"喪服の離婚届" 第8話
その瞬、誠治の体から力が抜けた。
子からずり落ちるようにへ座り込み、両でを抱えた。
自分が築いたとっていたものは、すべての犠牲のにつ偽物だった。
そして今、そのは完全に崩れった。
同じの正午過ぎ、照代がで過ごすに、郵便配達員が訪れた。
私がいなくなってから、照代は掃除も洗濯も事の支度も、自分でしなければならなくなっていた。
「本当に、あの嫁はいつまで実でさぼるつもりなの」
満をにしながら玄関をけると、配達員がみのある封筒を差しした。
差は法律事務所だった。
居へ戻った照代は、封筒を乱暴に破った。
番には、たい文字が並んでいた。
――婚協議申入並びに慰謝料請求。
夫によるの精神虐待。
会社での正為。
婚姻関係の破綻。
慰謝料の請求。
共財産の厳格な分与。
今切の直接接触を禁じる警告。
「何よ、これ!」
照代は類を茶卓へ叩きつけた。
「あんな貧しい実の嫁が、うちからを取ろうっていうの?」
私の携帯へ何度も話をかけたが、着信拒否になっていた。
照代はさらに激昂した。
「政治が帰ってきたら、すぐ実へ鳴り込ませるわ。連れ戻してやるんだから」
午2を過ぎた頃、玄関の扉がい音をてていた。
「誠治、今は随分いのね」
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照代が玄関へ向かい、息子の姿を見た瞬、言葉を失った。
誠治はネクタイをし、シャツの襟をけたまま、幽霊のような顔でっていた。
元には、会社の私物を詰めた段ボール箱がある。
朝、をたときの自信に満ちた姿はどこにもない。
顔はのように濁り、唇は刻みに震えていた。
「誠治、どうしたの。その荷物は何?」
誠治は返事をせず、ふらつく取りで居へ入った。
茶卓のに置かれた内容証が目に入ると、肩を震わせ、逃げるように目を逸らした。
「母さん。終わった」
絞りすような声だった。
「俺は、もう何もかも終わりだ」
「何が終わったの。しっかりしなさい。由佳から、こんなふざけたが届いたのよ。あんたからも言ってやりなさい」
しかし誠治はることもなく、首を振った。
「無理だ。今、会社を懲戒解雇された。退職もない。損害賠償まで請求されるかもしれない」
照代の顔から血の気が引いた。
「嘘でしょう。あんたは会社で番優秀だったじゃない。役員たちだって、あんたの話を信じてくれたと言っていたでしょう」
誠治は自嘲するように笑った。
「全部、ばれていた。俺がを受け取っていたことも、嘘の報告をしたことも、全部だ」
そして、震える声で続けた。
「由佳の実が、あの会社の創業者族だった」
「何を言っているの。あんな貧しいのが、会社のトップだなんて」
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照代は現実を否定した。
「由佳の兄さんは、会社の専務だった。俺は、あのから直接解雇を言い渡された。由佳が残していた帳で、逃げも全部塞がれた」
誠治は両で顔を覆い、子どものように泣き始めた。
「俺は、これからどうすればいいんだ。もない。仕事もない。まで失うかもしれない」
照代は壁へをついた。
息子が企業のエリートで、貧しい嫁を養っている。
自分たちは、嫁の実よりはるかに優れたなのだ。
そう信じて疑わなかった構図が、根底から覆された。
慰謝料。
財産分与。
会社からの損害賠償。
何より世体を気にしてきた照代にとって、所に真実がられることは、耐え難い恐怖だった。
残されたのは、返済の見通しもない負債と、周囲からのたい線だけだった。
古いのには、誠治の泣き声だけがく響いていた。
弁護士からの報告によると、誠治と照代は連れって法律事務所を訪れた。
誠治は憔悴し、慰謝料の減額と話しいの会を求めたという。
「すべて自分が悪かった。もう度だけ、由佳と話をさせてほしい」
しかし、会社からの損害賠償請求もんでいると説されると、完全に取り乱した。
照代は最初、現実を認めようとしなかった。
「あんな嫁に払うなんて1円もない。息子は騙されたのよ」
けれど、誠治の正を示す入記録と会社側の帳簿、私の帳、父のをにして、言い逃れはできなかった。
支払いのため、はみ続けたを売却するしかなかった。
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