"空の米びつと一合の嘘" 第2話
りない袋
受領帳は、使い古したそろばんのからてきた。フミが隠すように押さえたため、千枝はかえって確信をめた。「見せられへん理由があるんやろ」。しかし表をいた勇が目にしたのは、客の名と数、交付した量が几帳面に並んだ記録だった。赤鉛で直した跡まであり、父の代から続くのにしては、むしろ異様なほど丁寧にかれていた。
千枝が自分のの欄を指した。「この数字、受け取った量になってる。ほんまはなかったのに」。フミは答えなかった。「印は私が押した。袋を渡されるに押して言われたから」と千枝が続ける。列にいた女たちも斉に帳面を覗き込んだ。どの庭も、指定された量を確かに受け取ったことになっている。おそらく誰かがしずつ米を抜いている。々はますます声を荒らげた。
勇は帳面のろに挟まれていた納入の控えを見つけた。配所へ米を運んだ倉庫の名、袋の数、伝票の量がかれている。「お母ちゃん、この数字だけ見ると、客へ全部渡せるはずや」。フミは「そうや」と答えた。「せやったら、らん米はどこへった」。フミは勇の目を見て、「うちへ運ばれてきたには、もうらんかった」と言った。
客たちは瞬静まった。千枝が先にをく。「そないな事なこと、なんで黙ってたんです」
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。フミは唇を舐めた。「届けに来たに言うた。けど、帳面には決められた数がある。次を待て、言われたんです」。千枝は震える声で返した。「待ってる、うちらの子は何べたらええの」。その問いには、誰も答えられなかった。
混乱を聞きつけて、町内会の世話役・清蔵がやって来た。代半ばで、戦争から町の配の続きを伝ってきた男だった。背広の襟を正し、帳面を見るなり「こんなところで見せうもんやない」と言った。勇が「りない袋のことで話を聞きたい」と頼むと、はを尖らせた。「役所の続きを疑うんか。運んできた量は伝票どおりや。らんかったらが管理せなあかん」。
「ほな、倉庫で量り直した記録を見せてください」。勇が言うと、の目が細くなった。「荷役の仕事をしてるから、偉そうに言えるんやな。おのとこの配所、取り消しになったら困るんと違うか」。客のいるでの言い方だった。フミは急いで勇の袖を引いた。「もうええ。今は引き取ってもろて」。勇は母のを振りほどかなかったが、の顔を忘れないよう見つめた。
その晩、千枝は空の鍋を持って再びへ来た。子どもたちの夕飯を作ろうとしたが、りなかったという。「余分にくれとは言いません。ただ、帳面にいた分と違うなら、どこが違うかはっきりさせてください」
。フミは台所へ案内し、残っていた麦を握り、千枝の鍋へ入れた。「の米やない。うちの分や」。千枝は受け取らず、「けをもらいに来たんちゃいます」と言い、鍋を持ってた。
勇は荷役へ向かった。米の荷を運ぶ友の正吾がまだ働いているはずだった。正吾は倉庫で使う秤の古さも、米袋がに濡れたの扱いもっている。「帳面では満ちとるのに、運ぶたびに減るなんてあるか」。勇が聞くと、正吾は周囲を見て声を落とした。「あるかないかは、いつ、誰が量ったかを見んと分からん」。そして付け加えた。「さんのへ運ぶだけ、途で度止まるのを見たことがある」。
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