"三十年目の指輪" 第2話
「話がある」
その声を聞いた瞬、私は今がただの記では終わらないことを、なぜか分かっていました。
夫は靴を脱いだまま、玄関でしち止まりました。いつもならすぐにリビングへくのに、そのはきが遅かったのです。
「どうしたの?」
そう聞きそうになって、私はやめました。
代わりに、いつもの声を作りました。
「ご飯、できてるよ」
夫は「うん」とく答え、ネクタイを緩めながらテーブルの方へ来ました。
私は台所にったまま、その様子を見ていました。
どこか、いつもと違う。
でも、それが何なのか、はっきりとは言えませんでした。
テーブルのには、朝と同じように、音のない空気がありました。皿が触れる音。噌汁をすする音。それだけが部に響いていました。
夫は、並べられた料理を見て瞬だけを止めました。
い皿。
ランチョンマット。
気づいたのかどうかは分かりませんでした。すぐに何もなかったようにべ始めたからです。
私は向かいに座りながら、夫の顔を見ていました。
何か言うかもしれない。
「今さ」
そんな言でもよかった。
でも、その言は最までてきませんでした。
事が半分ほど終わった頃、夫が箸を置きました。その音が、いつもよりはっきり聞こえました。
「話がある」
朝、玄関で聞いた言葉と同じでした。
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けれど今は、逃げがありませんでした。
「うん」
私はそれだけ答えました。
夫はしだけ目を伏せ、言葉を探しているようでした。そのが、やけにくじられました。
「もう」
そこで1度、言葉が止まりました。
「夫婦としては続けられないとう」
静かな声でした。
っているわけでも、責めているわけでもない。ただ、もう決まったことを伝えているような声でした。
私は何も言いませんでした。
言えなかったのかもしれません。
のが急に静かになって、何も浮かばなかったのです。
夫は続けました。
「に、緒にきたいとうがいる」
その言葉も、ったよりさくて、ったよりくにじました。
議と涙はませんでした。
代わりに、さっきまで温かかった噌汁が、急にたくなったような気がしました。
ここ半の変化。
帰りの遅さ。
鏡のにつ。
しいシャツ。
それらが、音もなくつながっていきました。
それでも私は、1つだけ、どうしても確かめたいことがありました。
「ねえ」
夫が顔をげました。
私はその目をまっすぐ見て言いました。
「今は何のか、覚えてる?」
ほんのしだけ、が空きました。
夫の表がわずかに揺れました。
でも、すぐに困ったような顔になりました。
「え?」
その言で分でした。
それ以、聞く必はありませんでした。
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私はさくうなずいて、目を伏せました。
「そうだよね」
それだけ言いました。
夫は何か言おうとして、でも言葉がないままを閉じました。
部のに、い空気が落ちました。計の音だけが、やけにきく聞こえました。
30。
そのが、1つの質問でこんなにも簡単にほどけてしまうなんて、議なくらい静かな気持ちでした。
その夜、卓のの料理はほとんど残ったままでした。
私も夫も、ほとんどをつけませんでした。会話もありませんでした。けれど、言うべきことはもう全部言われた気がしました。
しばらくして、夫がぽつりと言いました。
「ごめん」
その言葉が誰に向けられたものなのか、私には分かりませんでした。
私に向けたものなのか。
自分に向けたものなのか。
それとも、もう取り返せないに向けたものなのか。
私は何も答えず、静かにちがって皿をげました。
台所でをすと、その音がやけにきく響きました。皿についた油を落としながら、私はっていました。
ああ、終わるんだな。
今が終わりなんだな。
でも、それは今初めて終わるのではなく、ずっとからしずつ終わっていたものの、最のだったのかもしれません。
次のの朝、いつもと同じに目が覚めました。
隣には、夫がまだ寝ていました。
その顔を見て、議な気持ちになりました。
昨あんな話をしたのに、こうして同じ部で、同じように朝を迎えている。
それが現実なのかどうか、よく分かりませんでした。
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