"切れた数珠の15年" 第2話
真が宴会から姿を消し、再び写真に写るまでの2。
は翌朝、ホテルを訪れ、駐の防犯カメラ映像を求めた。
園寺は困ったような顔をした。
「実は数、配管が破裂しまして。サーバーが浸しになったのです」
差しされたハードディスクは錆びていた。だが、がサーバーのを見ろすと、そこは乾いていた。浸しになった形跡などない。
がをこうとした瞬、背にいた捜査課が彼の肩をく掴んだ。
「もういい。これ以、ホテル側に迷惑をかけるな」
その声は、部を叱る司のものではなかった。何かを隠す者の声だった。
は唇を噛んだ。
数、彼は再び自由庵を訪れた。本堂の隅を懐灯で照らしながら、や壁の隙を丁寧に調べる。ご本尊の台座と壁の、細い隙に指を差し込んだ、さくいものが触れた。
取りしたのは、砕けた彫りの数珠玉だった。
玉の表面には、のでく握り潰されたような放射状のひびが入っていた。
はそれを老尼僧たちに見せた。
1の老尼僧が、玉を見た瞬、しわだらけの目をきくいた。
「これは……真の数珠の玉です」
老尼僧は震える声で話した。
真が司法試験に格するよう、蓮華と老尼僧たちが落に打たれた霊を彫り、108個の数珠玉を作って贈ったのだという。
広告
「蓮華も、緒に彫っていました。真兄さんが格しますようにと、何度も祈りながら」
の胸がく鳴った。
真の持ち物が、殺害現から見つかった。
それはな証拠になるはずだった。
は数珠玉を証拠登録しようと署へ戻った。しかし課に差しした瞬、司の顔が瞬こわばった。
すぐに課はで笑った。
「こんな屑に何をこだわっている。登客が落としたものかもしれないだろう」
「ですが、老尼僧が真のものだと証言しています」
「余計なことをするな」
課は数珠玉をのから奪い取り、古びた証拠箱の奥へ放り込んだ。
「これ以、黒田にらいつくなら、おの方をばすぞ」
の拳が震えた。
だが、階級の壁ので、若い巡査にできることはなかった。
やがて捜査は縮され、未解決のまま打ち切られた。
には京都府部のの駐所への異辞令がった。
署をる、は机の引きしから蓮華の現写真を取りした。写真のの蓮華は、ご本尊ので目を閉じている。穏やかにも見えるその顔を、は胸ポケットにしまった。
「いつか、必ず」
そう呟き、彼は署をにした。
その1ヶ、黒田真は産グループ会の娘と結婚した。招待客には政治、企業の会、級官僚が名を連ねていた。
広告
真はその、法律事務所の代表となり、テレビにも頻繁に演するようになった。
彼はカメラので必ず蓮華の名をにした。
「無のうちにくなった妹のためにも、私は者の側につ法律でありたい」
世は彼を、劇を乗り越えた正義の弁護士として称賛した。
真実は、15もの、埃をかぶった捜査資料のに沈んでいった。
第3章 15の解体現
15、自由庵の周辺に巨な横断幕が掲げられた。
「プレミアム複リゾート建設予定」
事業主は、真の義父が所する産グループだった。
老尼僧たちは役所や裁判所へ訴えた。けれど返ってくるのは、たい類だけだった。ち退き期限が過ぎると、自由庵のには解体業者のトラックが列を作った。
老尼僧たちは、本堂ので最の読経を捧げた。腰の曲がった背を並べ、震えるで数珠を握りしめる。そのろ姿を、作業員たちは黙って見つめていた。
翌朝、ショベルカーの巨なバケットが本堂の瓦根を砕いた。
古い梁が折れ、埃がいがる。壁が崩れ、ご本尊が姿を現した。
作業員の田は、瓦礫を片付けるためにご本尊を押しのけた。その瞬、古い仏像の台座がぱっくりと割れた。
は空洞だった。
そこから、蜘蛛の巣に絡まった分いの束が転がり落ちた。
田は袋をはめたままを拾いげ、埃を払った。
般若経の写経だった。
表にはで丁寧に経文がかれている。
広告
おすすめ作品
-
完結第6話
十七年目の「ただいま」
1974年12月、雪に覆われた金沢で、11歳の少女・水島静香が学校帰りに姿を消した。 川の近くで見つかったのは、泥に濡れた通学カバンだけ。 そこには、母へ向けて書きかけた一文が残されていた。 「お母さん、今日、私、お母さんに一つ言うことがあるの」 三週間後、川岸で少女と似た小さな遺体が発見される。 周囲は静香だと決めつけたが、母・柿江だけは首を横に振った。 「この子は、うちの静香ではありません」 しかし誰も母の言葉を信じなかった。 夫にも町にも「現実を受け入れられない母」と見なされ、柿江はやがて家を追われるように孤独な年月を過ごすことになる。 それでも彼女は、毎年娘へ手紙を書き続けた。 静香はきっと生きている。 その確信だけを胸に抱いて。 そして17年後、柿江のもとへ一通の手紙が届く。 そこに書かれていたのは、誰よりも忘れられなかった娘の文字だった。 「お母さん。私は幽霊じゃないよ」 雪の日に止まった母の時間が、沈黙を破るその一文から再び動き出す――。真実|真相|行方不明8.8千字5 1 -
完結第5話
32億の貧乏母
67歳の高橋澄子は、夫を亡くしてから古いアパートで質素に暮らしていた。 ある夜、息子夫婦から「一緒に住まないか」と持ちかけられる。久しぶりに必要とされた気がして、澄子の胸は温かくなった。だが次の瞬間、息子の口から出た言葉は、あまりにも冷たかった。 「年金もないのに、一緒に住むの?」 嫁からは「お荷物」と言われ、やがて同居どころか、月十万円の施設を勧められる。さらに息子夫婦は、裕福な嫁の両親には頭を下げながら、澄子のことを「貧乏で恥ずかしい親」と陰で笑っていた。 それでも澄子は、すぐに怒らなかった。 彼女には、誰にも明かしていない秘密があった。 三年前、亡き夫が残した莫大な資産。会社の売却益、株式、不動産。その総額は、息子夫婦が想像もしないものだった。 母を愛しているのか。 それとも金がある親だけを大切にするのか。 答えを知った夜、澄子はついに“本当の自分”を明かす決意をする。 年金もないと蔑まれた母が選んだ最後の相続先は、息子夫婦の未来を静かに打ち砕くものだった――。因果応報|真相7.3千字5 0 -
完結第7話
龍神窟に眠る約束
1995年、志摩半島の小さな漁村で、村一番の腕を持つ5人の海女が海へ出た。 向かった先は、10年に1度だけ秘密の通路が開くと語られる海底洞窟「龍神窟」。そこには、1つで1年分の収入になるという“大アワビ”が眠っていると言われていた。 しかし、その日を最後に、5人は帰らなかった。 突然の嵐による海難事故。村も警察もそう結論づけ、事件は静かに忘れられていく。だが、母を失った少女・美咲だけは、20年間ずっと疑問を抱き続けていた。 本当に、あれはただの事故だったのか。 2015年、海洋ドキュメンタリーのディレクターとなった美咲は、母の失踪の真相を追うため故郷へ戻る。だが、村人たちは口を閉ざし、漁業組合長は調査をやめるよう警告する。 やがて美咲は、20年前の海に隠された密輸船の存在と、母たちが見てしまった“あるもの”へとたどり着く。 そして海底洞窟の奥で見つかったのは、5人の遺骨と、母が最後まで握りしめていた約束の貝殻だった――。ミステリー|真相1.0萬字5 1 -
完結第7話
奥日光の白い菊
1995年秋、東京の女子大学に通う4人の女子大生が、紅葉を見るため奥日光へ向かった。 中禅寺湖で笑い合い、民宿で一夜を過ごし、翌朝「竜頭ノ滝へ行く」と言って出発した4人。だがその後、彼女たちは誰一人として戻らなかった。 駐車場に残された車。岩の隙間に落ちていた片方のスニーカー。そして使い捨てカメラの最後の写真に写り込んでいた、ぼやけた男の影。 警察は捜索を続けるが、4人の行方も、写真に写った男の正体も分からないまま、事件は迷宮入りしていく。 しかし4年後、渓谷に白い菊を供えた一人の女性が、警察署を訪れる。 彼女は言った。 「私は、あの日失踪した4人のうちの1人です」 紅葉の山で何が起きたのか。 なぜ彼女だけが生き残ったのか。 そして、彼女たちの背後にいた男は何者だったのか。 30年経っても消えない、奥日光の渓谷に残された沈黙の真実。ミステリー|真相|行方不明1.0萬字5 0 -
完結第5話
旅行中の夫に告げなかった葬儀
夫・優斗と義母が海外旅行を楽しんでいる最中、義父が突然倒れた。 私は何度も夫に電話をかけ、必死に伝えようとした。 「お義父さんが――」 けれど夫は話を最後まで聞かず、怒鳴りつけた。 「うるさい。旅行の邪魔をするな」 隣では義母まで、私を責めるように言い放つ。 「せっかくの旅行に水を差すなんて、本当に嫌な嫁ね」 そのまま電話は切られ、連絡は完全に遮断された。 義父は帰らぬ人となり、葬儀は義姉と私で進めることになる。 そして一週間後、何も知らずに帰国した夫と義母は、いつものように私へ命令した。 「洗濯しろ。夕飯を作れ」 だが、彼らが旅行を満喫している間に、すでに葬儀は終わっていた。 さらに義父の遺言には、夫と義母が想像もしなかった内容が記されていた。 話を聞こうとしなかった人間が、最後に何を失うのか。 その日、私は夫との人生にも静かに終止符を打つ――。人生逆転|嫁姑|真相6.9千字5 0 -
完結第7話
中卒の兄の正体
弟の結婚式に出席した一は、豪華なホテルの片隅で静かに座っていた。 医師として成功した弟・優馬の晴れ舞台を、ただ兄として見届けるつもりだった。 しかし新婦の父である病院長は、参列者の前で一を見下し、嘲笑する。 「中卒の兄がいるなんて、家柄が知れますな」 高校を中退し、泥だらけになって働いてきた兄。 誰もがそう見下した。 だが、その中卒という過去は、弟を医学部へ進ませるために兄が選んだ犠牲だった。 兄を守るため、ついに弟は立ち上がる。 「義父さん、兄の正体にまだ気づかないんですか?」 その一言で、会場の空気は一変した。 差し出された名刺に刻まれていた肩書きを見た瞬間、病院長の顔から血の気が引いていく。 見下していた“中卒の兄”こそが、自分の病院の命運を握る人物だった――。因果応報|兄弟姉妹|真相1.0萬字5 0 -
完結第6話
年金九万円の同窓会
65歳を迎える深沢亜紀子は、川崎の古い団地で一人暮らしをしている。 月の年金は9万円。清掃のパートを続けながら、食費、薬代、光熱費を一円ずつ数えるように暮らす日々。誰にも迷惑をかけず、静かに生きているつもりだった。 そんなある日、卒業40周年の同窓会案内が届く。 参加費は、彼女にとって一週間分の食費に近い金額。それでも迷った末に会場へ向かった亜紀子は、華やかなホテルで久しぶりに同級生たちと再会する。 家、年金、旅行、家族――。 そこで目にしたのは、自分とは違う豊かな老後に見えた。 しかし会話を重ねるうちに、亜紀子は気づいていく。 お金がある人にも孤独があり、大きな家に住む人にも不安があり、笑顔の奥には誰にも見えない苦しみが隠れている。 老後格差とは、単に年金額や暮らしぶりの差だけではなかった。 四十年ぶりの再会が、亜紀子に静かに問いかける。 「自分の人生は、本当に負けだったのか」と。真相|金銭問題|修羅場8.2千字5 0 -
完結第8話
東京駅に消えた母
1988年、ソウル五輪の熱気に包まれていた東京駅で、72歳の老女・佐倉ミサが忽然と姿を消した。 初期の認知症を患っていた彼女は、長男の一に連れられて駅を訪れていた。息子は「母が手洗いに行ったまま戻らない」と警察に訴え、必死に捜索ビラを配り続ける。 町の人々は、母を見失ったことを悔やみ続ける一を「親孝行な長男」だと信じていた。 しかし27年後、古い捜査記録の中から、奇妙な銀行記録と1枚の乗車券台帳が見つかる。 ミサが行方不明になる直前、彼女名義の通帳から金を引き出していた人物。 そして東京駅で売られていた、熱海行きの切符。 27年間、供養を続けてきた長男の涙は、本物だったのか。 東京駅の人波に消えたはずの老母の行方と、親孝行を演じ続けた息子の正体が、ついに明らかになる――。ミステリー|真相|行方不明|親子関係1.2萬字5 0 -
完結第4話
病院に現れなかった母
2011年9月12日、大分県日出町で、35歳の主婦・光永真知子さんが白昼に忽然と姿を消した。 その朝、体調不良を訴えながらも子供たちを学校へ送り、歯をけがした長女を迎えに行き、歯科医院とスーパーに立ち寄った真知子さん。午前11時30分頃、長女を再び学校へ送り届けた彼女は、「下校する時に電話して。家で寝ているから」と告げた。 しかし午後3時、長女が帰宅すると、家に母の姿はなかった。 玄関は開いたまま。車も携帯電話も自宅に残されていた。慎重で戸締まりを欠かさない真知子さんにとって、それはあまりにも不自然な状況だった。 一方で、バッグや財布、保険証、車の鍵、白い枕、長女のバスタオルなど、不可解な物だけが家から消えていた。だが、保険証が使われた記録はなく、病院にも現れていない。 家族を何より大切にしていた母親は、なぜ子供たちを残して消えたのか。 自ら家を出たのか、それとも日常のわずかな隙間で、何かに巻き込まれたのか。 白昼の数時間に生まれた空白は、今も埋まらないまま残されている。ミステリー|真相6.4千字5 1 -
完結第9話
橋の下で見つけた孫
夫の三回忌を終え、心を癒すために熱海を訪れた鈴木里子。 賑やかな温泉街の片隅で、彼女は一人の痩せた少女と出会う。土埃にまみれた裸足、古びた人形を抱きしめる小さな手。そして右目の下にある、息子と同じ場所のほくろ。 「おばあちゃん……本当に、おばあちゃん?」 少女の言葉に、里子の時間は止まった。 3年前、嫁の嘘を信じた息子・剣太は、里子を拒絶し、妻と娘を連れて姿を消した。オーストラリアへ移住したはずの息子と孫娘。けれど里子が連れて行かれた先は、観光地の明るさから遠く離れた、冷たい橋の下だった。 そこにいたのは、変わり果てた息子と、飢えに耐えて生きてきた孫娘。 あの日、家族を引き裂いた嘘の真相とは何だったのか。 失われた3年間を取り戻すため、里子は息子と孫を連れて鎌倉の家へ帰る。そして、すべてを奪った女との静かな戦いが始まる――。真相|親子関係1.3萬字5 56