"老人ホームの話を聞いた夜" 第1話
夜2。
の計が、同じようにを刻む音だけを響かせていた。
鈴正雄、72歳。齢のせいか眠りは浅くなり、その夜も喉の渇きでふと目が覚めた。布団ので何度か瞬きをし、井の暗がりを見つめてから、ゆっくりと体を起こした。
膝に力を入れると、関節がさくきしんだ。ベッド脇のスリッパにを入れ、音をてないように廊へる。をこするわずかな音でさえ、この静けさのでは妙にきく聞こえた。
廊はたく、元から夜の空気が染み込んでくるようだった。
正雄はリビングのを通り、トイレへ向かおうとした。そのだった。
「ママ、じいじ、いつ追いすの?」
幼い声が、リビングの方からはっきり聞こえた。
正雄のが止まった。
声の主は、9歳になる孫の隼だった。眠気の残っていたが、瞬でえた。聞き違いだといたかった。けれど、その願いは次の言葉で打ち砕かれた。
「僕の部、いつできるの?拓君も、優希君も、みんな自分の部があるのに、なんで僕だけないの?」
子ども特の、純粋で残酷な満だった。
正雄は壁に背を預け、息を殺した。胸の奥で臓が気な音をてる。ドア1枚を隔てた向こう側で、自分の居所が壊されようとしていた。
「隼、もう遅いから。声がきいでしょう」
嫁の由美が、隼をなだめる声が聞こえた。
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だが、その声には焦りが混じっていた。まるで、誰にも聞かれてはいけない話をしているようだった。
「ママがもうすぐ隼のお部作ってあげるからね。だから、もう駄々こねないの」
「だって、いつも分かったって言うだけじゃん。じいじをあっちにやったら僕の部くれるって言ったじゃないか。ママは嘘つきだ」
正雄の膝から力が抜けかけた。
“あっちにやる”。
その言葉が、の奥でたく響いた。
自分をどこかへ追いやる約束が、嫁と孫のでとっくに交わされていた。そう理解した瞬、正雄の背に汗が滲んだ。
そこへ、慌ただしい音がづいた。
「おい、隼。そんなきな声をすな」
息子の健の声だった。
「父さんの部なら、俺の斎を使えって言っただろ」
「やだ。パパの部はだめ。パパはそこでいつもゲームしてるだけじゃん」
「ゲームじゃない。仕事だ。パパはそこで事な仕事をしてるんだ」
「嘘だ。昨もYouTube見てたもん」
子どもの無邪気な告発に、健が言葉を詰まらせた気配がした。すぐに由美が割って入る。
「隼、パパの部はだめよ。パパだってお仕事する所が必なの」
「じゃあ、じいじの部は?じいじは仕事してないじゃん。いつもテレビ見てるだけじゃん」
隼の声はく、リビングに突き刺さった。
「田舎にけばいいじゃん。じいじ、田舎にがあるんでしょう」
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正雄の胸が、内側からきなで握り潰されたように痛んだ。
「隼、そんな言い方しちゃだめでしょう」
由美が叱る声をした。だが、その叱り方には力がなかった。
隼はすぐに言い返した。
「なんで?ママが言ったんじゃん。じいじは田舎におがあるから、そこにってもらえばいいのよって、この話で言ってた」
正雄の界が揺れた。
嫁が、自分のいないところで孫にそう吹き込んでいた。
自分はこので、そういうだったのだ。
健が苛った声で言った。
「はあ……隼、父さんが聞いたらどうするんだ」
「いいじゃん。じいじを田舎に返してよ。じいじがいるとうち狭いし、友達呼ぶのも恥ずかしいんだよ」
いため息が聞こえた。
それは叱責ではなかった。
諦めと、そして同のため息だった。
正雄は廊の暗がりで、静かに拳を握った。
「あなた、お義父さん、どうしようか」
由美の声が続いた。
「隼もああやって部を欲しがって泣いてるし、あなたも斎は譲れないんでしょう。もう方法がないわね」
方法がない。
その言葉が、正雄の臓にたい刃のように刺さった。
自分がこのの問題なのだ。
自分が、排除すべき障害物なのだ。
「田舎のって言っても、すぐめる状態じゃないだろう」
健がく言った。
「施設でも探してみるか」
「老ホームなら毎おがかかるじゃない。
正直、お義父さんもそろそろ自分で察しててってくれると助かるんだけどね」
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