"七五三の不要人物" 第5話
「それ、見たのか」
「ええ。契約代表者ですもの」
沈黙が落ちた。
私はその沈黙を逃さなかった。
「武志。、へ来なさい」
「母さん」
「おの話をしましょう」
窓ので、たいがまた板を鳴らした。
その音を聞きながら、私はようやくを決めた。
何度でも縫い直してきた親子の布を、今度こそ作業台からろす覚悟を。
「母さん、150万円だけでいいんだ。これがないと、本当にまずい」
翌の午、武志はに現れた。
は曇りで、から湿ったが吹いていた。先の簾が頼りなく揺れている。
武志の顔も、その簾と同じように頼りなく見えた。
目のには濃いがあり、スーツの襟はし曲がっている。靴には乾いたがついていた。
私は作業台の向かいに座布団を置いた。
「座りなさい」
武志は腰をろすなり、両を膝のでく握った。
昔、学で叱られたと同じ癖だった。
けれど、今の私は、昔のようにを撫でる母親ではない。
帳面をく主だった。
私は封筒から、類を枚ずつ取りした。
振込記録。
事会の領収。
写真館の料細。
物の修正を求めた依頼フォーム。
そして、これまでの援助額をまとめた覧。
武志の目が、のを落ち着きなくいた。
「母さん、こんなものまで残していたのか」
「を続けるには、記録が必なの」
私は覧表の番を指で示した。
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「計642万8000円」
武志の唇が震えた。
「そんなに……」
「あなたが忘れていただけです」
の奥で、古い柱計が鳴った。
その音が、やけにきく響いた。
私は、写真館の依頼フォームを武志のへ置いた。
「読んでください」
武志はを見ろした。
祖母はメインの族写真に入れない。
昔の着物で雰囲気がわない。
背景に写ったは修正希望。
読み終えた武志は、顔をげなかった。
「これは瑠帆が勝に……」
「でも、神社で『族だけで撮るから』と言ったのは、あなたです」
その言で、武志の肩がさくねた。
「母さん、悪かった。謝るよ。瑠帆にも謝らせる」
「謝るために、150万円が必なのですか」
武志はをけたまま固まった。
私は続けた。
「おがないと謝らない。おをしてもらえるなら謝る。それは謝罪ではありません。取引です」
武志の両が、膝ので震えていた。
昔の私なら、その震えを見ただけでが折れていただろう。
親は、子どものった姿にい。
だから私は、今まで何度も負けてきた。
「母さん。でも、莉都が困るんだ」
「莉都を困らせる計を作ったのは、私ではありません」
「親子だろ」
「親子だからこそ、見過ごせないのです」
私は覧表を指で押さえた。
「あなたたちの暮らしは、あなたたちの収入だけでは成りっていなかった。けれど、私を族として扱う気はなかった」
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「そんなつもりじゃなかった」
「そんなつもりではなかったことが、ずいぶん積みなりましたね」
私はもう枚のを取りした。
そこには、い文章を記してあった。
今、銭援助はすべて止します。
過の援助については、返済計画を1か以内に面で提してください。
武志はを見たまま、顔を失った。
「母さん、そこまでしなくても」
「そこまでされたのです」
内に沈黙が落ちた。
ではのの隙から、細いが差し始めていた。
私は最に、武志の目を見た。
「ここは仕て直しのです。傷んだなら縫い直せます」
武志は何も言わなかった。
「でも、都よく裂いた親子関係を、私が黙って縫い直すではありません」
武志は類の入った封筒を握りしめ、ゆっくりとちがった。
そのは、まだ震えていた。
けれど私は、もうを伸ばさなかった。
「母さんがし助けてくれれば、こんなことにはならなかった」
武志からかかってきた最の話は、謝罪ではなかった。
の終わりだった。
窓のではたいがり、先の格子戸には細かな滴が並んでいた。濡れたの匂いが内に漂っている。
私は受話器を持ったまま、静かに答えた。
「違います」
「何が違うんだよ」
「私が助け続けたから、ここまで来たのです」
話の向こうで、武志は黙った。
その、武志夫婦がマンションを放したとづてに聞いた。
無理な宅ローン。
見栄のための費。
親戚へ配る豪華なアルバム。
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