"夫の顔と20年目の罪" 第7話
夜が頬を打つ。
病院のから見ろすのは、私がずっと見たかったはずの世界だった。けれど、そのはあまりにもたかった。
「どういうこと……もう、分からないよ」
確実に言えることは、私はぼっちだということだった。
押し寄せる孤独に耐えきれず、私はフェンスにをかけた。
そのだった。
「やめろ!」
背から駆けつけた男性に、く抱き止められた。
を着た医師だった。
その体温に触れた瞬、私ので何かが弾けた。
この温もり。
この腕。
この気配。
「真さん……?」
医師は顔を伏せたまま、私かられようとした。
「違う」
い声でそう言う。
けれど、私は彼のを掴んだ。
「うそ。真さんでしょ? お願い、顔を見せて」
泣きながら彼に縋り、顔をげさせた。
その瞬、私は息を呑んだ。
私が指先でい描いていた、そのままの顔だった。
優しい目。
筋の通った。
穏やかな元。
私がしていたの顔が、そこにあった。
「私の夫は、あなたですよね」
それでも彼は顔を背けようとした。
私は震えるで、ポケットからさなお守りを取りした。
20、彼からもらったガーベラの押しだった。
「言葉は?」
彼は沈黙した。
夜が2のを通り抜けた。
やがて彼は、さく答えた。
「希望です」
涙があふれた。
「よく調べたね」
観したように微笑んだ彼は、昔と同じ優しい顔で、私のを撫でた。
広告
ああ。
やっぱりこのだ。
優しい温もり。
よい声。
20、私が初めて恋をした。
私の夫は、あなただったのね。
のベンチに座り、私はの彼から真実を聞いた。
彼の名は、桜田浩司。
桜田真の2歳の弟だった。
私が夫だと信じていたは、最初から真ではなかった。
「ごめん」
浩司はうつむいたまま言った。
「君を騙すつもりはなかったなんて、今さら言えない。俺も同じだ。君を騙した側のだ」
私はまだ涙が止まらなかった。
「どういうことなの。どうして、こんなことに……」
浩司はく息を吸い、話し始めた。
本物の桜田真は、2で過ごしていたという。
理由は、医療ミスだった。
担当した患者にな問題が起き、患者側の弁護士から責任を追及された。桜田病院の院である義父と義母は、息子である真を守るために、彼をへ逃がしたのだという。
そのに、資産の娘である私との結婚話が浮した。
私の叔父は、盲目の私を厄介払いしたかった。
義両親は、私の持参に目がくらんだ。
そして本物の真はにいた。
けれど、結婚話はめたい。
そこで義両親は、私が盲目であることを利用した。
「俺を、兄の代役にしたんだ」
浩司の声は苦しそうだった。
私は言葉を失った。
「顔わせも、入籍の活も、全部俺が兄のふりをしていた。君が見えないから、ばれないとわれていた」
広告
体の奥がえていくようだった。
私は盲目だった。
結婚式もしなかった。
叔父が度だけ相側と会い、親戚と顔をわせる会もなかった。
だから誰も、私の夫が桜田真ではないことに気づかなかった。
「じゃあ、私と暮らしていたのは……」
「俺だ」
浩司は静かに答えた。
「君にカレーを作ったのも、を贈ったのも、毎メッセージを届けていたのも、君に顔を触らせたのも、全部俺だ」
私は胸を押さえた。
やっぱり。
私がしたのは、このだった。
けれど、その事実は優しいだけではない。
同に、彼も私を騙していたということだった。
「2、本物の真が帰国した」
浩司は続けた。
「兄が帰ってきたことで、俺の役目は終わった。君のから消えるように命じられた」
「それで……」
「でも、俺は条件をした」
浩司は私を見た。
「君の目の術を、俺が執刀すること」
私は息を呑んだ。
「君の角膜移植の順番が回ってきた、義両親は面倒だとっていた。見えるようになれば、いろいろ都がるから。でも、君のお父さんの遺言もあって、術そのものは避けられなかった」
父。
その言葉を聞いた瞬、胸が締めつけられた。
父はくなるから、私の目の術について遺言を残してくれていたのだ。
「俺は、せめて術だけは成功させたかった。君にを戻したかった」
浩司の声が震えた。
「無事に術が成功した、俺はを引くつもりだった。でも、君が配で、くから見守っていた」
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
妹の手術前に「家族やめれば?」――私はドナーを辞退した
幼い頃から父と継母に冷遇され、妹・直美の引き立て役として育った広美。家を出て新体操の夢を追っていた彼女は、重い肺の病気を患う妹を救うため、生体肺移植のドナー候補になることを決意する。 ところが手術前の食事会で、広美の席だけが用意されていなかった。 「なんで来たの? 家族やめれば?」 妹の冷酷な一言をきっかけに、広美は臓器提供を辞退する。さらに病院で見つかったのは、身に覚えのない署名がされた同意書だった。 家族の裏切りと隠された不正に向き合い、広美は自分の人生と夢を取り戻せるのか。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係2.9万字5 375 -
完結第20話
借金3億の旅館を継いだ私を捨てた夫の誤算
父の急逝により、43歳の真帆が引き継ぐことになったのは、信州の古びた温泉旅館と約3億円の借金だった。夫の拓也は「貧乏になる前に離婚してくれ」と冷たく言い放ち、ただ一人、17歳の息子・勇気だけが母について行くと決める。 亡き父の宿を守ろうとする真帆だったが、遺された宿日誌から夫の恐ろしい裏切りが発覚。さらに離婚協議では、16年間つけ続けた家計簿が思わぬ反撃の切り札となる。 夫に見捨てられた母と息子は、3億円の借金を抱えた旅館で新たな人生を切り開けるのか――。人生逆転|真実|孤獨|親子関係2.4万字5 68 -
完結第16話
庭付き新居に押しかける長男夫婦、引越し当日に絶句
夫を亡くした62歳の田所美津子は、長年暮らした家を売り、菜園付きの一軒家で新生活を始めようとしていた。 ところが長男の琢磨と嫁の真理亜は、相談もなく同居を宣言。「断るなら一生介護しない」と脅しまでかけてくる。 夫の葬儀で遺産を要求された美津子は、もう息子に振り回されないと決意していた。 長女の美香と密かに進めていたのは、誰にも知らせていないもう一つの引っ越し計画。 何台ものトラックを連ね、当然のように新居へ乗り込んだ長男夫婦。だが引っ越し当日、二人は思いもよらない事実を知ることになる――。人生逆転|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|介護2.4万字5 74 -
完結第14話
「3月末に出ていけ」離婚を迫る夫が知らない真実
結婚17年目、42歳の立花伊佐美は、単身赴任中の夫・秀哉から突然離婚を突きつけられた。 「3月末までに息子と家を出ていけ」 長年家庭を支えてきた妻に、夫はわずかな解決金しか渡さないと言い放つ。ところが、赴任先を訪れた伊佐美は、夫が別の女性と6歳の息子を育て、もう一つの家庭を築いていた事実を知る。 絶望する伊佐美に手を差し伸べたのは、夫と不仲だった義父・信造だった。 そして3月28日。新しい妻子を連れて家を奪いに来た秀哉は、まだ知らなかった。自分の知らないところで、すべてが変わっていたことを――。夫婦|真実|親子関係|修羅場|不倫1.9万字5 366 -
完結第20話
「嫁には1円もやらない」義母へ、家族3人の決断
義父の死後、義母との同居を始めて十年。40歳の香織は仕事と育児を両立しながら、家事も義母の世話も一人で担ってきた。 しかし義父の法事の日、義母は親族の前で「遺産は全部娘に渡す。嫁には一円もやらない」と笑いながら宣言する。 限界を迎えた香織が「では出ていきます」と告げると、夫も五歳の息子も一緒に家を出ることを決意。 三人が去った途端、義母の生活は崩れ始める。さらに、香織が十年間隠し持っていた亡き義父のノートには、誰も知らない前田家の秘密が記されていた――。人生逆転|嫁姑|介護|金銭問題2.4万字5 850 -
完結第22話
離婚裁判で7歳の娘が見せた秘密の映像
夫の健太郎から突然離婚を突きつけられた詩音。七歳の娘・柚月の親権も、自分が貯金を出した家も奪われようとしていた。 夫が提出したのは、詩音を「母親失格」に仕立てる写真と専門家の意見書。しかし、資料の矛盾や消えた預金を調べるうちに、夫の隠された計画が浮かび上がる。 そんな中、柚月は画面の割れた古いタブレットを頑なに手放そうとしなかった。 そして裁判の日、娘が口にした思いがけない言葉。 「裁判長、ママも知らないもの、見せていい?」 七歳の娘が守り続けていた秘密とは――。人生逆転|夫婦|裡の顔|親子関係3.1万字5 305 -
完結第20話
7年伸ばした髪を妹に切られた日、婚約者まで笑った
七年間大切に伸ばしてきた髪を、妹の美緒に突然切り落とされた凛。ところが両親も婚約者の修も、泣きそうな彼女を見て笑うばかり。それどころか、凛が泣き出すまでの時間を賭けていた。 長年、家族のために自分の希望を諦めてきた凛は、ついに婚約を破棄し、遠く福岡への転勤を決意する。 だが、彼女が去ったあと、家族が遊び半分で撮影していた動画から、思いがけない事実が明らかになっていく。 失った七年間を取り戻すように、新しい人生を歩み始めた凛。彼女を笑い続けた人々を待ち受ける結末とは――。因果応報|人生逆転|嫁姑|夫婦|真相|第二の人生2.9万字5 657