"松の根の告発" 第4話
表では慈善、裏では産報や事業買収の話を操る実業。匠の笑い声は、け方まで廊に響いた。
その方で、寺はいへ落ちていった。
野の偽報に員を割いた責任を問われ、彼は遷された。刑事課をれ、方の交通課へ移された。やがて定を待たずに退職し、さな私探偵事務所をいた。
それでも、寺は事件を放さなかった。
事務所の机の引きしには、未解決事件のコピーが詰め込まれていた。壁には豪邸の写真、破れた包装、匠のパスポート、レシート、黒いワゴンの目撃証言が貼られていた。
そして豪邸では、匠が完全犯罪を維持するため、2の物に毎を送り続けていた。
1はアリバイ偽造を伝ったブローカーの田。
もう1は、事件直に庭を作り替えた植職の松本満作だった。
匠はそのを「沈黙の代」と呼んでいた。
豪邸の内部はすべて作り替えられた。も壁も具もしくなり、母がすまし汁を作っていた台所も、姉が包装を裂いたリビングも、元の痕跡は消えた。
ただ1か所だけ、をつけられない所があった。
庭の隅につきな松のだった。
匠は管理にも庭師にも、その帯へづくことを禁じた。の夜になると、酒瓶を握ったまま庭へて、松の幹をゴルフクラブで叩きつけた。
広告
1回、2回、3回。
鈍い音がに響くたび、匠の呼吸は荒くなった。
彼は昼、慈善の仮面をかぶり、夜になると松のので狂気を吐きした。
しかしが経つにつれ、匠のにはひとつの確信が根をろした。
自分の犯罪は、永に葬られた。
そう信じていた。
2019の、アリバイ偽造を伝った田が、カジノ設の容疑で逮捕され、刑務所に収監された。
田はすぐに匠へ面会を申し込んだ。
だが返ってきたのは、面会拒否の通だった。2回目も、3回目も同じだった。刑務所の公衆話から匠の番号を押しても、呼びし音だけが続き、誰もなかった。
そして1か、毎数百万円ずつ入っていた送が突然止まった。
田は独のベッドに座り、残の数字を見つめた。指先が震え、の端がくしゃりと潰れた。
11、あの豪の夜。
匠の依頼で代わりの物を配し、にいるよう見せかけたのは田だった。偽造レシートを空港くで匠に渡し、プリペイド携帯で警察へ宗教団体の偽報を流したのも田だった。
その代償として送られてくるは、彼にとってを閉ざす理由だった。
だが匠は、その綱を切った。
田は井を見げた。
彼には、匠がらないものがあった。
犯計画を話しったの通話を、密かに録音していたのだ。いつか切り捨てられるが来るかもしれない。
広告
そうじた田は、録音媒体を自分だけがる所に隠していた。
同じ頃、もう1の共犯者である植職の松本満作も崩れかけていた。
松本は事件、止め料を受け取りながらきていた。表向きは平凡な自営業者だったが、夜になると眠れず、井を見つめるが増えた。
目を閉じれば、必ずあのけ方の景が浮かんだ。
豪邸の庭の隅に掘られたい穴。
そこへ業用セメントを流し込んだのさ。
スコップのでセメントが滑り落ちる触。
彼のから、その触は消えなかった。
やがて松本は酒に溺れた。取引先はれ、妻は子どもを連れて実へ帰った。空っぽので、松本は匠からので酒を買い、酔って眠り、また酒を買った。
その送も、あるを境に止まった。
1か待ち、2か待ち、3か目に話をかけても、匠はなかった。
松本はリビングのに座り込み、両でを抱えた。
が途絶えれば、を閉ざす理由も消える。
匠はそれに気づかなかったのか。
それとも、自分たちをその程度のとしか見ていなかったのか。
方、匠はすでに完全犯罪を確信していた。
刑務所に入った詐欺師の話を誰が信じるのか。
酒に溺れた植職のたわごとを誰が聞くのか。
匠はそう計算し、1片の疑いも持たなかった。
2023の、田は刑務所の正からてきた。
さなビニール袋をに、彼はバスへ向かった。ポケットから古いメモを取りす。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
画面の中の失踪少年
2021年5月、東京のソフトウェア企業で開かれたオンライン会議。 社長の石川健二は、画面に映った1人の社員の顔を見て、思わず息を止めた。左頬の三日月型の痕、眉の上の細い傷跡。その顔は、25年前に仙台で忽然と姿を消した9歳の少年・高橋奏太とあまりにもよく似ていた。 1996年、学校帰りに消えた奏太。家族は町中を探し続けたが、手がかりは途絶え、やがて事件は未解決のまま時の中に埋もれていった。 しかし25年後、偶然のオンライン会議が止まっていた時間を動かす。 社員として静かに働いていた男は、本当に失踪した少年なのか。なぜ別の名前で生きていたのか。そして、彼の25年間を支配していた人物とは――。 画面越しの違和感から始まった、奇跡の再会と奪われた人生の真実。行方不明|第二の人生1.5萬字5 13 -
完結第7話
古井戸の満点少女
1999年、埼玉県秩父市。 女子高生・高橋桜は、センター試験の自己採点で全科目満点という驚くべき結果を出した。貧しいながらも自分を支えてくれた父のため、将来は良い仕事に就き、楽をさせてあげたい。そんな夢を胸に、桜の未来は大きく開けようとしていた。 しかし、その数日後。 予備校で最後の写真を撮られたあと、桜は忽然と姿を消す。 父親との進路のすれ違い、親しくしていた家庭教師、宣伝に利用しようとした予備校講師。疑われる人物は次々に浮かぶが、決定的な証拠は見つからない。 桜の部屋だけが、19歳のまま時間を止めていった。 そして10年後、秩父郊外の古井戸から白骨化した遺体が発見される。そばに残されていたのは、泥にまみれた受験番号の一部。 失踪ではなかった。 桜の未来を奪ったのは、誰だったのか。 10年間、父が信じ続けた帰り道の先に、あまりにも残酷な真実が待っていた――。ミステリー|行方不明1.0萬字5 59 -
完結第7話
十六年目の雪足跡
2003年2月14日、23歳の看護学生・森彩佳は、近所の高齢女性に借りた器を返すため、恋人に「すぐ戻るね」と告げて家を出た。 財布も鍵も携帯電話も置いたまま。ほんの数分で戻るはずの外出だった。 しかし、彼女はそのまま姿を消した。 雪の上には、彩佳が自宅へ向かった足跡が残されていた。だがその足跡は、玄関の数歩手前で不自然に途切れていた。家は内側から施錠され、争った形跡もない。 恋人、母、警察、町の人々――誰もが答えを探し続けたが、真相は長い間、闇の中に沈んだままだった。 そして16年後。 保管されていた証拠品から、当時は見つけられなかった“ある人物”の痕跡が浮かび上がる。 誰も疑わなかった身近な人。 あの雪の夜、彩佳に何が起きたのか――。ミステリー|行方不明1.0萬字5 9 -
完結第7話
山寺に消えた妻
7年前、財閥一家の御曹司・健斗は、妻の雪を“不倫した女”だと信じて家から追い出した。 宝石を盗み、若い男に貢ぎ、海外で贅沢に暮らしている――。母・良子の言葉を信じた健斗は、雪の弁解も聞かず、離婚届を突きつけた。 だが7年後、心身ともに追い詰められた健斗は、山奥の寺で思いがけない人物を見つける。 そこにいたのは、尼僧となり、雑巾がけをして暮らす雪だった。 贅沢どころか、質素な寺で静かに修行を続けていた元妻。荒れた手、粗末な部屋、そして何も語ろうとしない瞳。 本当に彼女は裏切ったのか。 健斗が7年前の“相手の男”を探し出した時、すべての疑惑は崩れ始める。雪が背負わされた汚名の裏には、財閥一家を揺るがす恐ろしい陰謀が隠されていた――。ミステリー|第二の人生1.1萬字5 384 -
完結第9話
盗まれた120頁
1995年、東京の名門大学の卒業式当日。 青森から夜行列車で駆けつけた両親が見たのは、14列目の席に残された卒業ガウンと、そこにいるはずの息子・木村誠の不在だった。 前夜まで「これで人生が変わる」と電話で語っていた誠。だが、警察は事件性を認めず、彼の失踪は“家出”として処理されてしまう。 両親は故郷の家を売り、10万枚のチラシを配りながら、10年もの間、息子を探し続けた。 しかし、誠の部屋から消えていたのは、財布でも通帳でもなかった。 命を削って書き上げた論文データと、破り取られた実験ノートの最後の1ページ。 そして10年後、定年を目前にした教授が警察署を訪れ、封印していた茶封筒を差し出す。 「10年間、ずっと息ができませんでした」 その中に眠っていたものが、青年の失踪を“家出”から“事件”へと覆していく――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 113 -
完結第7話
ロッカー裏の花嫁
1991年5月、新婚旅行へ向かう途中の足柄サービスエリアで、結婚してわずか3日目の妻・鈴木彩が突然姿を消した。 「すぐ戻るわね」 そう言ってトイレへ向かったはずの彩は、売店にも食堂にも駐車場にもいなかった。財布だけを持って車を降り、身分証明書も荷物も残したまま、彼女は人混みの中から跡形もなく消えてしまう。 夫の佐藤匠は必死に妻を探し続けたが、目撃者も防犯カメラもなく、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていった。 しかし10年後、サービスエリアの改装工事中、古いロッカーの裏から埃まみれの財布が見つかる。 そこに残されていた指紋が示したのは、夫でも通りすがりの犯人でもない、彩の過去にいた1人の男だった。 新婚3日目の花嫁は、なぜサービスエリアで消えたのか。 そして、10年間ロッカーの裏に眠っていた財布は、どんな真実を語り始めるのか――。ミステリー|行方不明9.8千字5 3052