"昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇" 第23話
の覚え方
翌の、沖縄のが側通に変わってから、まもなくになろうとしていた。清徳は還暦まであと数の歳になり、昔ほど朝く目が覚めることをありがたくわなくなった。それでも勤にはきちんと制をえ、節子の作る朝をべて庫へ向かった。窓のではいつもの通り、がの側をっていた。
のことを、町の々はそれぞれの形で覚えていた。をけるのが遅れた、病院へきそびれそうになった、しい標識に驚いた子ども。誰かにとっては苦労したであり、別の誰かにとっては歴史のきな節目だった。清徳にとっては、台のバスをさなかった朝として残っている。
丘丁目の乗所は、そのも使いながら見直しが続けられた。まるの位置や案内の文字、歩くのき。がればのの便があり、差しがければの待ちが問題になる。すべてが度に理通りになったわけではない。しかし困りごとを伝える相と、確かめ直す順は以よりはっきりしていた。
ある、清徳が昼の便を終えると、営業所のに誠がっていた。誠は再び運転の仕事を続けていたが、以よりも発の確認にをかけるようになっていた。
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仲にからかわれることもあったという。だが誠は「きょうも無事に帰ってきました」と穏やかに笑った。清徳はく「お疲れ」と答えた。それ以の派な言葉は必なかった。
苗は相変わらず忙しかった。話帳の余に始まった記録は理され、営業所で共する連絡表へ変わっていた。しく入った事務員にも、留所に関する問いわせの聞き方を教えている。清徳が「随分偉くなったな」と冗談を言うと、苗は「やっとの話を聞くを仕事と認めてもらえたんです」と笑った。その笑い声に、事故のの張りつめた顔はもうなかった。
平はの仕事を続けていた。父に図面を見せる、以のように専の数字だけを並べることはなくなった。現の写真を広げ、ここを寄りが歩けばどうなるか、のに子どもがてばどこが危ないかと尋ねる。清徳もすぐに結論をさず、分からないことは緒に現で確かめようと答えた。親子の会話が増えたのは、事故のしさだけが理由ではない。互いの仕事をろうとするが増えたからだ。
休みに入ったある朝、丘丁目から浩がバスに乗ってきた。父親の勝が付き添い、は運転席へさく会釈した。はもう普段の活に支障のないほど回復しているという。
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清徳は笑って「おはよう」と返したが、あののことを忘れたようには振るわなかった。乗客が全に座るまで待ち、扉と周囲の様子を確かめる。そのつつが、と族に対する自分の答えだとった。
バスが坂をり始めた、浩が窓のを指さした。「お父さん、見て。あそこ、はバスだったよね」。勝は頷いた。「そうだよ。今はこっちから乗るんだ」。浩はしばらく景を見ていたが、やがて運転席へ向かって言った。「おじさん、今はちゃんとだね」。清徳はわず笑った。「ああ。今もちゃんとだよ」。
その、内では特別な拍も起きなかった。客は聞を読み、子どもは窓を見つめ、誰かが次の留所でりる準備を始めた。清徳はいつものように速度を落とし、側の歩へを寄せた。扉がく先には、危ないではなく、がつための所があった。確かめてから、扉をいた。
――昭。沖縄のがをり始めた朝、清徳は満員のバスをさなかった。その判断だけではを守り切れなかったことも、彼は忘れないだろう。だからこそ次の朝も、また次の朝も、るに確かめる。の向きだけでなく、がどこへをすのかを。
※本作は、に沖縄で交通方法が側通から側通へ変更された歴史事実を背景とする創作説です。
島交通、垣清徳をはじめとする登物、事故、運経緯、留所をめぐる来事は架空のものです。実際の沖縄県内の交通事業者や当の個別事故を記述したものではありません。
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