"床下の小さな指輪" 第6話
顔をわせさせるな」
文は1号。
健は2号。
英は3号。
田が最初に入ったのは、英の部だった。
35歳になった英は、子ので膝を細かく震わせていた。
「19911116、どこにいました?」
「そんな昔のこと……」
「を退しています」
勤務記録のコピーを置く。
英の顔からが消えた。
「母が具が悪いって連絡してきて……」
田は机をく叩いた。
「嘘はもういい」
英の肩がねた。
田は、まだ誰も自していないことを承のうえで言った。
「兄さんとお母さんは、もう話し始めていますよ」
英が目を見いた。
「え?」
「2とも、セメントを塗ったのは英だと言っている」
「そんな……」
「自分たちはをしていない。弟が勝にやったと」
英の顔が歪んだ。
「違う!」
「何が違うんです?」
「僕は言われたからやっただけです!」
田は気にを乗りした。
「何を?」
英は両でを抱えた。
「セメントです」
震える声が漏れた。
「兄さんに言われて、セメントを練っただけです。義姉さんには触っていません」
田は表を変えなかった。
「どうして夜にセメントを?」
英の呼吸が荒くなった。
「それは……」
「に誰がいたんです?」
英は答えられなかった。
しかし、それで分だった。
6閉ざされていた族のから、最初の亀裂が入った。
2号では、健がなほど落ち着いた顔を見せていた。
広告
田が入ると、内ポケットから1枚のを取りし、机のへ置いた。
「刑事さん。これで分かるでしょう」
横浜内の旅館の領収だった。
付は19911116。
「僕はあの夜、横浜にいました」
健は腕を組んだ。
「妻がどうなったかなんてりません」
田は領収を持ちげた。
質、印字、数字。
じっくり見る。
「6、取っていたんですか?」
「引きしを理していたら偶然てきたんです」
「ずいぶん都がいいですね」
「事実ですから」
田は付の部分を指でなぞった。
「この数字、とし違いますね」
健の眉がわずかにいた。
「何がです?」
「1の形が自然に太い。も6の領収にしては妙にしい」
「きな旅館だから、ちゃんとした械で印刷していたんでしょう」
田はを机へ戻した。
「鑑定に回します」
健の表が固まった。
「古い領収を使って付を加したなら、簡単に分かります」
「加なんかしていません」
「そうですか。なら配ありませんね」
健のがテーブルので震え始めていた。
方、1号の文は突然、自分が殺したと言い始めた。
「私がやったんだよ」
担当刑事が尋ねた。
「どうやって?」
「突きばしたんだ」
「美優さんの部にはい打撃痕があります」
文は瞬黙った。
「じゃあ棒で殴った」
「どんな棒です?」
「その辺にあったものだよ」
「何回?」
「覚えてない」
「どこを殴りました?」
広告
「だよ」
「のどこです?」
文は答えられなかった。
さらに遺体をどのようにへ移したのか、誰が穴を掘ったのか、セメントをどの順番で流したのか尋ねると、話はたちまち崩れた。
「もういいだろ!」
文は机を叩いた。
「私がやったと言ってるじゃないか!」
担当刑事は部をると、田へ報告した。
「駄目です。実際の状況をっているの供述とはえません」
田は頷いた。
「息子をかばっている」
しかし、どの息子なのか。
そこがまだ分からない。
田は健の過をさらに洗った。
1991当、健は賭博へ頻繁に入りしていた。
美優が300万円を肩代わりしたもやめていなかった。
事件当の夜について調べると、川町の賭へ入りしていた物からな証言が得られた。
「佐藤健? 覚えてますよ」
話の向こうで男は笑った。
「あの晩、負けして荒れてました」
「1116で違いない?」
「違いない。夜11頃までいた。がなくなって、『へ取りに戻る』ってびしていったんだ」
田は話を置いた。
横浜の旅館などではなかった。
健は事件当の夜、川町にいた。
しかもきく負け、を求めて実へ戻っている。
田はすぐ2号へ戻った。
「健さん」
健は爪を噛んでいた。
「1116の夜、賭にいましたね」
顔が張る。
「何の話です?」
「夜11頃まで。を全部失って、へ取りにくと鳴ってびした」
健は俯いた。
「証言者がいます」
沈黙。
「横浜の領収は偽造。アリバイも嘘。次は何をします?」
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 83 -
完結第12話
膨腹の老人ホーム
長野県郊外の老人ホーム「日和の里」で、ある日を境に高齢女性たちの腹部が次々と異常に膨らみ始めた。 82歳の梅香、78歳の静江、85歳の時子。三人は同じフロアで暮らし、夜になるたびに何かを恐れるような表情を見せていた。介護士の佐藤美咲は異変に気づき、医師への連絡を求めるが、主任の神崎さゆりは「ただの便秘」と取り合おうとしない。 やがて美咲は、三人が夜中に小さな包みを飲まされていたことを知る。 家族との面会は制限され、記録は改ざんされ、施設長と主任は何かを隠している。誰も声を上げられない閉ざされた老人ホームで、美咲だけが真実を追い始める。 しかし、彼女が証拠に近づいた時、今度は美咲自身が地下の暗い部屋へ閉じ込められてしまう。 高齢者たちのお腹に、一体何が入れられていたのか。 そして、すべての真相を知った瞬間、あれほど冷酷だった主任・神崎は、その場に崩れ落ちた――。真相|介護1.8萬字5 460 -
完結第11話
11年目のコロッケ
14歳の秋、黒田み咲の母・裕子は「夕飯のおかずを買ってくるね」と言って家を出たまま、二度と戻らなかった。 父は、母が家の金を盗み、近所の男と駆け落ちしたのだと親族に告げた。置き手紙も見つかり、周囲の大人たちは皆それを信じた。残されたみ咲は、“泥棒の娘”として11年間、父と継母、そして親族たちから辱められ続けることになる。 しかしある法要の日、裏山の古い井戸から、母が消えた日に買ったコロッケのレシートと、泥にまみれたカーディガンが見つかる。 母は本当に男と逃げたのか。 なぜ、継母の失くしたはずのイヤリングが井戸の底にあったのか。 そして、11年間沈黙していた“目撃者”が現れた時、黒田家が守り続けてきた嘘は音を立てて崩れ始める。 母に捨てられた娘だと思い込まされてきたみ咲が、封印された真実へたどり着くまでの、愛と復讐の物語。ミステリー|行方不明1.6萬字5 1209 -
完結第11話
聖火と十円玉
昭和39年10月10日。東京オリンピック開会式の朝、町中が歴史的な一日に浮き立つ中、大田区の小さな町工場では、職人・佐伯正治がいつも通り旋盤の前に立っていた。 急ぎの部品6個を仕上げ、「俺が届けてくる」と自転車で工場を出た正治。取引先には確かに到着し、部品も無事に渡していた。 しかし、その後、彼は家にも工場にも戻らなかった。 妻も仲間も警察も行方を探す中、正治は4日間姿を消す。そして4日目の朝、髭を伸ばし、汚れた上着のまま、左手に包帯を巻いて工場へ戻ってきた。 彼が作業台に置いたのは、1枚の病院の領収書。 東京中が聖火を見つめていたあの日、名もなき職人はどこで何をしていたのか。 歴史には残らなかった、けれど誰かの人生を確かに支えた、昭和の小さな選択の物語。人生逆転|真相1.6萬字5 974 -
完結第10話
終電の風呂敷
昭和36年の冬、東京郊外の小さな私鉄駅に、毎晩必ず終電だけに乗る老婦人がいた。 午後11時38分。灰色の着物に黒い羽織、そして胸に抱えた紺色の風呂敷包み。彼女はいつも同じ時間に現れ、同じ行き先――工場前駅までの切符を買っていく。 昼間には一度も姿を見せず、帰りの切符も買わない。翌朝戻ってくる姿を見た者もいない。それなのに、次の夜になると、老婦人はまた何事もなかったように駅へ現れる。 若い駅員・高木修一は、次第にその風呂敷の中身と、彼女が毎晩終電に乗る理由が気になっていく。 そして小雪の降る夜、高木は初めて老婦人の後を追った。 終電の先にあったのは、眠らない工場街と、夜勤を終えて戻ってくる幼い少女たちの姿。老婦人が風呂敷をほどいた時、高木はようやく知ることになる。 彼女が毎晩運んでいたのは、ただの荷物ではなかった。 誰にも頼まれず、名前も残さず、昭和の片隅でそっと続けられていた小さな恩返し。その温もりが、時代を越えて誰かの心に受け継がれていく――。人生逆転|真相1.4萬字5 2647 -
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 247 -
完結第10話
雪下の赤いマフラー
1998年11月12日、雪の降る旭川で、赤いマフラーを巻いた3人の女子高校生が忽然と姿を消した。 双子の美咲と南、そして親友の彩。3人は放課後の演劇部の練習を終え、いつものように学校を出たはずだった。だが、その日を境に、家族のもとへ帰ることはなかった。 捜索は続いたが、足跡も持ち物も見つからない。吹雪がすべてを消してしまったかのように、事件は未解決のまま17年の歳月が流れていく。 そして2015年。元郵便配達員の古い鞄から、17年間届けられなかった1通の手紙が見つかる。 そこには、こう書かれていた。 「私は、美咲、南、そして彩に何が起きたのか知っています」 手紙をきっかけに再び動き出す捜査。座布団の中に隠された日記、古いカセットテープ、稚内へつながる謎の手紙、そして雪深い小屋の床下に眠っていた赤いマフラー。 3人はなぜ消えたのか。 教師・田中浩は何を隠していたのか。 17年間閉ざされていた雪の中の真実が、今、静かに姿を現す。ミステリー|行方不明1.5萬字5 1100 -
完結第12話
ETCに残らない白バイ
2003年春、千葉県の高速道路を巡回していた女性白バイ隊員・水島舞が、サービスエリアで忽然と姿を消した。 監視カメラには、彼女が白バイを降りて建物へ入る姿が残されていた。だが、その18分後、白バイに乗って走り去ったのは舞ではなく、ヘルメットで顔を隠した見知らぬ男だった。 舞本人も、白バイも見つからない。料金所の記録にも、ETCログにも、その後のはっきりした足取りは残っていなかった。 結婚を控えていた婚約者、娘の帰りを待ち続ける両親、そして答えを出せないまま止まった捜査。 10年後、古い監視映像を最新技術で解析した時、画面の隅に映っていた“あるもの”が、事件を再び動かし始める。 白いバイクは、どこへ消えたのか。 そして水島舞が最後に見た人物とは――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 5804 -
完結第11話
雪峠の五発
2006年11月15日、長野県北部。 その年最初の雪が降り始めた高木峠へ、1人の巡査が向かった。展望台に不審な車があるという匿名通報を受け、霧谷慎也は「確認だけ」のつもりでパトカーを走らせる。 だが午後6時15分、現場到着を知らせる無線を最後に、慎也からの連絡は途絶えた。 雪の展望台に残されていたのは、鍵のかかったパトカーと、車内に置かれた制帽と手袋。慎也本人だけが、吹雪の峠から忽然と姿を消していた。 事故なのか、事件なのか。誰かに連れ去られたのか。それとも、自ら山へ入ったのか。 妻と幼い娘は、答えのないまま13年を過ごすことになる。 そして2019年春。雪解けの斜面から、慎也が持っていた古い懐中電灯が見つかった。 13年間沈黙していた峠が、初めて返した小さな手がかり。 その光の先に隠されていたのは、匿名通報の本当の意味と、雪の下に封じられていた一夜の真実だった。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1420