"空の米びつと一合の嘘" 第14話
値札のない
の米が閉まってから、通りのは目に見えて減った。のの空きで子どもが遊ぶようになり、かつて米を求めるが列を作った朝がいことのようにじられた。フミは米を量る枡を布に包み、棚の番へしまった。の再の見込みがたない以、毎掃除をしても米が戻るわけではない。それでも朝になると戸をけ、を掃いた。
勇は荷役へ戻り、しずつ賃をへ入れた。しかし調査に関わったことがれ、仕事仲の態度は変わった。「そのうち米の運び仕事まで止まるんやないか」と言う者もいた。勇は言い返さなかった。みんな族をべさせるために働いている。危険を避けたいとうを責めても、責任のありかは見えてこないからだ。仕事が終われば帳面の写しを理し、佐野から届くいを待った。
フミは空いた先で、古い鍋や籠の修理を請け負い始めた。夫がきていた頃、隣所から頼まれていたさな仕事だった。籠の縁を編み直し、鍋の柄を付け替え、代として芋や薪をもらうこともある。ある、千枝が破れた布袋を持ってきた。「これ、直してもらえますか」。フミは驚き、すぐに受け取った。千枝は「仕事の代は払います」と言った。「米の話とは別にしてもろうてええですか」
広告
。フミは縫い目を確かめながらうなずいた。
そんなある夕方、部がでへ来た。以のような派な背広ではなく、袖をまくりげていた。「うちも調べられとる」。フミが「米のことですか」と聞くと、部はうなずいた。「学の記録とわん分を、どう説するか聞かれてる」。彼はのに座り、「商売を始めた頃は、正しい続きだけでやっていけるとうてた」と言った。フミは何も答えなかった。同を求める話なら、聞くつもりはなかった。
部は続けた。「事の炊事へ米を回せと言うたのは、だけやない。役所ののもってた」。フミは顔をげる。「名は?」。部は首を振った。「まだ言われへん。自分の帳面まで全部さんといかんから」。フミは静かに返した。「それなら、まずご自分の帳面をしてください。私もしました」。部はしばらく彼女を見つめ、ちがった。「あんたに説教されるとはわんかった」。フミはをげた。「その通りです。私も様の米をなく量りました」
部がったあと、澄が先へてきた。「お母ちゃん、あの、またを置いていくかとうた」。フミは「今度は受け取らへん」と言った。澄は母に針と糸を渡した。「私、から学の帰りにの伝いする」。フミが「勉を続けなさい」と答えると、澄は首を振った。
「辞める言うてへん。お母ちゃんだけで何でも決めんといて、私にも仕事を選ばせて」。フミは初めて娘の顔をまっすぐ見た。いつまでも子どもだとっていた澄は、もう自分の考えを持っていた。
その晩、勇は部が話したことを聞き、職のさな組事務所を訪ねた。そこでりいの者に相談すると、「配の扱いは詳しい者へ聞け。の飯を取りげれば正義やとうな」と釘を刺された。「るのは、誰が決め、誰が利益を得たかをらかにすることや」。勇はその言葉をき留めた。正しさを主張するのは簡単だが、それによってべられなくなる別の誰かの顔を像するのは難しかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 0 -
完結第22話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 52 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 61 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 43 -
完結第22話
一等くじの切れ目
昭和三十五年の暮れ。五人の子を育てる田村和子は、商店街の福引で念願の電気洗濯機を引き当てた。冬の冷たい水で毎日洗濯をする彼女にとって、夢のような幸運だった。ところが、くじの角に不自然な切れ目を見つけた和子は、景品を受け取らず抽選箱の確認を求める。その日から町には悪い噂が広まり、夫の仕事にまで影響が及び始めた。さらに、姿を消した文具店の少年が深夜に現れ、娘の美津に関わる秘密を告げる。時代|歴史|昭和2.8万字5 16