"余ったパンの嘘" 第10話
それでも、そのに見た先の姿は、黒板の文字よりく彼らの記憶へ残っていった。
のになると、は今もパンをへ包む。
子どもたちは、もう理由を聞かない。
先も説しない。
古びた革鞄の蓋が静かに閉じられる。
午の授業を終えれば、はまた黒い自転でをる。
の煙突が並ぶを抜ける。
舗装が途切れた先の砂利をる。
川敷のさなへ向かう。
そして戸ので、いつものように声をかける。
「健、いるか」
そのには、今も1本のコッペパンがあった。
決して「自分の分を持ってきた」とは言わない。
決して恩を着せることもない。
ただ、いつもの言葉をにする。
「今も余ったから持ってきた」
その嘘のに込められていたものを、3の子どもたちはっていた。
そして誰にも言わなかった。
それが、先から教わった最初の答えだったのかもしれない。
それからしばらくしても、5の教の常はきく変わらなかった。朝になれば炭ストーブへが入り、1目の鐘が鳴り、昼になればい割烹着の当番が廊をき来した。も相変わらず教卓のにち、宿題を忘れた子にはし困った顔をし、良い答えがれば黙って頷いた。
ただ、のになると、以とはしだけ違う空気が流れるようになっていた。
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がコッペパンへを伸ばしても、もう誰も「先、また持って帰るの?」とは聞かなかった。へ包む音がしても、子どもたちは自分の皿を見たまま事を続け、々本当にべきれなかったパンだけが、そっと教卓の端へ置かれた。
も理由を尋ねなかった。
「今はかったか」
そう言って受け取るだけだった。
ある、最初に先のをつけた男子が、の片づけを終えてから教卓のを通った。はちょうど革鞄を閉じようとしており、には自分のパンと、誰かが残した半分のパンが入っていた。
男子は度通り過ぎかけたが、を止めた。
「先」
が顔をげた。
「何だ?」
男子は何か言おうとした。
あの、をつけて悪かった。
健のを見てしまった。
先が毎何をしていたのかっている。
本当なら、そう言うつもりだったのかもしれない。
けれどの顔を見ると、結局そのどれもからなかった。
「……何でもない」
男子がそう言うと、はし議そうに見た、それ以聞かなかった。
「そうか。じゃあ掃除を忘れるなよ」
「うん」
男子は教卓をれた。
廊へてから振り返ると、はもう次の授業で使う教材を理していた。
その、男子はぼんやりった。
先はきっと、自分たちがあのをつけてきたことをっている。
証拠はなかった。
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は度もそんなことを言わなかった。
けれど翌ので、突然3が同じようにパンを残した、何も尋ねずに「そうか」とだけ言った先の表をいすと、何となくそうえた。
っていて、らないふりをしたのかもしれない。
それもまた、健に対してしていたことと同じだった。
相が自分から言わないことを、無理に聞きさない。
分かっていても、言葉にしない。
はそんなやり方をするだった。
休みがづいた頃、朝からたいが吹いたがあった。庭の隅にはくが残り、子どもたちは肩をすぼめながら登してきた。
そのの午、はいつものように革鞄を自転へ載せた。
3の男子はのくにいた。
以なら気づかれないよう隠れただろう。
今は隠れなかった。
が自転を押してづいてくると、3は普通にをげた。
「先、さようなら」
「おう。暗くなるに帰れよ」
も普段通り答えた。
自転に跨がり、をていく。
3はその背を見送った。
駅とは反対のへ曲がっていく。
の方へ。
さらにその先の川へ。
誰も追いかけなかった。
もうき先を確かめる必はなかった。
「今もくんだな」
1が言った。
「うん」
「寒いのにな」
それだけ話して、3もそれぞれへ帰った。
が経てば、学で習ったことのくはしずつ忘れていく。
5のに解いた算数の問題。
国語の教科に載っていた文章。
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