"七五三の不要人物" 第4話
私は暗い座敷に座り、仏壇に置かれた夫の写真を見げた。
「あなた。私は今、何だったのでしょうね」
答えの代わりに、壁計の音だけが響いた。
その、スマートフォンが鳴った。
瑠帆から、の写真が送られてきたのだ。
画面には、武志と瑠帆と莉都の3だけが、れやかに写っていた。
添えられた文章はかった。
今はありがとうございました。親子3の自然な雰囲気が残せて満です。
私は画面を閉じた。
けれど、それで終わりではなかった。
10、写真館から話がかかってきた。
「ご契約代表者のすみ様に、追加発注の確認がございます」
代表者。
そこで私はいした。
写真館との契約は、料を支払った私の名になっていたのだ。
担当者は、し言いにくそうに続けた。
「型パネル、親族配布用のアルバム、それから……物の写り込み修正をご希望されています」
物。
その言葉だけが、の奥に残った。
私は静かに尋ねた。
「その物とは、私のことですか」
話の向こうで沈黙が落ちた。
担当者の答えを待つまでもなかった。
私は写真のには入っていない。それでも、撮に参の端や鳥居の脇へ写り込んだ姿があったのだろう。
その姿さえ、消そうとしている。
の夜が窓をかすかに鳴らした。
私はようやく理解した。
私は写真からされただけではない。
広告
そこにした痕跡まで、消されようとしていたのだ。
「承認しません。その追加発注は、すべて止めてください」
私は写真館の担当者に、静かに告げた。
「承いたしました。契約代表者様のご判断として処理いたします」
契約代表者。
その言葉が、めた湯呑みのようにのでく残った。
族写真には入れない。
けれど、契約と支払いだけは私が代表者。
ずいぶん都のよい族制度だった。
「お願いがあります」
私は続けた。
「追加発注の依頼内容と料細を、私宛てに送っていただけますか」
数、い封筒が届いた。
封を切る、指先がわずかに震えた。
には料細と、追加発注の依頼フォームの控えが入っていた。
そこには、はっきりとかれていた。
祖母はメインの族写真に入れない。
昔の着物で、写真全体の雰囲気にわない。
背景に写り込んだは修正を希望。
私は、その3を何度も読み返した。
鳴りたいほど腹がつかとっていた。けれど、議なほどは静かだった。
胸の底へ、たいがしずつ満ちていくようだった。
は泣く所を通り越すと、こんなにも静になるのだろう。
私はの作業台に座り、引きしをけた。
には、古い帳面と封筒が何冊も入っている。
夫がきていた頃から、のは1円単位で記録してきた。
広告
「は事だが、帳面は嘘をつかない」
それが夫の癖だった。
私はその言葉に従ってきただけだ。
武志夫婦がマンションを購入したの、420万円。
莉都の産準備費、70万円。
初節句、30万円。
保育園の入園準備、25万円。
今回のにかかった写真代、装代、事会費用、わせて66万8000円。
そのほかの細かな振込をすと、計は642万8000円になった。
数字は、実に無だ。
しかし、どんな言い訳よりも雄弁だった。
私は武志から届いた過のメッセージも印刷した。
今回だけ。
莉都のためだから。
末には返す。
瑠帆も謝している。
けれど、そのに返済の記録は度もない。
謝の言葉も、ほとんど残っていなかった。
あるのは、お願いと沈黙だけだった。
夜の内は静まり返っていた。窓のではから吹くが、古い板をさく揺らしている。
私は作業台のに、振込の控え、領収、細、写真の修正依頼フォームを順番に並べた。
布の傷みを枚ずつ確認するように、私は考えた。
どこから関係が裂けたのか。
どこで見落としたのか。
そして、どこで縫うのをやめるべきだったのか。
その、武志から話が入った。
「母さん、写真の追加注文を止めたんだって?」
声には焦りよりも、満が混じっていた。
「ええ。私が支払う契約になっていましたから」
「困るよ。瑠帆が親戚に配るって決めていたんだ」
「親戚に配る写真から、私は物として消される予定だったのでしょう」
話の向こうで、武志が息をんだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
75万円を借りに来た私に、銀行が告げた65億円の秘密
十四年間、洋服直しの仕事を続けてきた石田牧は、自分の店を開くため、不足する75万円を借りに銀行を訪れた。ところが支店長から告げられたのは、自分に約65億円の信託財産があるという信じがたい事実だった。亡き母は大手物流会社の創業家の娘だったという。なぜ母は貧しい暮らしを選び、巨額の財産を隠し続けたのか。戸惑う牧の前に、初対面の叔父が現れ、21億円で株式を買い取ると申し出る。突然手にした財産の裏には、家族が長年隠してきた秘密と思惑があった。真実|第二の人生|親子関係|金銭問題2.3万字5 418 -
完結第10話
手取り23万円の俺、旅館で妻が「お嬢様」と呼ばれた
手取り月23万円のトラック運転手・中村和也は、妻の彩佳と娘の結衣を何よりも大切にしていた。幼い頃、亡き父と交わした温泉旅行の約束を果たすため、毎月五千円を五年間積み立て、ようやく三十万円を貯める。結婚記念日に彩佳が選んだのは、山奥に佇む名門旅館「月影楼」。質素な暮らしの自分たちには場違いに思えたが、玄関に到着した途端、従業員が彩佳に深々と頭を下げた。「お嬢様、お帰りなさいませ」。妻が長年隠してきた過去とは何なのか。家族への愛と、思いがけない運命の再会を描く物語。人生逆転|夫婦|第二の人生|親子関係2.4万字5 1431 -
完結第20話
五歳で売られた天才少女、悪意を嗅ぎ分け父を救う
母を亡くした五歳の少女・ゆえんは、祖母に五百元で売られそうになり、父・陸長風を探すため村を脱出する。悪意を異臭として感じ取り、難解な数式や医学の知識まで理解する不思議な力を持つ少女は、旅の途中で国防研究所の主任を救い、省都の名門・陸家へたどり着く。しかし、父は極秘任務のあと消息を絶っており、母が遺した銀の首飾りには国家機密に関わる秘密が隠されていた。迫りくる敵の魔の手、そして謎に包まれた父の行方。小さな天才少女が、その知恵と勇気で運命を切り開いていく。因果応報|人生逆転|祖父母と孫2.2万字5 639 -
完結第12話
昭和46年、三日で逃げ帰った兄と消された就職記録
昭和46年、十五歳の正男は集団就職で東京へ向かった。しかし三日後、傷だらけで村に戻り、母に「家族を捨てるのか」と責められて家を追われる。それから26年。妹の美枝は、駅の記念展示を準備する中で、兄と一緒に旅立った少年三人の就職先が書き換えられた写真を発見する。約束された工場に入っていなかった少年たち、燃やされた契約書、口を閉ざす大人たち。なぜ兄は、次の就職列車を止めようとしたのか。長く「逃げ帰り」と呼ばれた帰郷の理由を、妹が追い始める。時代|歴史|昭和|絶縁|親子関係2.7万字5 216 -
完結第10話
四年分の介護記録
四年間のシンガポール赴任を終え、出世を手に帰国した52歳の高橋健一。胸には、妻・由美に突きつけるための離婚届があった。 しかし帰宅した彼を待っていたのは、真っ白な髪と痩せ細った体に変わり果てた妻、そして半年前に亡くなった母の仏壇だった。 重度の認知症を患った義母を、たった一人で介護し続けた由美。夫が毎月送った30万円では到底足りず、彼女はすべてを犠牲にしていた。 そして由美が差し出した四年分の介護記録と、亡き母が残した最後の遺言が、健一の人生を大きく揺るがしていく。嫁姑|夫婦|親子関係|介護1.7万字5 1760 -
完結第20話
葬儀3日後、姑に追放された私に亡き夫からの連絡
物流センターの事故で夫・直人を突然失った41歳の美和。しかし義母の数枝は、妻である美和に夫の顔を見ることすら許さず、葬儀を強引に取り仕切る。さらに葬儀の三日後、香典三百万円以上を独占し、13歳の娘・咲と美和を雨の夜に家から追い出してしまう。 絶望の中、親友に助けを求めた美和のスマートフォンに、午前四時、信じられないメッセージが届く。 「生きてる。母には言うな」 送信者は、火葬されたはずの夫だった。 閉ざされた棺の中にいたのは誰なのか。義母が隠そうとしたものとは――。夫の事故をめぐる疑惑と家族の裏切りを描く、衝撃の逆転サスペンス。因果応報|嫁姑|夫婦|親子関係|金銭問題2.3万字5 724 -
完結第12話
雨宮停留所の黄色い傘
私は六十二歳。幼いころから、ときどき人には見えない姿や声を感じることがある。 山梨の小さな町で叔母の家を片づけていたある雨の日、廃止された停留所の水たまりに、黄色い傘を差した少年が映った。 そこで出会った老女は、四十年近く前に失踪した息子を今も待ち続けているという。 「まだ帰れない」 少年が残した言葉を手がかりに調べ始めると、破り取られたバスの運行日誌、隠された手紙、そして家族が長年伏せてきた秘密が浮かび上がる。 あの少年は、いったい何を伝えようとしているのか。日常ホラー|ミステリー|真相|親子関係2.2万字5 225 -
完結第13話
返せなかった六百二十円
昭和二年、金融恐慌に揺れる東京・神田。銀行員の徳田美佐は、取り付け騒ぎのさなか、印刷所を営む父が請求した預金六百二十円だけを、自分の判断で留めてしまう。 給金を払えなくなった父の工場では職人が去り、父娘の間にも深い溝が生まれる。さらに銀行は「いつでも全額払える」と記した宣伝紙を配り、美佐が認めていない報告書には「確認済」の印が押されていた。 自分の過ちと、銀行が隠そうとする事実。美佐は職を失う覚悟で真相に向き合うことになる。時代|歴史|昭和|親子関係2.8万字5 460 -
完結第10話
「バカ息子」と笑う義父母、旅行中に息子夫婦が消えた
結婚五年目の立花はる子と夫の琢磨は、念願の新居を手に入れた。しかし、何の相談もなく押しかけてきた義父母が居座り、生活費も払わず、家事をすべてはる子に押しつけるようになる。 ある日、買い物から帰った二人は、義父母が自分たちを嘲笑し、子どものことまで侮辱しているのを聞いてしまう。 長年、親の暴言に耐えてきた琢磨が、初めて口にした「もう限界だ」という言葉。 正面から逆らえない夫を守るため、はる子は義父母に三泊四日の温泉旅行を贈り、その留守中に密かな計画を実行する。何も知らず帰宅する義父母を待つ、予想外の光景とは――。人生逆転|嫁姑|親子関係1.7万字5 2280 -
完結第12話
母の葬儀写真に現れた女――銀の花に隠された秘密
幼いころから、人には見えないものが見える紀子。62歳になった彼女は、87歳の母を亡くした葬儀の日、誰も立っていなかったはずの場所に、黒い服の女が写っていることに気づく。女の胸には、銀色の花のブローチ。さらに母の遺品から、見知らぬ女性との古い写真と、秘密の子どもについて書かれた手紙が見つかった。生前、母が繰り返し呼んでいた「千恵子さん」とは誰なのか。そして、棺のそばで聞こえた「あの子はまだ生きてる」という声の意味とは。葬儀写真に残された不可解な影が、半世紀以上封じられてきた家族の秘密を呼び覚ます。日常ホラー|真相|親子関係2.2万字5 339