"消えた御曹司と500万の罠" 第6話
運転席へ座っても、悠はしばらくハンドルへを置いただけでかなかった。
健造がろから声をかけた。
「なぜ、そんな顔をしている」
悠はし迷った。
だが嘘をつく気にはなれなかった。
「分かりません」
「何がだ?」
「あの方に呼ばれた……」
悠は胸へを置いた。
「なぜか懐かしいとったんです」
健造の目がいた。
「会ったこともないのに、あの声をっているような気がしました。もちろん、気のせいだといます」
健造はく悠を見つめた。
そして、ほとんど聞こえない声でつぶやいた。
「気のせいではないかもしれない」
その言葉は、悠には届かなかった。
その夜も悠は眠れなかった。
暗い部でさく名をにした。
「悠……」
自分の名なのに、誰かに呼ばれた音だけが妙に懐かしかった。
数。
悠はすっかり会専属の運転として働くようになっていた。
健造は必以に話しかけてこなかったが、折バックミラー越しに悠を観察していることがあった。
そのの午。
本社へ戻ったところで、健造が言った。
「本君。しへ来てくれ」
「私が、ですか?」
会のある最階へ運転が呼ばれることなど、普通はない。
何か失敗をしたのか。
スペイン語の件だろうか。
緊張しながら悠が最階へがると、鈴が待っていた。
案内されたのは会ではなく、その隣にあるさな密保管だった。
広告
鈴は黒い封筒を悠へ渡した。
「会から、この類をの庫へ入れておくよう指示されています」
「承しました」
悠が受け取ると、鈴はそのままちろうとした。
「あの、」
「何でしょう」
「庫の暗証番号は?」
鈴は瞬悠を見た。
「へけば分かります」
それだけ言い残してっていった。
悠は戸惑ったまま部へ入った。
正面の壁に、型庫が設置されている。
数字入力式のパネル。
暗証番号をらないのに、どうやってけるのか。
悠は庫へづいた。
その瞬だった。
「っ……」
激しい痛がった。
界が揺れる。
悠はこめかみを押さえ、庫へをついた。
懐かしい。
そうじた。
初めて見るはずなのに。
ずっと昔、何度もこのにったような覚がある。
悠のがいた。
で考えるに、指が数字を押していく。
0。
7。
2。
9。
カチッ。
庫がいた。
悠は息を止めた。
「……え?」
わずろへがった。
自分が何をしたのか理解できなかった。
その、背のドアがいた。
警備担当者が入ってきた。
いた庫を見るなり、顔を変える。
「どうやってけたんですか?」
「分かりません」
悠自が番混乱していた。
「庫を見たら急にが痛くなって……気づいたら指がいていました」
警備担当者はすぐ無線を取った。
「会。本悠が庫をけました。暗証番号を正確に入力しています」
広告
数分。
健造が自ら姿を現した。
いた庫。
青ざめた悠。
その2つを交互に見た。
「本君」
「はい」
「どうして番号が分かった」
「本当に分かりません」
悠は必に答えた。
「ここへ来るのも初めてです。庫も初めて見ました」
健造は悠をじっと見つめた。
0729。
この番号にはがあった。
悠が4歳だった頃。
健造と息子が遊びで考えた数字だった。
父と子だけの秘密。
幼い悠は、その暗証番号を健造が実際の庫に設定したとると、びがるほどんだ。
「お父さん、これは2だけの秘密だからね」
そう言いながら、指を差しした。
健造は息子を失ったも、その番号を変えなかった。
いつか帰ってくる。
そんな望みを捨てられなかったからだ。
「本君」
健造の声が震えた。
「本当に、この番号をらなかったのか?」
「はい」
悠は真っ直ぐ答えた。
「初めてです」
その目に嘘はなかった。
健造ので、確信がさらにくなった。
スペイン語。
齢。
記憶喪失。
そして父と子しからない暗証番号。
偶然で説するにはすぎた。
それでも健造は慎だった。
20、何度も「息子かもしれない」という報にびつき、その度に裏切られてきた。
今度こそ、確実な証拠が必だった。
悠が部をた、健造は鈴を呼んだ。
「例の検査の準備はできているか」
「はい」
「遺伝子検査をめてくれ」
鈴が頷く。
「本君には?」
「まだらせるな」
健造は庫へを触れた。
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
3年ぶりの帰省、弟嫁がゴミ箱を漁っていた理由
32歳の玲奈は、3年ぶりに実家へ帰り、弟の妻・南が別人のように痩せていることに驚く。夕食の席でも南の前には料理がなく、家族は誰も気に留めない。その深夜、台所で物音を聞いた玲奈は、ゴミ箱を漁る南の姿を目撃する。「食べられるものを探していました」――その言葉をきっかけに、母と弟が南に強いていた異常な暮らしが明らかになっていく。さらに、南が隠し持っていた手帳には、翌朝に迫る恐ろしい約束が記されていた。玲奈は弟嫁を守るため、信じていた家族と向き合う決意をする。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|嫁姑|夫婦|修羅場2.4万字5 438 -
完結第16話
二人きりのはずだった旅行
結婚以来、義母のわがままと、それを当然のように受け入れる夫・俊也に振り回されてきた由香。二人きりの結婚記念日旅行まで義母に台無しにされた翌年、夫は「今度こそ二人だけで行こう」と約束する。ところが出発当日、玄関には大きな旅行鞄を抱えた義母の姿が。「家族なんだからいいだろ」と開き直る夫に、由香は思い切った行動に出る。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題3.0万字5 1230 -
完結第14話
金髪の女子高生に、娘が「ねえね」と手を伸ばした
「ねえね」——1歳10か月の娘が手を伸ばしたのは、金髪にピアス姿の女子高生だった。妻を亡くし、実家で娘の紬を育てる26歳の挿絵画家・湊。思わず娘を抱き寄せた彼とは対照的に、少女・凛は頬を赤くして「可愛い」とつぶやく。それから買い物帰りに顔を合わせるようになり、凛は父娘の日常に少しずつ溶け込んでいく。ところがある夕方、湊は公園で泣いている彼女を見つける。紬が差し出したのは、亡き母から贈られた大切な白いうさぎ。そして凛のかばんにも、古びたうさぎが入っていた。描きかけの絵本に隠された夢と、母親に言えなかった思い。話を聞こうと隣に座った湊自身もまた、誰にも打ち明けられない寂しさを抱えていた。感動|人生逆転1.7万字5 27 -
完結第18話
夜勤明けに鍵を替えられた私
看護師長として働く千歳は、後輩に昇進で追い抜かれ、仕事を休みがちになった夫・徹を支えようとしていた。ところが徹は次第に横柄になり、家事を押しつけ、「妻なら夫に従え」と言い始める。そんなある朝、夜勤を終えて帰宅した千歳は、玄関の鍵が替えられていることに気づく。「ダメ嫁への躾だ。謝れば入れてやる」と笑う夫に、千歳は「あっそ。さようなら」とだけ告げて立ち去った。妻が本気で戻らないと知った徹は、どんな行動に出るのか。自分の人生を取り戻そうとする女性の再出発を描く物語。人生逆転|嫁姑|夫婦|金銭問題2.6万字5 585 -
完結第10話
「中卒女に現場は無理」職人10人が辞めた結果
中学卒業後、十五歳で職人の世界に飛び込んだ堀江千夏。三十二歳で工務店の現場責任者に抜擢されるが、古参の職人頭・岩木は「中卒の女に現場が回せるか」と嘲笑う。やがて岩木を含む十人が一斉に退職。大型介護施設の改修工事は納期目前なのに、残された職人はわずか三人だった。しかし千夏には、十七年間積み重ねてきた技術と、二十冊を超える黒い手帳があった。仲間とともに現場の立て直しに挑む千夏。その一方で、手帳に記された資材の数字が、会社に隠された不審な事実を浮かび上がらせていく。職場逆転|因果応報|人生逆転|修羅場1.3万字5 283 -
完結第10話
こぼされた定食の代償
社員食堂で働く43歳の松尾順子は、料理を通して社員たちを支えることに誇りを持っていた。ところが、営業部の神崎と宮下は、食堂のスタッフを見下し、暴言を繰り返していた。ついには大勢の前で定食を床にぶちまけ、順子たちを笑いものにする始末。さらに職場では不審な情報漏洩も発覚する。そんなある日、専務が食堂を訪れると、二人の態度は一変。順子を知らない二人は、そこで思いもよらない事実を知ることになる。職場逆転|人生逆転|修羅場1.5万字5 600 -
完結第20話
「子なし」と笑われた私に、姪が吹雪の夜に土下座した
43歳の望は、子どもがいないことを理由に、義兄夫婦から嫌味を言われ続けていた。そんな望を慕ってくれるのは、8歳の姪・メイ。しかし正月の夜、猛吹雪の中、幼い妹を背負ったメイが望の家を訪ねてくる。「三千円だけ貸してください。大きくなったら返します」そう言って床に頭を下げる少女。事情を聞いた望と夫の剛は、義兄夫婦が隠してきた恐ろしい実態を知る。因果応報|人生逆転|嫁姑|第二の人生|絶縁1.9万字5 586 -
完結第10話
赤ワインの余興
義妹・真由美の結婚披露宴で、突然赤ワインを浴びせられた美桜。義母も親族も「ただの余興」と笑い、夫の達也まで美桜を責め立てる。 結婚して三年。貧しい嫁だと見下され、家族の言いなりになってきた美桜だったが、実は誰にも明かしていない秘密があった。 しかも、名門病院の跡取りとの結婚を喜ぶ義妹には、恐ろしい裏の顔があった。美桜の手元には、披露宴前夜に録音された決定的な会話が残されている。 華やかな祝宴の裏で進む金と欲望の企み。美桜が静かにスマホを取り出したとき、すべてが動き始める。因果応報|人生逆転|兄弟姉妹|第二の人生1.9万字5 742