"空の米びつと一合の嘘" 第19話
の言い分
の説を聞く会がようやく設けられたのは、がけてからだった。調査がむ、彼は町内会の世話役の仕事からされていた。以ならで番よく話していた男が、そのは机の端に座り、子を膝に置いていた。勇と千枝、佐野も同席し、担当者が古い名義の伝票と米の移について質問した。
は最初、戦の混乱を繰り返し説した。「枚枚正しくしてたら、米が届かんもる。急ぎの事で働くにべさせなあかん。類はあとで直せばええとうた」。担当者が代の記録を示すと、は瞬詰まった。「部の商会が集めたです」。しかし帳面には、の名で受け取った分があった。「あれは諸費用や」。そう答えた声はよりさかった。
勇は男を見つめた。の言葉には、嘘ばかりではなく、事実の部が混じっていた。米がりず、事のもべ物を必としていたことは本当だ。配事務の続きが煩雑だったこともそうだろう。しかし必だからといって、の割当てを勝に所へ回し、あとで類をわせてよいことにはならない。「事のへ必なら、どうして正規に申しなかったんです」。勇が聞くと、は「にわんかった」と答えた。
「その、何かも続いたのに?」。千枝が問いかけた。
広告
彼女は子を背負って役所へ通ったをい返していた。りないと訴えた、は「女衆は細かいことを気にしすぎる」と笑った。その男が今は「続きが難しかった」と説している。千枝は膝ので拳を握り、途で話を遮らず、最まで答えを待った。は目をそらした。「最初に違えたら、次を正しくするためには最初の違いを認めなあかん。わしは、それができんかった」。その言葉にはしだけ実があった。勇は母の顔をいした。フミも同じように、最初の回を認められず、次の回もなく渡した。違うのは、がそのに米をかし、を受け取った疑いまであることだった。
佐野は帳面の枚をにした。「このの訂正、係の承認を受けて私がきました」。担当者が「あなたも正だとっていましたか」と聞くと、佐野は「りなくなるがるとはいました。でも、命令されたからと押しました」と答えた。は何か言おうとしたが、言葉をみ込んだ。佐野は続けた。「その、止められるではないとうてました。でも、ここで全部ののせいにしたら、私はまた同じことをします」
フミは聞き取りの最につだけ尋ねた。「義助の名を使ったのは、誰の考えですか」。はい黙った。「古い名義が残ってたから、係が使える言うた」
。フミは「義助さんは、名義を貸すことを嫌がってました」と答えた。父の名をにされた勇は胸が詰まった。は子を握り、「っとる」と言った。「だからきてるは、使わせてもらえんかった」。
聞き取りが終わると、はフミにをげた。「すまんかった」。フミはすぐに返事をしなかった。代の扱いを含む調査は続いており、この言で責任が消えるわけではない。やがて「私にも謝らんといかんがたくさんいます」と答えた。は顔をげたが、フミは続けなかった。それ以の言葉をせば、自分まで謝罪を受けてしてしまいそうだったからだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 0 -
完結第22話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 52 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 61 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 43 -
完結第22話
一等くじの切れ目
昭和三十五年の暮れ。五人の子を育てる田村和子は、商店街の福引で念願の電気洗濯機を引き当てた。冬の冷たい水で毎日洗濯をする彼女にとって、夢のような幸運だった。ところが、くじの角に不自然な切れ目を見つけた和子は、景品を受け取らず抽選箱の確認を求める。その日から町には悪い噂が広まり、夫の仕事にまで影響が及び始めた。さらに、姿を消した文具店の少年が深夜に現れ、娘の美津に関わる秘密を告げる。時代|歴史|昭和2.8万字5 16