"18万円の甘い嘘" 第2話
「すみません……」
田は舌打ちしてれていった。
その背を見ながら、節子には分かっていた。
寄りは使えない。
そうわれているのだ。
休憩になっても、節子の周りには集まらなかった。若いパートたちは恋の話や週末の予定で盛りがり、節子はしれた所で100円のおにぎりをつべた。
誰も話しかけてこない。
節子も話しかけなかった。
会話の輪へ入ったところで、自分には話せることなど何もないとっていた。
午になると膝の痛みがくなった。ちっぱなしで腰までくなり、それでもラインは止まらない。
17。
ようやく仕事が終わった頃には、節子の肩も腕も固まっていた。
ロッカーの鏡に映った顔は、朝よりさらに老けて見えた。
帰りの。
窓のにはのかりが流れていく。
駅を歩く族。
をつなぐ恋たち。
買い物袋を抱えて笑う夫婦。
節子はそれらを見ないようにした。
アパートへ戻っても、待っているはいない。
3階まで階段をがり、息を切らしながら鍵をける。
たい暗い部。
「ただいま」と言っても返事はない。
それでも節子は、の癖で度だけさく呟いた。
「ただいま……」
夕は値引きされた惣菜とインスタント噌汁だった。テレビをつけると若い芸能たちが楽しそうに笑っていたが、何がそんなに面いのか節子には分からなかった。
広告
事を終えると、台所の棚からい焼酎を取りした。
湯で割り、両でカップを包む。
このだけが、節子のの楽しみだった。
むと体の芯がし温まる。
杯目。
杯目。
酔いが回るほど仕事のことものことも考えずに済んだ。
けれど、向かいのアパートの窓に族のが映ると、胸の奥に押し込めていた寂しさが戻ってきた。
誰かと話したい。
誰かに「今も頑張ったね」と言ってもらいたい。
誰かに必とされたい。
そんなことを考える自分を、節子は恥ずかしいとっていた。
62歳にもなって何を期待しているのだ。
もう女として見られる齢でもない。
そう言い聞かせながら布団に入ったが、その夜はなかなか眠れなかった。
夫を支え、働き、節約し、気づけば62。
何のためにきてきたのだろう。
答えはなかった。
そして翌も、その次のも同じだった。
ただつ違ったのは、ある曜の夜。
節子がいつもの乗換駅で、そのままへ帰らなかったことだった。
その、節子は宿駅でをりた、なぜか改札のへた。
特別な予定があったわけではない。で田に何度も鳴られ、膝も痛み、ただいつもの暗い部へまっすぐ帰るのが嫌になっただけだった。
宿のは眩しかった。
ネオン。
きな板。
楽しそうに歩く若者たち。
広告
節子は混みに押されるように歩いた。
ショーウィンドーには、自分なら絶対に買わない値段のコートやバッグが並んでいる。値札を見るたびに「こんなものに何万円も払うなんて」とので呟いた。
気づくと、通りのいからしれていた。
やバー、スナック、夜のが並ぶ通りだった。
そので節子は、軒ののでを止めた。
『MOON LIGHT』
入くの案内には、初回客向けのい料がきくかれていた。
節子はしばらく板を見つめた。
こういうに入った経験は度もない。
自分のような62歳の女が入ったら、笑われるのではないか。
それでも、その夜だけはがかなかった。
へ帰りたくない。
誰かと話したい。
ほんの数千円なら、度くらい自分のために使ってもいいのではないか。
「回だけ……」
誰に言うでもなく呟き、節子は扉をけた。
内は暗く、甘いりがした。静かな音楽が流れ、節子が入で戸惑っていると、若い男性スタッフがづいてきた。
「いらっしゃいませ。初めてですか?」
節子は緊張しながら頷いた。
笑われなかった。
追い返されもしなかった。
それだけでしした。
席へ案内され、いカクテルを注文した。メニューに並ぶ額はどれも節子にはくじられたが、初回だから丈夫だろうと自分に言い聞かせた。
しばらくして、の若い男が現れた。
20代半くらい。
えられた髪。
細のスーツ。
広告
おすすめ作品
-
完結第12話
義母ATM、ハワイへ消ゆ
67歳のみち子は、息子夫婦と孫たちを迎えるため、今年も静かに正月の準備を始めていた。 ところがクリスマスの朝、嫁の歩美から突然告げられる。 「今年は15人で行きますから」 食事、寝具、お年玉、観光費まで、すべて義母であるみち子が用意する前提。さらに歩美は、SNSでみち子を「ATMみたい」と笑い、長年の援助まで馬鹿にしていた。 37年間働き、息子夫婦に2500万円以上を援助してきたみち子は、その日ようやく気づく。 自分は家族に大切にされていたのではない。都合よく使われていただけだったのだ。 そして12月29日。 15人が玄関前に集まった時、家の鍵は開かなかった。 その頃みち子夫婦は、すでに日本にはいなかった――。ATM扱い|親子関係1.8萬字5 8423 -
完結第15話
残り物少年の奇跡
「残り物をください。そしたら、あなたに歩き方を教えます」 高級レストランでそう言ったのは、破れた靴を履いた8歳のホームレス少年・翔太だった。 相手は、事故で歩く力も家族も希望も失った大富豪・佐藤孝志。世界中の医師から「もう歩けない」と告げられ、人生を諦めかけていた男だった。 ただ食べ物を求めて現れたはずの少年は、なぜか孝志の心の奥に隠された絶望を見抜いていた。 毎晩8時の夕食。少年の小さな手が、動かない足に触れるたび、孝志の中で何かが少しずつ変わり始める。 これは奇跡なのか、それとも少年が見つけた“生きる理由”なのか。 残された一皿のサーモンから、壊れた家族と失われた人生が静かに動き出す――。人生逆転|金銭問題2.3萬字5 691 -
完結第8話
消えた仕送り720万円
真冬のある日、55歳の富代は、母の暮らす古いアパートを訪ねた。 部屋の中は外と変わらないほど冷え切り、母は暖房もつけず、毛布にくるまって震えていた。冷蔵庫にはわずかな食材しかなく、長年仕送りをしてきたはずの富代は胸を痛める。 「もっと仕送りを増やすね」 そう告げた瞬間、母は不思議そうに首をかしげた。 「仕送り? 知らないけど」 12年間、毎月5万円。合計720万円。 母のために送っていたはずのお金は、どこへ消えていたのか。疑念を抱いた富代が口座を調べ直すと、そこには夫と義家族が隠し続けていた信じがたい事実があった。 仕送り先を本来の口座に変えた日から、義母、夫、義姉の態度は一変する。 なぜ彼らはそこまで焦ったのか。 凍える母の部屋から始まった違和感は、30年の結婚生活を揺るがす真実へとつながっていく――。因果応報|人生逆転|金銭問題1.2萬字5 2807 -
完結第8話
愛人旅行の代償
定年の日、美和は36年間支えてきた夫・秀治のために、好物の夕食を用意して待っていた。 しかし帰宅した秀治が連れてきたのは、見知らぬ若い女性だった。 「退職金で香織と海外旅行へ行く。帰ってきたら離婚届に判を押せ」 夫はそう言い放ち、さらに美和に家を出て行くよう命じる。長年守ってきた家庭も、妻としての時間も、すべてなかったもののように扱われた美和。 だが、彼女は泣かなかった。 旅行へ向かう夫と愛人を静かに見送り、ただ一つだけ確認する。 「この家のことは、私が決めていいのね」 数日後、海外旅行から戻った秀治を待っていたのは、見慣れた玄関ではなく、ロープで囲まれた更地と「売却済み」の看板だった。 夫が知らなかった、この家の本当の持ち主。 そして美和が36年の結婚生活の最後に下した、静かな決断とは。夫婦|金銭問題1.2萬字5 8484 -
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 991 -
完結第9話
止められた12枚
離婚届に判を押した瞬間、夫と姑は私を追い出し、新しい嫁を笑顔で迎え入れた。 私はただの“稼ぐ妻”だった。夫の遊び代、姑の美容代、義実家の贅沢――すべて私のカードで支払われていたのに、彼らは最後までそれを当然だと思っていた。 だから私は、何も言わずに12枚のカードを止めた。 数日後、元夫は新しい婚約者との豪華なパーティーで、300万円の支払いを求められる。だが差し出したカードは、すでに利用停止済み。 招待客の前で崩れていく見栄。逃げ出す新しい嫁。そして、義実家がようやく気づいた時には、すべてが遅すぎた。 彼らが迎え入れたのは、幸運の女神ではない。 欲望に姿を変えた、破滅そのものだった。因果応報|夫婦|金銭問題1.3萬字5 1169 -
完結第9話
赤い口紅と信託離婚
定年退職の日、香川週一郎は40年勤めた会社を静かに去ろうとしていた。 その日は、妻・のり子の誕生日でもあった。だが朝、赤い口紅を引いて出かけていく妻を見ながら、週一郎はすでにすべてを知っていた。 大学時代の恋人との再会。共通口座からの不審な出金。退職金を使った「別人生」の計画。 のり子は、夫が何も気づいていないと思っていた。 しかし週一郎は半年間、何も言わずに証拠を集めていた。そして退職金2700万円は、妻が一切触れられない場所へ移されていた。 その日の夕方、妻が帰宅した時、家から夫の痕跡だけが消えていた。 ダイニングテーブルに残されていたのは、手紙と信託公正証書、そして離婚調停申立書。 翌朝、銀行の窓口に立ったのり子は、初めて知ることになる。 夫が怒らなかった本当の理由を――。因果応報|夫婦|金銭問題1.4萬字5 1435 -
完結第8話
残高4800円の老後
退職金2200万円。 38年間まじめに働き、ようやく手にした老後の安心資金。宮田哲夫は、自分の人生を「堅実に生きてきた」と信じていた。 投資詐欺に遭ったわけでもない。ギャンブルに溺れたわけでもない。派手な贅沢をした覚えもない。 それなのに8年後、通帳に残っていたのはわずか4800円だった。 年金13万円の暮らし。車、ゴルフ、息子への援助、家の修繕、物価高――。ひとつひとつは“普通”に見える出費が、退職金を静かに削っていく。 妻のせつ子は何度も家計を見直そうとした。だが哲夫は「なんとかなる」と言い続け、通帳から目をそらした。 そしてある朝、せつ子は家を出ていく。 老後破産の本当の原因は、お金の使い方だけではなかった。哲夫が最後に気づいた、夫婦にとって一番大切なものとは――。人生逆転|退職金|金銭問題1.2萬字5 1570 -
完結第23話
見下した作業服の裏にある真実の誇り
昔、「服が汚い」「職人の家柄は恥ずかしい」と、質素な作業服を見下して婚約を破棄した家族がいました。 彼らはブランドや肩書き、お金だけを見て人の価値を判断し、汗と油にまみれる職人の誇りを「底辺」と蔑んでいたのです。 しかし、彼らが軽んじたボロボロの作業服を着た女性こそ、実は誰よりも大きな会社を守り抜いた真の会長でした。 地位や豪華な着物、華やかな生活。そんな見せかけの栄光を追い求めた一家は、最後に何もかも失いました。 一方、泥にまみれ、手にタコを作り、地道に技術と誇りを守り続けた母と娘だけが、本物の幸せと未来を手に入れたのです。 ✨人生は見た目では決まらない ✨派手な権力より、人間の誠実さが勝つ ✨長年の努力と真心は、必ず報われる ただ金や地位を追うだけの虚しい人生より、自分の仕事を愛し、誇りを持って生きる日々こそ、最高の宝物です。 年月を重ねるほど、心に染みる真実の物語です。 皆さんも、大切な方へシェアして、人生の教訓を分かち合いませんか?人生逆転|金銭問題|修羅場3.5萬字5 530 -
完結第26話
十五年の忍び、本物の令嬢として帰る
離婚 3 日後、父と食事をしていたところ元夫と愛人にばったり。 「金持ちにすがっただけ」と馬鹿にして笑う二人。 私が「お父さん」と呼んだその瞬間、二人の顔から笑みが消え、全身凍りついた。 15 年間踏みにじられた尊厳、今日全部取り返す。因果応報|人生逆転|金銭問題4.0萬字5 6288