みかん小説
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"母が泊まらない理由" 第6話

夜の坂と母の背

「はパートも休みなんだろ? どうして急に帰るなんて言うんだよ」

卓のでちがった直の言葉に、かず子は困ったように眉尻をげました。

「休みだけどね、朝くから所のと約束があるのよ。 ベランダの植鉢にも、朝のうちにおをあげたいしね」

「そんなの、帰ってからでいいじゃないか。 せっかくシーツも洗って、布団まで敷いて待ってたのにさ」

語気が荒くなった直を、咲がろからそっと制しました。 「直、そんなにらなくても……」

「ってないよ。……ただ、泊まるとってたからさ」 直はバツが悪そうに線を落とし、を掻きました。

「ごめんねえ、直。でもね、自分の布団で寝たいのよ」 かず子はそう言うと、持ってきたのカーディガンを丁寧に羽織りました。

「お義母さん、駅までをしますよ」 咲が慌てての鍵をに取ろうとしましたが、かず子は静かにを振って断りました。

「いいのよ、咲さん。し夜に当たりながら歩きたいから、直と緒にくわ。 咲さんはお皿の片付けもあるでしょう」

玄関で靴を履くかず子の元には、直が用したのスリッパが、履かれることもなく並んで残されていました。

の夜はたく、宅の緩やかなり坂に、の乾いた靴音だけが響いていました。

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灯のいが、先を歩く母のさな背を照らししています。

「……母さん、うち、居悪かった?」 並んで歩きながら、直はたまらずをきました。

「まさか。ご飯も本当に美しかったし、派なおだったわよ」 かず子はを向いたまま、穏やかな声で返しました。

「じゃあ、なんで泊まらないんだよ。……咲に気を使ったのか?」

「咲さんに気を使う理由なんてないわよ。あんなに気持ちよく迎えてくれたのに」 「だったら、泊まっていけばよかったじゃないか」

直の執拗な問いかけに、かず子はさく息を吐きしました。 「直、あんたは昔から、度言いすといのよねえ」

「そんなことないだろ」 「今のでもう回目よ」

赤信号の交差点で、は並んでち止まりました。 夜のえ込みが、息をく染めていきます。

「また来るからね。今度は、お昼ご飯でもべに来るわ」 「……次は、泊まりでもいいんだからな」

直がを押すように言うと、かず子はさく笑って頷きました。 「はいはい、覚えておくわ」

改札へと消えていく母の姿を見送りながら、直の胸には理由の分からない空虚が残されていました。

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