みかん小説
本棚

"48億の離婚届" 第3話

1の浩司は、どんな顔でこの卓についていただろう。

恵子が域の催しで帰りが遅くなった、彼はいつも通り「お疲れ」と言っていた。正には親戚ので、穏やかな夫を演じていた。所のと会えば、変わらず夫婦として挨拶をしていた。

その裏で、彼はすでに自分のから恵子を切りす準備をしていた。

恵子は包丁を置き、ゆっくり息を吐いた。

りよりも先に、むなしさがあった。

してきたが、浩司のではすでに過のものとして処理されていた。そのことが、何よりもこたえた。

それでも、恵子は常を崩さなかった。

周囲に対しても、浩司を悪く言うことはなかった。自分から事を詳しく話すこともしなかった。

域社会のでは、言葉よりも態度の方がく伝わる。

恵子はそのことをっていた。

民やたちは、事を察しながらも、直接な言葉を避けた。挨拶は丁寧だった。差しされる笑顔も穏やかだった。しかしそこには、以にはなかった気遣いが混ざっていた。

その気遣いさえ、には恵子を傷つけた。

されている。

捨てられた妻として見られている。

そんな識が、ふとした瞬に胸をよぎる。

だが恵子は、顔をげ続けた。

自分の価値は、浩司の選択によって決まるものではない。

そうおうとした。

広告

おうとしても、簡単ではなかった。

32の結婚活は、彼女の価値観のにあった。夫婦としての定、族の名誉、域社会との調。それらを切にすることが、自分のの柱だった。

その柱が突然されたはすぐにがれるわけではない。

恵子も同じだった。

夜になると、の静けさがくなった。

斎のを通ると、まだ浩司がにいるような錯覚がした。けれど扉の向こうは空だった。机のには、彼が残していった古い資料がわずかにあるだけだった。

恵子はその扉を閉めた。

音はさかった。

そのさな音が、1つの代の終わりを告げているようだった。

彼女はまだ先を見通せていなかった。

けれど、過にしがみつくだけではきていけないことも、しずつ理解し始めていた。

そして、その頃にはまだらなかった。

浩司がに切りしたこの婚が、恵子自にまったく別の扉をくことになるとは。

活が、表面しずつ落ち着き始めていたある、恵子のもとに1本の話が入った。

画面に表示された番号に見覚えはなかった。

恵子は数回の呼びし音を聞いてから、静かに話にた。

恵子さんでいらっしゃいますか」

落ち着いた男性の声だった。

「はい」

「突然のご連絡で失礼いたします。

広告

私は本健と申します」

その名を聞いた瞬、恵子の姿勢が変わった。

本健

それは、彼女にとってい過の記憶を呼び起こす名だった。かつて父、本正志の事業を法側面から支えていた弁護士である。

父がきていた頃、本は何度かにも訪れたことがあった。幼い頃の恵子に対しても、穏やかに挨拶をしてくれた記憶がある。父が信頼していた数ない専の1だった。

「お久しぶりです」

恵子はわずそう言った。

話の向こうで、本は静かに応じた。

「ご無汰しております。今は、お父様に関わることで、どうしてもお話ししなければならないことがあり、ご連絡いたしました」

恵子は元のメモ帳に線を落とした。

父の名がたことで、胸の奥に懐かしさと緊張が同に広がった。

本は具体な内容を話では詳しく語らなかった。ただ、恵子の現の状況にく関わるな案件であり、直接会って説したいと告げた。

恵子は迷わなかった。

父に関わることなら、無することはできない。

指定された、恵子は本の事務所を訪れた。

事務所は静岡内の落ち着いた通りにあった。古い建物ではあったが、入れがき届いている。受付で名を告げると、すぐに応接へ案内された。

に入ると、壁面に法律が並んでいた。

古い製の机、磨かれた、静かな空気。恵子は子に腰をろし、膝のねた。

しばらくして、本健が入ってきた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: