"三輪山に消えた家族" 第11話
「……そういうことか。千代子さんも、あんたと同じことを考えとったんやな……」 葉の声には、の荷がしだけ軽くなったような、温かい響きがあった。
「このは、わしと波野夫妻が、あの夜に交わした『最の約束』の証や」 葉の説によれば、「巳の」とは言うまでもなく、輪の神の使いである「蛇」に縁のあるのことだった。毎何度か巡ってくるそのは、このにきる々にとっては、特別な祈りのである。 そして、「あの所へ」という言葉が指し示す所を、葉ははっきりとっていた。
「わしと正隆さんは、のでこう約束したんや。『無事に別ので暮らしとる限り、に1度、必ず巳のに、このへ謝を伝えに戻ってくる。直接会うことはできんけれど、わしらがきてる証を、ある所に残す』とな」 それは、借取りに見つかるリスクを冒してでも、命の恩である葉に謝を伝えたいという、波野夫妻の切なる願いだったのだ。
「では……叔母が物置にあのを残した理由は、体何だったのですか?」 裕が尋ねると、葉は静かに断言した。 「それは、『保険』や」
「もし、わしのに何かあったら……わしが事故でぬか、あるいは、組織の連に波野を逃したことがバレて、を封じられたらどうなる。そうなったら、がどこかできているという事実をるは、この世に誰もいなくなる。
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子供たちが将来、きくなって自分の本当のルーツをりたいとっても、すべてがに閉ざされてしまう。千代子さんは、その最悪の事態を恐れたんやな」
万が、葉という「唯の接点」が失われた、いつかこの古いに戻ってくるであろう誰か――おそらくは血の繋がりのある、裕のような親族のに、自分たちのと真実への最の糸を残すために。あのは、母親が未来の子供たちのために託した、最の希望のだったのだ。
翌、奇しくもそのは、に数度しか巡ってこない「巳の」であった。裕は葉と共に、に示された「あの所」へと向かった。 そこは、くの観客や参拝客が訪れる神神社の華やかな拝殿ではなく、さらに奥、の辺のをしんだ先にひっそりと佇む摂社、「狭井神社」だった。 古来より病気平癒の神様としてられ、境内からは神聖な霊泉が湧きる、非常に静かで厳かな所である。
ひんやりとした杉の々の匂いと、境内に漂う瑞々しいコケの匂いが混じりう参を、2はほとんど言葉を交わさずに歩いた。葉が静かにを止めたのは、霊泉の湧きる古い井戸の脇にある、鬱蒼とした々のだった。
その傍らには、般の参拝客には気づかれることもなく、ひっそりと数体のさな蔵が並んでいた。
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裕がその元をじっと観察すると、そのうちの体だけが、らかに周囲のよりもしかった。いに晒されていない、しっぽい肌のさな蔵。その元には、ごくさな文字で「平成」と刻まれていた。
その隣には「平成」「平成」……そして、までの号が刻まれた蔵が、静かに、規則正しく佇んでいた。 そして、そのい列の番最に、まだ彫られたばかりの、真しい体のさな蔵が、ちょこんと置かれていた。
「……今も、無事やったんやな……」 葉の声が、い堵に震えていた。その横顔は、もはやを牛る権力者ではなく、ただただ、くれた所で必にきる族の無事を祈り続ける、の優しい男の顔だった。
会うことは叶わない。言葉を交わすことも、度とない。それでも、このさな蔵が1つずつ増えるたび、彼らは確かに、に度この輪のに帰り、恩への謝を伝え、自分たちが元気にきている証を示していたのだ。 25、誰にもられることなく、借取りの目を盗んで続けられてきた、静かで、しかし何よりもい「絆の交換」。
その美しい景を目の当たりにし、裕の目からは、再びいものが溢れて止まらなかった。それは、失踪の謎が解けたという堵の涙ではない。が、お互いをいやり、信じい、静かな祈りのに紡いできた、目に見えない絆の美しさに対する、いの涙だった。
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