"更地にした二千万の家" 第2話
それを、と言われた。
さらに完成したを見にった、私は玄関で胸を弾ませていた。
「派ね」
「でしょう」
幸はし誇らしげだった。
「階はリビングと寝。階は子供部と客」
私は慮がちに尋ねた。
「私の部は?」
幸とマリが顔を見わせた。
「ああ、それなんだけど……階の側の部を考えてる」
「側?」
「畳半くらいしかないけど」
私は言葉を失った。
千万円をした私に用されたのは、向きの畳半だけだった。
マリは当然のように言った。
「お母さんだけ特別扱いはできません」
その、マリの両親の話がた。
「うちの両親も孫をすごくがっていて、よく来るといます」
「どのくらい?」
「週に、回くらいですかね」
それは、ほとんど同居のようなものだった。
その夜、私は仏壇ので泣いた。
何かがおかしい。
でも息子を信じたい。
その気持ちだけで、私はを押し殺した。
夕方、幸から話があった。
「母さん、今ちょっと話がある。居に来てくれる?」
嫌な予を抱えながら向かうと、リビングには幸とマリが並んで座っていた。テーブルのには類が置かれている。
幸がをいた。
「母さん、単刀直入に言う。来週、マリの両親が居に引っ越してくる」
私は聞き返した。
「引っ越してくる?」
マリがうなずく。
「父が定退職して、私たちのくにみたいと言いしたんです」
広告
「それで、こので緒に暮らすことになりました」
私は喉が詰まった。
「じゃあ、私は?」
沈黙が流れた。
幸が目をそらしながら言った。
「現実に考えてよ。俺たち夫婦と子供、マリの両親、それに母さん。は無理だ」
「でも、最初から同居の約束で……」
マリがたく遮った。
「状況が変わったんです。私の両親の方が同居の必性がいんです」
私は震える声で言った。
「私、千万円もしたのよ」
幸はため息をついた。
「それは謝してる。でも、それとこれとは別の話だ」
「別の話……?」
マリはさらに続けた。
「アパートでも借りたらどうですか。暮らしならさな部で分でしょう」
「私はもう歳よ」
「それはお母さんの問題でしょう」
私は息子の顔を見つめた。
本当にこのたい目をしたが、自分の産んだ息子なのか。
「幸、私たち親子じゃない」
「親子だからって、何でもい通りになるわけじゃない」
マリが静かに言った。
「お母さん、誤解されているようですが、もう族じゃないんです」
胸の奥で何かが砕けた。
「族じゃない……?」
「そうです。むのは私の両親ですから。お母さんはもう関係ないなんです」
関係ない。
その言葉がので何度も響いた。
その、歳の孫が部に入ってきた。
「ばあば」
駆け寄ろうとした孫を、マリが素く抱きげる。
「だめよ。ばあばはもうおに来ないだから」
広告
私はゆっくりちがった。
玄関で靴を履きながら、自分ので何かが変わっていくのをじた。
しみが消え、代わりにたい炎が灯った。
「あなたたちの望み通りにしてあげる」
そう言って、私はをた。
その夜、私は自宅に戻ると仏壇のに座った。
線にをつけ、夫の写真を見つめる。
「健さん。私、違っていたのかしら」
写真のの夫は、いつもの優しい笑顔のままだった。
「息子を信じて、全財産を渡してしまった。でもね、もうしない」
涙が頬を伝った。
しみではない。
りの涙だった。
「あなたと築いてきたものを、あんなに踏みにじられて黙っているわけにはいかない」
その、仏壇のがかすかに揺れた。
まるで夫がうなずいているようだった。
私はちがり、斎へ向かった。
庫をけ、通の類を取りす。
築の登記簿謄本。
所者の欄には、はっきりとこう記されていた。
――原かずよ。
そうだった。
千万円を資する際、税理士のすすめで、贈与税対策としての名義を私にしていたのだ。
息子夫婦もそのは同していた。
「あのは族だから丈夫だとっていたけど……」
私は類を握りしめた。
「向こうが族じゃないと言うなら、こちらも慮する必はないわね」
翌朝。
私はいつものようにに起き、パンを焼いた。
常連客がに来ると、私の顔を見て言った。
「原さん、今は顔がいいわね」
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
27年目、妻は食卓を捨てた
「……もう、必要ないのね」 27年間作り続けた夕食を、家族5人はスマホを見たまま無言で食べた。 「いただきます」も「おいしい」も、誰の口からも出なかった。 翌朝、私が食卓に残したのは一枚のメモだけ。 《今日から、自分のことは自分でお願いします》 夫は鼻で笑い、私が困って戻るよう家族カードまで停止した。 「パート代だけで、一人で暮らせるわけがない」 ところが3日たっても、私は助けを求めなかった。 家族が食事や洗濯、義母の薬の管理に困り始めた頃、娘が台所の奥で古いノートを見つける。 表紙には《家族のこと》。 そこには27年間、誰にも気づかれなかった私の記録が残されていた。 さらにノートから落ちた封筒には、夫が想像もしなかった書類が入っていた。 《常勤職員登用に関する雇用条件通知書》――返答期限は、今日だった。嫁姑|夫婦|親不孝1.6万字5 5694 -
完結第10話
独身だから介護しろ
「来月で店を辞めろ。父さんの介護は、独身のお前がやれ」 父の退院祝いで、兄は私の名前だけが並んだ介護予定表を置いた。 朝食、服薬、入浴、夜間の見守り――月曜から日曜まで、休みはない。 姉も「あなたには守る家庭がないでしょう」と言った。 だが要介護2の父は、歩行器を使えば動けるうえ、介護サービスを利用する意思も示していた。 それでも兄姉は費用を惜しみ、私へ仕事を辞めさせようとした。 私は予定表を破り、「本人の前でもう一度決めよう」と告げた。 父は震える右手で、机を2度たたいた。 その意味が分かったのは3か月後だった。 ケアマネジャーから見せられたのは、私を主介護者とする《家族同意書》。 署名日は、私が北海道へ出張していた日だった。 そして費用管理者の欄には、父の通帳を預かる姉の名前が書かれていた――。兄弟姉妹|親不孝|親子関係|介護1.5万字5 412 -
完結第10話
「忘れ物」で夫の嘘がばれた日
「あなた、健一さんから何も聞いてないの?」 母が「薬を忘れた」と言い、空港へ向かうタクシーを引き返した。 ところが自宅へ戻っても、母は何も探さない。 代わりに差し出したのは、私名義の土地と家を売るための査定書だった。 現地確認は今日の午後3時――私たちがハワイにいるはずの時間だ。 夫は「結婚25周年のプレゼント」として、1週間の母娘旅行を用意してくれた。 だが書斎からは、私の通帳、身に覚えのない委任状、さらに偽造された離婚届まで見つかった。 午前10時23分、玄関の鍵が開く。 帰宅した夫は、見知らぬ女と笑いながら言った。 「1週間もハワイに追いやるなんて、よく考えたわよね」 「家を売るための必要経費だと思えば安いもんだ」 襖の陰で録音を続ける私たちに、夫はまだ気づいていない。 そして午後3時、この家には不動産会社だけでなく、私の弁護士もやって来る――。夫婦|親不孝1.5万字5 2647 -
完結第15話
博士になった息子を「返せ」と言われた夜
春樹が博士号を取得した夜、母・ひよりは二十三年間の苦労が報われたように感じていた。 赤ん坊の頃から育て、病気の夜も、受験の日も、留学の朝も、ずっとそばで支えてきた大切な息子。けれど祝賀会の席で、夫は一人の女性を連れて現れ、残酷な真実を告げる。 「春樹は、俺と愛人との子だ」 さらに夫は離婚届を突きつけ、ひよりを家から追い出そうとする。だがその場で、春樹が静かに口を開いた。 そして明かされたのは、夫と愛人だけが隠していたはずの過去ではなかった。 二十三年前、赤ん坊だった春樹に何が起きたのか。血のつながりを超えて、最後に息子が選んだ“本当の母親”とは――。夫婦|親不孝|絶縁|親子関係2.3万字5 1986 -
完結第12話
入院中、母が勝手に老人ホームへ送られていた
交通事故で一週間入院した菜緒は、母・春江と連絡が取れないことを夫・健太に訴える。しかし健太は「元気にしている」と嘘を重ね、退院後に実家へ向かうと、母は姿を消し、家財や通帳、土地の権利証まで段ボールに詰められていた。 健太は、足の悪い春江に「娘は長期入院し、家も売る」と吹き込み、無断で老人ホームへ入れていた。目的は実家を売却し、残金を自分たちの生活に使うことだった。施設の隅で「娘に捨てられた」と泣く母を見つけた菜緒は、虚偽による入居契約の無効を主張し、その場から母を連れ帰る。 菜緒は直ちに、八年間続けてきた義父母への月十五万円の送金と家族カードを停止し、自分名義の定期預金三百五十万円も安全な口座へ移す怒り|夫婦|親不孝|金銭問題|修羅場1.7万字5 512 -
完結第17話
母に追い出された私が、介護を手放すまで
三年間、要介護の母・一枝の家事と介護を一人で背負ってきた由美子は、「大好きな長男夫婦と暮らすから出ていけ」と追い出される。彼女は反論せず、通院、服薬、食事、排泄介助まで記した冷蔵庫の予定表だけを外し、新しい生活へ踏み出した。 由美子が消えると、兄・秀樹夫婦は介護の重さと毎月約九万円の費用に直面する。さらに秀樹が母の定期預金三百万円を、不倫相手への手切れ金として使い込んでいた事実も判明。義姉マリは耐えきれず家を出て、秀樹は汚物の処理すらできないまま妹へ泣きつく。 しかし由美子は、母と兄の身勝手な要求を拒み、実家からの電話を着信拒否にする。兄弟姉妹|親不孝|裡の顔|介護2.6万字5 583 -
完結第12話
20年の仕送りを止めたら、義母の嘘が暴けた
20年間、毎月10万円の仕送りを一度も欠かさなかった私。 総額は2,400万円にもなるのに、義母は法事の席で親族を前に笑った。 「たった10万円よこして、偉そうにしないでよ」 その言葉を聞いた私は、翌月から仕送りをやめることを決めた。 義母は「その程度のお金、なくても困らない」と強がっていたが、わずか3か月後、その暮らしは急速に行き詰まっていく。 やがて夫は、実家で銀行と証券会社から届いた複数の封筒を発見する。 そこに記されていたのは、義母が隠し続けてきた資産の動きと、私たちの仕送りが使われていた本当の目的だった。 なぜ義母は2,400万円もの援助を「大した額ではない」と笑ったのか。 そして、仕送りを止めた途端に崩れ始めたものとは――。 20年間の善意を当然のものとして踏みにじられた妻が、家族に隠された金銭の秘密と向き合い、自分の人生を取り戻していく物語。嫁姑|相続|親不孝|親子関係|金銭問題1.8万字5 1050 -
完結第11話
裏口に回された仕立て屋
孫の発表会の日、68歳の佐和子は嫁から「業者は裏口から入ってください」と告げられる。 舞台に立つ47人の子どもたちが着る衣装は、すべて佐和子が三か月かけて縫い上げたものだった。材料費も立て替え、客席にも座れず、舞台裏で補修を続けた佐和子。 しかし終演後、保護者たちの会話から、嫁が衣装代として大金を集めていたことを知る。 さらに衣装箱には見知らぬ店名のシールが貼られ、ネットには佐和子の作業場が“嫁の実績”として掲載されていた。 家族のため、孫のため。そう思って飲み込んできた佐和子だったが、ある書類に自分の名前が勝手に使われていることを知った瞬間、静かに立ち上がる。 奪われたのは、お金だけではなかった。 名前も、時間も、技術も――。 佐和子は、自分の仕事を取り戻すため、初めて家族に「無償ではない」と告げる。嫁姑|親不孝|真相1.6万字5 1613 -
完結第10話
預けた通帳が消えた日
六十七歳の山田静は、膝の手術費を用意するため、息子夫婦に預けていた通帳を返してほしいと頼んだ。 しかし嫁の美香は、薄く笑ってこう言った。 「お母さん、私たちにお金なんて預けましたっけ?」 夫と二人で魚屋を営み、三十年かけて貯めた老後の資金。息子を信じて渡した通帳も印鑑も、いつの間にか静の手元から消えていた。さらに息子の健一まで、母をかばうどころか「知らない」と目をそらす。 不安を抱えた静が耳にしたのは、預金を使い切ったあと、彼女を認知症扱いして施設へ入れようとする恐ろしい計画だった。 家族を信じ続けた母が、ようやく気づいた真実。 奪われたのはお金だけではなかった。 自分の人生そのものを取り戻すため、静は亡き夫との思い出が残る藤沢へ向かい、静かな反撃を始める――。怒り|親不孝|親子関係|介護|金銭問題1.5万字5 734 -
完結第10話
退職祝いは「孫の勤務表」
42年間勤めた会社を退職したその夜、62歳の高橋信夫は、娘夫婦から一枚の紙を渡された。 そこに書かれていたのは、退職祝いの言葉ではなく、《おじいちゃん担当表》。孫の送迎、夕食作り、買い出し、風呂と寝かしつけ――信夫の自由になったはずの時間は、家族によって勝手に埋められていた。 さらに、娘夫婦は一時的な滞在のはずが、期限のない同居を考えていた。信夫の書斎は孫の部屋にされ、保育園の書類には本人の知らない署名まで残されている。 「家族のため」という言葉の裏で、誰の時間が犠牲にされていたのか。 退職後の人生を奪われかけた父が、自分の居場所と家族との距離を取り戻していく物語。親不孝|第二の人生|親子関係1.6万字5 392