"母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景" 第7話
のもとに晒された罪
息子の告によって、幸恵が信じていた世界は完全に崩壊した。
だが、というものは、抱き続けたプライドをそう簡単には放せない。
幸恵は青ざめた顔で、なおも震える指先をの胸元に突きつけた。
「で、でも……! 婚したのは、奈津美さんが勝にをていったからでしょう!? 都会の暮らしを捨てて、田舎に戻りたいって儘を言ったからじゃないの! それなら、やっぱりこの子が悪いんじゃない!」
幸恵にとって、これだけは絶対に譲れない最の防線だった。
嫁が勝だったから庭が壊れたのだと、そうい込まなければ、自分たちがやってきたことのすべてが「悪」になってしまうからだ。
しかし、は力なく首を振った。
その瞳には、もはや言い訳を探す気力すら残っていなかった。
「違うよ、母さん。……奈津美を追いしたのは、俺たちだ」
「な……何を言ってるの……?」
「俺が、奈津美のお母さんのを担保にして会社の事業に使おうとしたんだ。奈津美にもお義母さんにも内緒で、会社の司に『使えます』って見得を切ったんだよ」
幸恵の目が泳いだ。
「で、でも……担保に入れたわけじゃないんでしょう? 族なんだから、し恵を絞って融通するくらい、当たりじゃないの!」
「母さんだって、あのお義母さんのを『いずれ川の孫のものになるんだから、今から自由に使わせろ』って言ったじゃないか!」
広告
の痛烈な叫びが、幸恵の言葉を遮った。
「俺は、母さんが奈津美の実をどれだけ侮辱しても、度も本気で止めなかった! から奈津美に『母さんは悪気がないんだから』って言い訳して、ごまかしてばかりいた! 自分の母親の暴を止める勇気もなくて、妻を守る気概もなくて、ただ自分がいい顔をしたかっただけなんだ!」
は膝から崩れ落ち、を帯びたアスファルトに両をついた。
「奈津美が嫌気がさして当然だったんだよ! 俺たちが踏みにじったんだ! あいつの尊厳も、族の誇りも、全部俺たちがぶち壊したんだ!」
蝉の声が、ピタリと止んだようにじられた。
幸恵ののが、真っなに包まれていく。
見していたはずの嫁。
「ビニールの」と嘲笑った畑。
その所で、奈津美は堂々と々から必とされ、自分たちの像もつかないみできていた。
それに引き換え、自分たちはどうだ。
息子の虚栄に便乗し、の切なを奪おうとし、勝な優越に浸りながら、落ちぶれた元嫁の姿を嗤うために、わざわざをらせて見物に来た。
その浅ましさ。醜悪さ。
「あ……ああ……」
幸恵の喉から、声にならない乾いた呻きが漏れた。
界がぐにゃりと歪み、周囲のビニールハウスが、巨ない波のように押し寄せてくる。
「母さん? おい、母さん!」
の焦った声が、底から響くようにざかっていく。
幸恵のから、傘が音もなく滑り落ちた。
膝の力が抜け、体が宙に浮いたような覚の、幸恵の識は暗いのへと沈んでいった。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 12 -
完結第14話
金髪の女子高生に、娘が「ねえね」と手を伸ばした
「ねえね」——1歳10か月の娘が手を伸ばしたのは、金髪にピアス姿の女子高生だった。妻を亡くし、実家で娘の紬を育てる26歳の挿絵画家・湊。思わず娘を抱き寄せた彼とは対照的に、少女・凛は頬を赤くして「可愛い」とつぶやく。それから買い物帰りに顔を合わせるようになり、凛は父娘の日常に少しずつ溶け込んでいく。ところがある夕方、湊は公園で泣いている彼女を見つける。紬が差し出したのは、亡き母から贈られた大切な白いうさぎ。そして凛のかばんにも、古びたうさぎが入っていた。描きかけの絵本に隠された夢と、母親に言えなかった思い。話を聞こうと隣に座った湊自身もまた、誰にも打ち明けられない寂しさを抱えていた。感動|人生逆転1.7万字5 1 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 43 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 44 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 66 -
完結第15話
年収三千万円の嘘
41歳の内科医・相沢まりなは、家事と育児を任せていた専業主夫の康太が、息子のサッカークラブの保護者・美沙と親密な関係になっていたことを知る。しかも二人は、子どもたちを置き去りにして密会を重ねていた。息子を守るため離婚を決意したまりなのもとに、ある日、美沙から再婚式の招待状が届く。驚いたことに、康太は自分を「年収3000万円の医師」だと偽っていた。元妻を見下し、披露宴で祝辞まで読ませようとする美沙。招待を受けたまりなは、いったい何を語るのか。夫婦|第二の人生|不倫2.6万字5 92