 そして、画面の操作を切ためらうことなく、直と母のの話番号、LINE、ショートメッセージを、すべて【着信拒否・ブロック】に登録した。

「さようなら。……私のから、綺麗さっぱり消えてちょうだい」

翌朝、、曜。 織はいつも通りのに起し、丁寧にメイクを施し、アイロンのかかったシャツを着て社した。

経理部のフロアでは、誰として織が昨夜婚したことなど気づいていない。 卓を叩く音、キーボードの打鍵音、次決算の数値を読みげる同僚たちの声。 その無質な常の歯のにを沈めているだけが、胸の奥底で渦巻く喪失から逃れられる唯のだった。

しかし、昼休み。社員堂の喧騒をれ、のベンチに座った織の指先は、帳のいページのでさく震えていた。 『緊急連絡先:直(夫)』 『第連絡先:静(実母)』 社内システムに登録されている族報。 命保険の受取。 座の代理カード。

かけて編みげてきた「族」

という名のセーフティネットが、今朝から完全に消滅したのだ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: