"夫の顔と20年目の罪" 第11話
護師や医師たちも、壁際で静かに見守っていた。
以のように、私は暗ので音を探す必はなかった。
目のには、があった。
けれど鍵盤に指を置いた瞬、私は気づいた。
私にとって切なのは、見えるかどうかだけではない。
音は、今もからまれる。
私は静かに弾き始めた。
最初の音がホールに響いた瞬、客席の空気が変わった。
母から教わった音。
父が守ってくれた音。
20、暗ので磨き続けた音。
そして、今の私自の音。
演奏が終わると、会にはきな拍が広がった。
ふと正面を見ると、浩司がっていた。
優しい顔で、私を見守ってくれていた。
その表をこの目で見られることが、こんなにも幸せなのだと、私は初めてった。
コンサートの、私は病院の庭にた。
夕方のが、壇のを柔らかく照らしていた。が吹くたびに、びらがさく揺れる。
そこにはガーベラが咲いていた。
赤、黄、オレンジ、。
今まで触れることしかできなかったのが、目のに広がっている。
私はゆっくりしゃがみ込み、びらに指先で触れた。
20、病でさな束を受け取った、私はそのを見ることができなかった。
けれど、確かに覚えている。
優しい声。
きな。
「言葉は、自分で調べてごらん」
あの言葉があったから、私はきようとえた。
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「はるか」
背から浩司の声がした。
私は振り返った。
彼はのまま、庭の入にっていた。夕を受けた顔はし眩しそうで、それでも穏やかに微笑んでいた。
「ガーベラ、きれいね」
私が言うと、浩司は隣にしゃがんだ。
「見えるようになってから、初めてちゃんと見た?」
「うん」
私は頷いた。
「こんなにるいだったのね」
浩司はしだけ笑った。
「君に似うとったんだ。20も、今も」
その言葉に、胸が温かくなった。
すべてが美しいいに変わったわけではない。
母を失ったしみは消えない。
失われた20も戻らない。
信じていた叔父や義両親、幸恵さんに裏切られた傷も、簡単には消えない。
そして浩司に対する信も、完全にゼロになったわけではない。
けれど私は、もう目を背けたくなかった。
見えるということは、幸せなものだけを見ることではない。
醜いものも、残酷なものも、のさも、嘘も見ることになる。
それでも、目を背けなければ、いつか朝は昇る。
私はそう信じたいとった。
「浩司さん」
「何?」
「私、これから嫌なものもたくさん見るとう」
彼は静かに私を見た。
「の嘘も、裏切りも、見たくない現実も。でも、それでも見続けるわ」
「うん」
「だって、その先にあなたの顔もあるから」
浩司は瞬驚いたように目を見き、それからし照れたように笑った。
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私はその表を見て、胸がいっぱいになった。
昔の私は、するの顔を像することしかできなかった。
今は違う。
彼が困った顔をするところも、笑うところも、悔しそうに眉を寄せるところも、この目で見ることができる。
それは、怖いことでもあり、幸せなことでもあった。
しばらくして、浩司がそっとを差しした。
私はそのを取った。
20、私のを撫でてくれた。
結婚活ので、偽りの名を背負いながらも私を支えてくれた。
で私を抱き止めてくれた。
そして今、これからのを緒に歩こうとしてくれている。
「さないでね」
私が言うと、浩司は真剣な顔で頷いた。
「もうさない」
私は微笑んだ。
夕暮れの空は、ゆっくりと茜に染まっていた。
病院の窓にはかりが灯り始め、庭にはやわらかなが流れている。くから、患者たちの笑い声が聞こえた。
私は浩司のを握ったまま、ガーベラのを見つめた。
希望。
その言葉は、今の私にとって、ただるいだけの言葉ではない。
絶望の底で差しされたさな。
暗ので失わなかった音。
嘘のに隠れていた本物。
傷ついても、もう度誰かを信じようとする勇気。
そのすべてが、私にとっての希望だった。
これからも嫌なことや辛いことをたくさん見るだろう。
けれど私は、もう目を閉じない。
する夫のをさず、これからのを歩いていこうとう。
を取り戻した私の世界は、決してきれいなものばかりではなかった。
それでも、朝は昇る。
私はそののを、ゆっくりと歩きした。
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