"金髪の女子高生に、娘が「ねえね」と手を伸ばした" 第5話
べてから帰りなさい
「お母さん」
凛は、画用のの子どもを見つめたまま答えた。
「学のとき、肺炎で入院したことがあって。そのとき、買ってきてくれたんだ。あのうさぎ」
かばんから取りされたぬいぐるみは、のひらに収まるくらいだった。の刺繍が擦れ、首のリボンは折り目のところだけが濃い。
「面会が終わると泣いてさ。お母さん、も来るからって。毎同じ本を読んでくれた」
紬が茶いうさぎに触れようとして、凛の顔を見た。凛はうなずき、いうさぎの隣に座らせた。
「今もその本、覚えてます?」
「覚えてる。途で読むのやめられると、続き全部言えた」
し笑ったあと、凛は唇を結んだ。
「だから私も、そういうの作りたいってったんだけど。話すと、また始まったって顔される」
元の袋で牛乳が傾いた。そろそろ帰らなければならない。けれど、このまま彼女をベンチに残すのが気になった。
「夕飯、べました?」
凛は首を振った。
「よかったら、うちでべませんか。実なので、母もいます。先に聞いてみますけど」
彼女が迷っているに、紬が2匹のうさぎを抱えた。
「ねえねも、いく」
母に話すると、肉じゃがなら余分にあると言われた。凛はちがるにスマホをし、しばらく画面を見てから文字を打った。
「にも連絡しました?」
「うん。
広告
ご飯べて帰るって」
がの玄関で、凛は靴をそろえ直した。飾りに触れ、そうとしたを止めている。
母は顔をすなり、「、洗ってらっしゃい。紬も緒にね」と洗面所を指した。
卓に座った凛は、箸を持ってもなかなかべなかった。紬が隣でじゃがいもをつぶしているのを見て、ようやく運ぶ。
「……おいしいです」
「よかった。お肉もべて。湊、取り分けてあげなさい」
俺が皿を持つと、凛は慌てて首を振った。
「自分で取れます」
「じゃあ、慮しないで」
母はそれ以勧めず、紬が落としたスプーンを拾った。凛はもうべ、それからを向いた。
膝のに、涙がひとつ落ちた。
誰も理由を聞かなかった。母は台所から箱のティッシュを持ってきて、取りやすいところに置いた。
、凛は俺の机に置かれた仕事の資料を見た。印刷したラフには、編集者の指示をいた付箋が何枚もついている。
「こんなに直すんだ」
「これでも今回はないほうです」
「嫌にならない?」
「なりますよ。でも、直したらよくなることもあるので」
凛はいこと付箋を見ていた。
帰り際、彼女は玄関で振り返った。
「お母さんと、もう回話したい。、しだけ緒に来てくれない?」
翌の午、紬を母に預け、俺は凛のを訪ねた。
母親の真紀さんは、丁寧にをげた。夕飯のお礼を言い、お茶をしたあとで、娘が差しした画本に目を落とした。
「またこの話?」
凛の膝ので、が握られた。
「最まで聞いて。私、ちゃんと勉したい」
「そのに、今の学をちゃんとしなさいって言ってるの」
何度も交わしてきた会話なのだろう。凛の元に、諦めに似た笑いが浮かんだ。
俺が言葉を探していると、真紀さんがこちらを向いた。
「佐伯さんは、絵でお仕事をされているんですよね」
「はい」
彼女は画本を俺のへ押した。
「だったら教えてください。この絵で、からおをいただけますか」
凛が顔をげた。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 49 -
完結第20話
娘の披露宴に新郎側が全員欠席――清掃員の夫が動いた
一人娘の紗良が待ち望んだ結婚式。しかし披露宴当日、新郎側の42席はすべて空席だった。ようやくかかってきた婚約者からの電話には、「結婚なんて冗談だ」という声と、清掃員の父を見下す家族の笑い声。泣き崩れる娘を抱きしめる母・千尋の隣で、いつも穏やかな夫・涼一が静かに言った。「あの一族は、もう切る」。翌朝から、新郎一家の電話が鳴りやまなくなる。三十一年間、黙々と床を磨いてきた夫には、家族さえ知らない一面があった。あの一言には、いったいどんな意味が隠されていたのか。因果応報|人生逆転|夫婦|第二の人生2.7万字5 120 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 53 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 96 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 100 -
完結第10話
母の農地を狙う夫と離婚――元義母が見た光景
母が女手一つで守ってきた農地を、会社の借金の担保に使いたい。夫・明の身勝手な申し出を拒んだ奈津美は、義母からも実家を見下され、ついに離婚を決意する。故郷へ戻った彼女は、農作業のためにビニールハウスの隣に仮住まいを設けるが、噂はいつしか「家もなく、ハウスで寝泊まりしている」と広まってしまう。元嫁の転落を喜ぶ義母は、その惨めな姿を見ようとわざわざ訪ねてくる。しかしその頃、奈津美は農家仲間と新たな挑戦を始めていた。再会の日、元夫と義母が目にした光景とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|相続|親子関係|金銭問題1.3万字5 83 -
完結第11話
倒産寸前の事務所が雇った、子連れ清掃員の正体
倒産寸前の「桐生デザイン事務所」に、五歳の娘を連れた清掃員志望の女性・高瀬さち子が現れた。履歴書には、東大大学院修了、一級建築士、大手設計事務所の元チーフという驚くべき経歴。しかし彼女は、二度と設計の仕事には戻らないと言い張る。娘の何気ない一言をきっかけに、事務所に小さな転機が訪れるが、さち子は図面に触れることさえ恐れていた。彼女が三年前に失ったものとは何なのか。そして、過去の事故に隠された真実とは。再起をかけた小さな事務所の逆転劇が始まる。職場逆転|人生逆転|第二の人生1.6万字5 269 -
完結第13話
貧乏なふりで結婚挨拶へ――彼女の父に正体を見抜かれた
三十四歳の神谷優馬は、恋人・水希の両親へ結婚の挨拶に行く日、わざと古いスーツと傷んだ靴を選んだ。実は大企業グループ会長の息子だが、その素性を二年間隠していたのだ。相手の家族が金や家柄で人を判断しないか、確かめるつもりだった。ところが、訪ねた水希の実家は、自分の家をはるかに上回る巨大企業グループの会長宅。しかも初対面のはずの父親は、優馬を見るなり意味深に笑った。人生逆転|真実|第二の人生|金銭問題3.3万字5 328 -
完結第20話
朝八時までのヒーロー弁当
工場の門前で40年間、社員たちに弁当を作り続けてきた正夫としず子。ところが、新しい社員食堂の開設を機に、部長から突然取引を打ち切られてしまう。売れ残る弁当、痛む膝、減り続ける売上。店を閉める覚悟をした二人だったが、ある日、古くからの常連が昼食の注文にやって来る。それをきっかけに、店先には再び社員たちの姿が増え始めた。一方、工場では思いがけない問題が起ころうとしていた。感動|真実|裡の顔|金銭問題4.5万字5 440 -
完結第17話
忘れたコートが教えてくれたこと
結婚式まであと3週間。高橋ゆいは婚約者・博人の実家に忘れたコートを取りに戻り、衝撃的な会話を耳にする。食卓に広げられていたのは、祖母から相続した自分のマンションを、博人の実家が営む会社の追加担保にする計画書だった。しかも本人への説明は「婚姻後1週間」の予定。14人の従業員を守るためだと訴える婚約者の母と、すべてを知りながら黙っていた博人。人生逆転|裡切られた|夫婦|真相|修羅場2.0万字5 463