"喪服の離婚届" 第3話
うちの世体に関わることなんだから、絶対にけちらないでよ」
私は何も言わず、静かに頷いた。
そのの夜、誠治は卓でビールをみながら、自げに仕事の話を始めた。
「今の商談もうまくいったよ。俺の営業力には誰もかなわないな」
私はおかずの皿を差ししながら尋ねた。
「あなた、先週の曜、若のと事へったと言っていたわよね」
誠治の箸が、瞬だけ止まった。
「ああ。それがどうした」
「おの名、覚えている?」
彼は眉を寄せ、私を睨んだ。
「いちいち覚えているわけないだろ。仕事の付きいなんだ。にいるだけのおには、の世界の複雑さなんて分からない」
私は黙って、その顔を見つめた。
父が作った会社で働きながら、平然と嘘をつき、妻を見す男。
彼のには、私に対する敬も、会社に対する誠実さもなかった。
翌、誠治の斎を掃除していた私は、類のに隠された茶封筒を見つけた。
には、見覚えのない方の通帳が入っていた。名義は、瀬誠治。
ページをくと、毎のように5万円、8万円、10万円という自然な入が記録されていた。
振込のは、佐藤正。
佐藤材の社と同じ名だった。
入のくは、誠治がみ会だと言って夜に帰宅したの翌だった。
会社の規定では、取引先から個に銭を受け取る為は固く禁じられている。
広告
これは単なる規則違反ではない。
父の会社に対する、確な裏切りだった。
私は通帳を元の封筒へ戻した。
胸の奥で、りともしみとも違う、たくいものが形を持ち始めていた。
昼、庭を掃いていると、垣根越しに照代と隣の話し声が聞こえてきた。
「照代さん、最よくおかけしていて羨ましいわ。息子さんがお遣いをくださるんですって?」
照代は得げに笑った。
「そうなのよ。うちの息子は会社でも特別ならしくてね。毎、私のために特別なお遣いを用してくれるの。嫁には内緒で渡してくれるところが、またいのよ」
私は箒を持ったまま、きを止めた。
誠治が母親へ渡していた特別なお遣い。
そのがどこから来ているのか、もう分かっていた。
彼は父の会社を利用して得たで、母親をばせていたのだ。
私が毎節約し、費を捻している裏で、は正なを使い、自分たちの優越を満たしていた。
夕方、私は古い帳を取りした。
そこには、誠治が遅く帰宅した、自然な費があった、酒の匂いをさせて暴言を吐いたを記録していた。
今の付の欄に、しく見つけた名と佐藤正の名をき加えた。
文字をくがし震えた。
恐怖ではない。
これ以、都のいいとして消費されないための準備だった。
広告
夜、誠治は嫌で帰宅した。
「来あたり、営業部の責任者に推薦されるかもしれない。部が俺の成績をく評価してくれているんだ」
私は相槌を打たず、黙って彼の茶碗にご飯をよそった。
「だから曜は、ちゃんとにいろ。俺の世に関わるんだ。んだ父親の法事なんかでを空けるな」
その言葉は、もうに届かなかった。
私はただ、彼の顔を静かに観察した。
このは、自分がっている面が崩れ始めていることに、まるで気づいていない。
、兄からメッセージが届いた。
――調査委員会は曜に最終報告をまとめる。
父の回忌の翌だった。
その夜、私は壁に掛けた黒い喪を見げた。
曜、父にをわせるは、私がこのと決別するになるかもしれない。
もう夫の正を見逃すつもりはなかった。
照代のない言葉にをげるつもりもない。
父が残してくれたものを守るため、自分ので歩かなければならなかった。
曜の朝、私は黒い提げに数珠と典を入れていた。
そこへ照代が入ってきた。
「朝からそんな縁起の悪い物をさないでちょうだい」
彼女は提げを奪い取った。
「曜が終わるまで、私が預かっておくわ。どうせした額も入っていないんでしょう。お寿司代のしにでもしなさい」
「返してください」
を伸ばすと、照代はややかに私を睨んだ。
「体、あなたのお父さんなんてさな会社の社だったんでしょう。
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
親友に夫を譲った日
家事、育児、義母の介護、そしてパート。 小島弥生は10年間、夫・友幸の家庭を支えるために、休む暇もなく働き続けてきた。 そんなある日、出張から戻ったはずの夫が、突然リビングで土下座する。 「お前の親友を妊娠させた」 隣にいたのは、大学時代から親友だと思っていた舞子だった。舞子は悪びれるどころか、勝ち誇った顔で言い放つ。 「旦那はもらうから、あんたは出ていって」 しかし弥生は泣き崩れることも、怒鳴ることもしなかった。 「喜んで」 そう答えた彼女は、実は5年前からすべてを知っていた。夫の裏切りも、親友の本性も、そして自分が見下され続けていたことも。 証拠、住まい、収入、義母の行き先。 すべての準備を終えた弥生が静かに家を出た3日後、舞子から血相を変えた電話がかかってくる。 奪ったはずの夫には、もう何も残っていなかった――。夫婦|熟年離婚1.1萬字5 61 -
完結第9話
捨てた妻の春
離婚したその日、吉田静香は妊娠3ヶ月だった。 夫・城戸隼人は初恋の女性と再婚するため、静香の涙にも気づかず離婚協議書に判を押した。そこには「婚姻中の子供なし」と記されていたが、静香のお腹には、すでに小さな命が宿っていた。 引き止めることも、告げることもせず、静香は1人で子供を産む決意をする。 生まれた息子・春を抱きしめながら、彼女は小さな写真館「時間」を開き、母として、写真家として、懸命に生きていった。 それから12年後。 春の卒業式に、成功した実業家となった隼人が来賓として現れる。何も知らないままステージに立った彼の前に、花束を抱えた1人の少年が歩み寄った。 その顔を見た瞬間、隼人の表情が凍りつく。 失った時間は、どれだけ金を積んでも戻らない。 12年越しに明かされる真実が、彼の人生を静かに崩していく――。夫婦|不倫1.4萬字5 127 -
完結第9話
喪服の隠し子
病弱だった妹・ユキが、結婚からわずか2年で突然この世を去った。 最愛の妹を見送る葬儀の最中、姉のサチは偶然、妹の夫・タクが誰かに電話している声を聞いてしまう。 「子供は大丈夫だ。バレてない」 ユキとタクの間に子供はいない。けれど亡くなる直前、ユキは確かにサチへ何かを伝えようとしていた。 「実家……子供がいる……」 妹が最後に残した謎の言葉。葬儀中に聞いた夫の不審な電話。そして、誰もいないはずの義実家にいた若い女性と幼い子供。 全てがつながった時、サチは初めて知る。 妹はただ病に倒れたのではない。夫とその家族に、何年も残酷な秘密を隠され続けていたのだ。 妹が最後まで伝えようとした真実を暴くため、サチは静かに動き出す。因果応報|人生逆転1.3萬字5 249 -
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 998 -
完結第14話
51%の警備員
30年間、大成グループ本社の正門に立ち続けた年老いた警備員・大川松蔵。 社員の名前を覚え、体調の悪い者にはそっとコーヒーを渡し、誰よりも深く頭を下げてきた男だった。だがある日、会長の息子である専務・大森貴彦は、そんな松蔵を社員たちの前で罵倒し、胸の名札を乱暴に引きちぎる。 「今すぐ出て行ってください」 松蔵は何も言い返さず、床に落ちた名札を拾い、静かに会社を去った。 しかし翌日、貴彦を代表取締役に選任する臨時取締役会に、松蔵は古い背広姿で現れる。 昨日まで誰もがただの警備員だと思っていた老人。その正体を知った瞬間、経営陣は一斉に立ち上がり、彼に向かって深々と頭を下げた。 なぜ、30年間ロビーに立ち続けた警備員が、会社の運命を左右できるのか。 そして、引きちぎられた名札に隠されていた本当の意味とは――。因果応報|人生逆転2.1萬字5 1028 -
完結第13話
霧葬の山岳会
1998年10月、長野県の山岳会で、ただ1人の女性会員・高木真美が白い霧の中から姿を消した。 翌年に結婚を控えていた28歳の真美。仲間たちと向かった秋の黒岩岳で、彼女は突然行方不明となり、事故による滑落として処理された。赤いキャップとちぎれたザックの一部だけを残して、遺体は見つからなかった。 残された母は、娘の死を受け入れられないまま、毎年10月12日になると警察へ手紙を書き続けた。 「あの日、娘に何があったのか。どうか、もう一度調べてください」 そして16年後。 黒岩岳の岩の隙間から、古い登山靴と人骨が発見される。そこは、滑落した人間が偶然たどり着くにはあまりにも不自然な場所だった。 さらに遺骨には、事故では説明できない傷が残されていた。 16年前、霧の中で本当は何が起きていたのか。 そして、山岳会の仲間たちはなぜ同じ証言を繰り返したのか。 母の手紙が止めなかった時間が、ついに閉ざされた山の沈黙を破り始める。因果応報|行方不明|孤獨2.0萬字5 1224 -
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 2071 -
完結第10話
車椅子妻の断罪
建築事務所の代表として成功し、銀座に複数の商業ビルを所有していた鈴木加奈。 しかし3か月前、現場での転落事故により下半身不随と診断されてから、彼女の人生は一変する。献身的な夫を演じる健二は、病室で薬に朦朧とする加奈の指を使い、財産と経営権を奪う書類に指印を押させていた。 さらに、加奈の回復の可能性を隠し、リハビリまで中止させていたことが判明する。 何も知らない患者のふりをしながら、加奈は密かに証拠を集め、夜ごと誰にも知られず足を動かす訓練を続けていた。 そして真夏のある日、健二は加奈を山奥へ連れ出す。 車椅子のブレーキを外れかけにしたまま、夫は妻を置き去りにした。 だが、夫の車が完全に見えなくなった瞬間、加奈は静かに顔を上げる。 彼女はもう、何もできない妻ではなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 1214