"赤ワインの余興" 第3話
億千万の
メインディッシュの肉料理が運ばれてくると、達也は分いローストビーフをナイフで乱暴に切り分けた。
「母さん、予定通りだな」
達也は周囲の目を盗むようにして、隣のの元へ顔を寄せた。酒で赤くなった夫の元には、品のない笑みが張り付いている。
「これでうちの会社の危も、完全に乗り切れるぞ」
ものフォークをかしながら、く掠れた声で応じた。
「ええ。赤松の総資産は数百億円とも言われているわ。修平さんは息子だし、あの老夫婦さえ丸め込めば、病院のは使い放題よ。披宴の費用も向こうの親が全額してくれたんだから、本当にいいカモだわ」
「週けに婚姻届をさせたら、すぐに赤松グループの系列へ融資の保証を頼み込む。あそこの信用力があれば、うちの焦げ付きなんて瞬で吹きぶさ」
は私のを空気のように扱い、隠す素振りすら見せずに悪巧みを続けていた。
汚れた着物のままさくなっている私が、何も言い返せない無力な嫁だと信じ切っているのだ。
「それにしても、真由美は本当によくやったわ」が目を細めた。「あの子が級ラウンジで修平さんを見つけてこなかったら、今頃どうなっていたか」
「全くだ。会社の座はとっくに底をついていたからな」
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達也は私に背を向けたまま、酷な息を漏らした。「あの貧乏嫁の持参があればしはしになったんだが、見えっぱりのくせに文もしやしない」
「美桜さんに期待するだけ無駄よ。所詮は親のない根無しなんだから」
親族たちの卑しい言葉が、容赦なく私の背を打ち続ける。
彼らは、私がこれまで面でどれほどの資を援助し、彼らの破滅をい止めてきたかをらない。、郷田物産が渡りをしそうになった際、救済のを差し伸べた取引の正体が誰だったのかも。
恩を仇で返すとは、まさにこの族のためにある言葉だった。
私はテーブルクロスのに隠した端末の画面をスクロールさせた。
液晶画面に表示されていたのは、藤グループ直轄の監査法が極秘裏に作成した特別調査だった。
『郷田物産 正会計及び資産流最終報告』
そこには、過にわたって達也が会社の発資から引きした額が克に並んでいた。
計額は、億千万円。
送先の細には、都内のペーパーカンパニーを経由した複数の座名義が記されていた。そして、その最終な着先は——真由美が毎晩のように通い詰めていた伎町のホストクラブだった。
本数百万円の級シャンパン、ホストへの級や貴属のプレゼント。
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そのすべてが、達也が会社の庫から横領した資で支払われていたのだ。
それだけではない。達也自も架空のコンサルタント料として数億円を着し、座での豪遊や級の維持費に消えていた。
そして、報告の末尾には、さらに恐るべき事実が記録されていた。
億千万円の焦げ付きを隠蔽するため、達也はからの追加融資を取り付ける際、連帯保証に私の名を無断で使用していたのだ。
私の実印が勝に偽造され、委任状の偽造類までが添付されていた。
会社が破綻した際には、すべての責任と負債を私に押し付け、自分たちだけは赤松の資産へ乗り換えて、私を自己破産と借獄へ突き落とす算段だったのだ。
「おい、美桜」
達也がに振り返り、私の元を鋭く見つめた。
「何をさっきからばかり向いているんだ?」
私は画面を瞬に暗転させ、静かに顔をげた。
「いいえ。し気分が優れなかっただけです」
「ふん。贅沢な料理をにして、貧乏は胃袋まで卑しいな」
達也は嘲笑うと、テーブルので私の元を革靴の先で突いてきた。
「いいか、披宴が終わったらすぐに実へ戻るぞ。おに署名してもらわなきゃならない類がほどあるんだからな」
「類……ですか?」
「そうだ。会社の役員変更と、しい融資の続きだ。
おみたいな何の能もない女でも、名くらいは役につんだよ。ありがたく使ってやるんだから、言われた通りにハンコを押せばいいんだ」
最初から最まで、私をい物にすることしか考えていない男の顔がそこにあった。
私は静かに目を伏せ、唇を引き結んだ。
「わかりました。内容を、しっかりと確認させていただきます」
もう、この男に瞬の躊躇も、けをかける理由も完全に消滅した。
私は再び端末に線を落とし、通信アイコンをタップした。宛先は、警庁特捜部の担当検事直通の暗号化回線。
横領の証拠、偽造された連帯保証類、そして座の完全な取引履歴。すべてのファイルを添付し、私は送信ボタンを静かに押し込んだ。
捗バーが音もなくへと伸びていく。
パーセント、パーセント、そして百パーセント。
『送信完』のたい文字が画面に浮かび、次の瞬には痕跡を残さず静かに消えった。
法と正義の歯が、戻りのできない音をてて噛みった。この会にいる誰として、破滅の音が真ろまで迫っていることに気づいていなかった。
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