"空の米びつと一合の嘘" 第21話
の勘定
先、担当者からしいらせがあった。適切な移や代処理について、関係した々の責任をそれぞれに確認し、必な措置をめるというものだった。のの問題も別に扱われ、客へなく渡した分の確認が続くことになった。勇は「これで終わりですか」と聞いた。係員は「終わりではありません。残っている記録をさらに確かめます」と答えた。勇はその言葉を、今度は急かさず受け止めた。何かを問いただせばそののうちに答えが返ると、若い頃の彼はっていた。しかし古い帳面を枚ずつ確かめるにも、民は毎の米を必としている。だからこそ、調査の方を見守る仕事と、今の配を正しく渡す仕事を、分けて続けなければならないと考えるようになった。
フミは何かも続けた修理仕事の帳面をいた。古い鍋の柄、籠、布袋、戸のれた蝶番。受け取ったと使った材料の代が並び、利益と呼べるほどの額は残っていない。それでもさな封筒のには、分への返済に充てるがしずつ増えていた。千枝を含む庭のには、主の量が確認できた分を分割で受け取ることに同したところもある。すぐに返してほしいについては、別途相談を続けた。
ある、田所トキが信を連れてやって来た。
広告
トキは窓での続きをね、孫たちと暮らす所の記録をえつつあると言った。「私の印を使うて米をかしたこと、ちゃんと話してきました」。フミはをげた。トキは「フミさんも怖かったんやろ」と言った。フミは首を振る。「怖かったです。でも怖いからいうて、様の印を勝に受け取ったことにしたらあかん」。トキは黙り、それから「そうやな」と答えた。
信は机のに置かれた古い枡を見ていた。「これで量るん?」。フミはうなずき、空の枡を渡した。「軽いな」とが言う。フミは笑った。「米を入れたらうなる」。信は枡の縁を指でなぞった。「ばあちゃんは、毎ちょっとでも米があればええ言うてた。でも、ここに入るほどの米がなかったもある」。その声を聞き、フミはから目をそらさなかった。「あった米を、きちんと渡さへんかったもおった。私もそのや」
フミは奥の棚に置いてある受領帳の余へ、今トキが来たことと、確認の続きについてき加えた。以ならに見せたくない事柄を帳面のへ置いただろう。今は曖昧なままにしないためにく。い記録が、次のに自分の言葉を裏切らないようにするためだった。
勇が帰ってくると、信は古い聞で包んださなものを差しした。には、割れたの印がつに分かれたまま入っていた。
「ばあちゃんが、もう使わんようになったから返しに来た」。勇は受け取らず、「それは田所さんのもんや。記に残しといたらどうや」と言った。は首を振る。「忘れへんためには、残しとく方がええんかな」。勇はし考え、「残してもしまっても、忘れへんことはできる」と答えた。
そのの夕飯は、麦の混じったご飯と根の煮物だった。以よりしだけ量が増えていた。弘が箸を持って「今はおかわりある?」と聞く。フミは鍋を覗き、「ずつなら」と答えた。澄が先に自分の椀をすと、弘は「姉ちゃんはええん?」と尋ねた。澄は笑って「私もべるで」と言った。誰かがして族を満たすのではなく、皆で鍋を覗いて分ける。それだけのことが、のでしばらくできなくなっていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 0 -
完結第22話
義両親をこき使う伯父に、嫁の私が反撃した日
法事の席で、義父母は親戚から召使いのように扱われ、会食代まで余分に払わされそうになっていた。八年間その光景に耐えてきた奈央は、夫の健太に「私、やり返してもいい?」と尋ね、ついに伯父へ反論する。伯父が振りかざすのは、二十四年前に義父母を救った二百万円の「恩」。しかし、その借金は十八年前にすでに完済されていた。古い家計簿と振込票が明かす義父母の苦労。そして押入れから見つかった業務日誌には、伯父の会社の創業にまつわる、誰も知らなかった過去が記されていた。長年の屈辱に終止符を打つため、家族はついに立ち上がる。裡切られた|怒り|兄弟姉妹|嫁姑|第二の人生|金銭問題2.2万字5 52 -
完結第18話
4億円の私の家を義弟に譲る義母――夫の一言で凍りついた古希祝い
義父母が住む場所を失った十五年前、黒田彩は自分名義の家を無償で貸した。ところが義母・文子の古希祝いで、突然「あの家は次男の公平に譲る」と宣言される。親族が賛同する中、普段は母親に逆らえない夫が立ち上がり、衝撃の事実を告げた。しかし義母は、彩が昔書いた一通の手紙を持ち出して反論。因果応報|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|金銭問題2.0万字5 61 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 43 -
完結第22話
一等くじの切れ目
昭和三十五年の暮れ。五人の子を育てる田村和子は、商店街の福引で念願の電気洗濯機を引き当てた。冬の冷たい水で毎日洗濯をする彼女にとって、夢のような幸運だった。ところが、くじの角に不自然な切れ目を見つけた和子は、景品を受け取らず抽選箱の確認を求める。その日から町には悪い噂が広まり、夫の仕事にまで影響が及び始めた。さらに、姿を消した文具店の少年が深夜に現れ、娘の美津に関わる秘密を告げる。時代|歴史|昭和2.8万字5 16