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"赤ワインの余興" 第9話

特捜部の突入と鉄槌

「藤グループの……最総帥……!?」

客席のあちこちから、震える囁きが鳴りのように広がっていった。百名の招待客全員が、畏怖と敬を込めた差しで私を見つめている。

にいつくばる真由美は、いたが塞がらないまま固まっていた。

「そ、総帥……? あの貧乏嫁が……どうして……?」

は顎をしたようにを歪め、そのままに倒れ込んだ。

警備員に押さえられた達也の顔面からは、すべての血の気が引いていた。

「嘘だ……嘘だろう……美桜が、そんなはずがない……!」

達也は膝から崩れ落ち、両をについた。自分が見し、雑用を押し付け、を被せようとしていた妻。その正体が、自分たちが束になっても元にすら及ばない、空の支配者だったのだ。

私は卓の印章にそっとを触れ、たく澄んだ声で告げた。

「赤松総、顔をおげください。あなた方に罪はありません。罪を犯したのは、己の欲に溺れた者たちです」

私は静かに振り返り、にい蹲る郷田のを見ろした。

「達也さん、真由美さん、そしてさん。私のことを持参のない貧乏嫁と蔑みましたね。の真をゴミのように踏みにじった報いを、今ここで受けていただきます」

その瞬だった。

ドガァァン!

宴会『鳳凰の』の巨な扉が、鳴りのような音をてて側へけ放たれた。

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踏み込んできたのは、黒いスーツにを包んだ数名の捜査員たちだった。胸元に警察帳を掲げ、鋭いで会内を制圧していく。

先につ特捜部が、股で壇へとみてきた。

「警庁捜査第課、並びに特捜部です。事件の被疑者確保のため、ち入らせていただきました」

特捜部のな声が響き渡る。部は懐からい令状を取りし、の達也のに突きつけた。

「京方裁判所より発付された通常逮捕状を執します。被疑者・郷田達也、並びに郷田。両名を、郷田物産における億千万円の業務横領、及び特別背任の容疑で逮捕する!」

「た、逮捕状……!?」達也が乾いた鳴を漏らした。

部は線をの真由美へと移した。

「そして被疑者・郷田真由美。赤松への婚姻詐欺未遂、並びに横領の収受、共謀の容疑で逮捕する。加えて郷田真由美、あなたは先ほど、藤総帥に対し赤ワインを浴びせかけました。な暴罪の現犯として、そので柄を拘束します!」

「ぼ、暴罪……!? そんなの、ただの余興よ! お祝いの余興じゃない!」

真由美は髪を振り乱して絶叫した。

「の体に液体を浴びせる為は、刑法に規定された派な暴罪です。いかなる祝いの席であろうと、犯罪為を正当化する理由にはなりません」

カシャンッ!

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たい属音が響き、捜査員のによって真由美の両首にの錠がい込んだ。

「嫌ぁぁっ! して、錠をしてよ! 私は名赤松の若奥様になるのよ!」

狂乱する娘を見て、もに爪をてていずり回った。

「助けて! 誰か助けてちょうだい! あなたたち親戚でしょう、警察を止めて!」

しかし、親戚たちは全員、嫌悪に満ちた表で目を背けた。

「寄るな、ペテン師め!」「のを億も横領しておいて親戚を巻き込むな! 度と連絡してくるな!」

のひらを返したように浴びせられる罵声に、は絶句した。あまりの絶望に、はそのに失禁し、目を剥いて倒れ込んだ。

カシャン、との両にも錠が嵌められた。

「おのせいだ!」

その、の達也が真由美へ殴りかかろうとした。

「おがホストに通わなければ、俺が横領することはなかったんだ! おが毒殺なんてらなければ、こんなことにはならなかったんだぞ!」

「ふざけないでよ! あんただって横領したで座で豪遊してたくせに! この役たずのクズ兄貴!」

実の兄妹がを転がりながら、互いの顔を殴りい、髪を引っ張りって罵りう。虚栄と偽りで結ばれていた族の絆は、醜悪な沼へと崩壊していた。

「やめんか! 両名ともしくしろ!」

捜査官たちがを引き剥がし、力任せにへ押さえつけた。

達也は涙とで顔を汚し、今度は私の元へいずってきた。絨毯のに額を擦り付け、必に私の着物の裾を掴もうとする。

「美桜……頼む、助けてくれ! おは藤グループの総帥なんだろ!? おの力なら、警察の捜査なんて止められるはずだ! 俺たちは夫婦だろう!? ワインは俺が拭き取るから、着物もしく何着でも買うから! 頼む、刑務所へ送らないでくれ!」

尊厳をかなぐり捨てて命乞いをする夫の姿。

私は汚れた訪問着の袂を引き、半歩だけ静かにがった。そして、ハンドバッグから枚の類を取りした。

事に弁護士のによって作成されていた、正式な婚届だった。私の署名と捺印は、すでに完璧に済まされていた。

私はそのいを、の達也の目のへ滑り落とした。

「夫婦のなどという言葉を、度とそのからさないでください」

私の声は、の氷のようにたく澄み渡っていた。

「あなたは私を妻としてしたことなど、度もありませんでした。会社の負債を私に押し付け、借獄へ突き落とそうとした男に、施す慈などミリもありません。今ここで、自らので署名しなさい」

「嫌だ……婚なんてしない! おは俺の妻だ!」

カシャンッ!

達也の首にも、い錠が容赦なくい込んだ。

「被疑者名を連しろ!」

特捜部の鋭い号令がり、は引きずられるようにして宴会のい扉の向こうへと消えていった。

扉が々しい音をてて閉ざされ、会には散らばったびらと、踏みにじられた真のドレスだけが残されていた。

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