"赤ワインの逆転離婚" 第4話
「別に騒いでないでしょう」
「そういう問題じゃないんだよ」
夫はメニューをきながら、さくで笑った。
へ入るまでは嫌が良さそうだったのに、席へ着いた途端、私を見すような態度を取り始めた。
料理が運ばれてくると、その態度はさらにひどくなった。
「俺さ、こういうにはよく来るんだけど」
夫が自げに言い、ナイフで肉を切った。
私はわず顔をげた。
夫と緒に来たことは度もない。それほど頻繁に級へ通っているという話も、これまで聞いた覚えがなかった。
「やっぱり持ちじゃなきゃ駄目だよな。せっかくの肉のうまさを理解できないんだから」
「誰のことを言ってるの?」
「般論だよ」
夫はそう答えたが、線はらかに私へ向いていた。
さらに、頼んでもいない肉の説を始めた。
「いいか、この部位は牛1からししか取れないんだ。焼き方にも決まりがあって、こういう肉は――」
夫が話している内容が正しいのかどうか、私には分からなかった。ただ、声だけは内の静けさを壊すほどきかった。
せっかくの肉は確かにおいしかった。それなのに、夫のったかぶったような説がに入り続け、をゆっくり楽しむことができない。
夫はワインを何杯もみ、次第に声をきくしていった。
「やっぱり級肉には級ワインだよなあ」
広告
周囲の客がわずかにこちらを見る。私は恥ずかしくなり、声を落とすよう目で訴えた。
しかし夫は気づかないふりをし、グラスを揺らした。
「おさ、もうし女を磨けよな」
あまりにも唐突な言葉に、私はナイフを持つを止めた。
「何をいきなり言ってるの?」
「俺、おとこのまま夫婦を続けていく自信がないわ。もうし魅力のある女じゃないとな」
瞬、何を言われたのか理解できなかった。
夫の表には冗談を言っている様子がない。むしろ、以から準備していた言葉をようやくにできたような顔をしていた。
胸のに溜まっていたものが、りとなって気に込みげた。
「あなたこそ、のことを言えるの?」
夫はグラスを置き、眉を寄せた。
「何だよ」
「級に似つかわしくない声をして、聞いてもいない識を並べているでしょう。マナーも何もないじゃない」
私は夫の目をまっすぐ見た。
「に女を磨けと言うに、あなたこそ魅力のある男になれば?」
その瞬、夫の顔が凍りついた。
言い返せずにを閉じた夫を見て、私はのでさく舌をした。いつも方に傷つけられてきたのだから、しくらい言い返しても罰は当たらない。
そうっただった。
「ほら、彼はとっても魅力のある男性ですわよ」
背から、聞き覚えのない女の声がした。
広告
「それも分からないあなたには、これをプレゼント」
振り返るもなかった。
から液体が勢いよくり注ぎ、界が瞬赤く染まった。たいものが髪から額へ流れ、頬や首筋を伝ってワンピースへ落ちていく。
「えっ……?」
私は息を止めた。
へ届いたいりで、それがではなくワインだと分かった。
「恵!」
夫が驚いた声をげ、子を蹴るようにちがった。
私は震えるで自分の胸元を見ろした。せっかく選んだいワンピースは、広い範囲が赤く染まっている。
髪の先からも赤い雫が落ち続け、いテーブルクロスやへ染みを作っていた。
慌てて振り返ると、そこには1の女性がっていた。
華やかなフォーマルドレスにを包み、きれいにえた髪と化粧が印象な女性だった。にはワインボトルを握り、元には勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
女は空になったボトルを軽く掲げた。
「ワインのおはどう?」
私は子の背へをつき、どうにかちがった。
理解が追いつかなかった。見覚えのない女性から、なぜ突然こんなことをされなければならないのか。
「あなた、体誰ですか」
声が震えたのは恐怖ではなく、りのせいだった。
「どうしてこんな真似をするんですか?」
女性は悪びれる様子もなく、きな声で笑った。
「だって、あなたがあまりにも庶民で、この所に釣りいだったから」
周囲の客が会話を止め、こちらを見ている。私は恥ずかしさとりで全がくなった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
腎臓をあげた私に離婚届――夫の隣には若い女
三歳の娘を育てる裕子は、重い腎臓病になった夫・英司を救うため、自分の腎臓を一つ提供した。ところが手術後、体調を崩した裕子を待っていたのは、夫からの暴言と冷たい仕打ちだった。やがて英司は、若い女との新生活を理由に離婚届を突きつけ、娘まで奪おうとする。そんな裕子の味方になったのは、意外にも義母だった。命を救ってくれた妻を平然と捨てようとする夫。すべてを失いかけた裕子は、娘と自分の人生を守るため、反撃を決意する。夫婦|真実|裏の顔|真相|第二の人生1.4万字5 257 -
完結第12話
新婚旅行に便乗する義母を空港に残した結果
新婚旅行で大阪へ向かうみちると健二。ところが、何かと二人の予定に入りたがる義母・恵子が「私の航空券も買って!」と空港から電話をかけてきた。何度断っても諦めない義母を避け、二人は夜行バスで出発。これで夫婦水入らずの旅行になるはずだった。しかし恵子は、二人の荷物に目をつけ、とんでもない方法で後を追おうとする。さらに健二の友人・圭司の借金騒動まで絡み、大阪では思いもよらない珍事件が発生。暴走する義母と、それに振り回される人々のドタバタコメディ。嫁姑|夫婦|真相1.3万字5 263 -
完結第16話
午前3時、警察から「夫を迎えに」――私は独身なのに
神堂グループを率いる美桜のもとに、午前3時、警察から奇妙な電話が入る。「ご主人を迎えに来てください」。しかし、美桜は一度も結婚したことがなかった。保護された男性が持っていたのは、5年前の爆発事故で亡くなったはずの婚約者・一条蓮との婚姻届の控え。半信半疑で警察署へ駆けつけた美桜は、信じられない光景を目にする。空白の5年間に何があったのか。そして、なぜ今になって彼が現れたのか。かつての事故をめぐる疑惑と、身近な人物の隠された思惑が、少しずつ明らかになっていく。夫婦|裏の顔|真相2.7万字5 305 -
完結第12話
結婚式に来ないと怒鳴る義母→義父「もう会場にいるぞ?」
母の美容院を継いだ誠は、医師の新と結婚して三年。夫婦仲は良好だったが、医者一家の義母からは学歴や職業を理由に見下され、嫌がらせを受け続けていた。そんな中、義弟の陸が看護師のかな子と結婚することに。義母は二人の豪華な披露宴を自慢し、誠への嫌味をますます強めていく。そして迎えた結婚式当日。朝早くから会場にいた誠のもとへ、義母から突然の怒鳴り電話がかかってきた。しかし、義父が電話を代わった瞬間、思いがけない事実が浮かび上がる。嫁姑|夫婦|真実|裏の顔1.6万字5 373 -
完結第10話
出産3日目、1億円の入金直後に夫が離婚届
娘を出産してわずか三日。病室で体を休めていた立花玲奈の口座に、父から譲り受けた株式の特別配当金、一億円が振り込まれた。その直後、見舞いに来た夫・直樹が突然離婚届を差し出す。しかも、財産分与として五千万円を要求し、自分の会社への融資継続まで求めてきた。夫の本性を知った玲奈は、追加融資と家族カードを止め、離婚に向けた準備を始める。ところが、カードの利用明細を調べると、身に覚えのない高級ホテルや宝飾店への支払いが次々と見つかり……。夫婦|真相|親子関係1.8万字5 232 -
完結第10話
正月の高級焼肉、嫁の席だけ外した義母の誤算
結婚して六年、藤森美代は毎年正月になると、夫の実家で親戚たちの世話を押しつけられていた。集合写真にさえ入れてもらえず、いつも一人だけ台所で過ごしてきた。今年は赤坂の高級焼肉店で集まると聞き、ようやく皆と食事ができると思っていたのだが、出発直前、義母から「嫁の分は予約してない」と告げられる。怒った夫はその場で帰宅を決意。ところが、二人が帰った途端、義母と義姉は思いがけない事態に追い込まれる。高級焼肉の予約に隠されていた、二人の本当の狙いとは……。兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|ATM扱い1.7万字5 1621 -
完結第12話
結婚式当日「新婦が救急搬送」私、ここにいますけど?
高校時代から付き合ってきた健二と、ようやく結婚することになった警察官の愛。式の準備をほとんど任せきりにする健二に寂しさを感じながらも、愛は幸せな結婚生活を信じていた。 ところが結婚式当日の朝、式場に「新婦の愛さんが病院に運ばれた」という連絡が入る。愛本人は、ウェディングドレス姿で控室にいるというのに。 しかも病院の女性は、健二を呼んでほしいと言っているらしい。そこへ遅れて現れた健二は、愛の姿を見るなり顔色を変えた。 病院にいる「愛さん」は誰なのか。そして、長年信じてきた婚約者が隠していた秘密とは――。因果応報|人生逆転|夫婦|修羅場1.3万字5 809 -
完結第14話
昭和35年、高校を諦め祇園へ渡った15歳の少女
昭和35年、京都・丹後の貧しい農家に生まれた15歳の文代は、家族の暮らしを助けるため、高校進学を諦めて祇園の置屋へ奉公に出る。美しい舞妓への憧れを胸に飛び込んだ世界で待っていたのは、早朝からの雑用、厳しい言葉遣いの指導、足に血がにじむほどの芸の稽古だった。先輩芸妓に助けられながら修行を重ね、やがて「市春」という名を授かった文代。しかし、初めてのお座敷で目にしたのは、華やかな着物の裏に隠された大人の世界だった。故郷の家族を思いながら、少女は厳しい花街で自分の道を切り開こうとする。時代|歴史|昭和|夫婦1.9万字5 133 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 990