みかん小説
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"壁の中の13年" 第1話

平成3、埼玉県の郊にあるさな町では、例よりたいが吹き始めていた。古い宅が並ぶ角に、結婚2目の田誠と妻の美智子が暮らしていた。美智子はまだ28歳で、初めての子を妊娠して8かに入ったばかりだったが、きくなった腹をかばいながらも、毎朝のように所をゆっくり歩いていた。

初めての妊娠でかったものの、医師からは母子ともに順調だと言われていた。産予定は11末で、美智子はしずつ赤ん坊を迎える準備を始め、さな肌着やベビーを箪笥の段にきれいに並べていた。夫の誠も以は「男でも女でも、元気ならそれでいい」と笑っていたが、この1ほどで庭の空気は目に見えて変わっていた。

誠は友さなを始めたものの、は半ほどで閉し、額の借だけが残った。そのは建設現で働くようになったが、失敗を引きずるように酒量が増え、帰宅も遅くなった。美智子が配して「最みすぎじゃない?」と尋ねても、誠は「仕事の付きいだ」と答えるだけで、詳しいことを話そうとはしなかった。

さらに美智子を苦しめていたのが、誠の母親だった。義母は同じ町内に暮らしており、週に2、3度ほど息子夫婦のを訪ねては、掃除や料理の仕方まで細かく確認した。

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「埃が残っている」「洗濯物をためすぎ」「妊婦だからって何もしなくていいわけじゃないでしょう」と言われるたび、美智子は腹にを当てながら黙ってげていた。

義母はくなった夫から受け継いだへの執着がく、を守ることを何より切にしていた。特に「を継ぐ男の子」を望んでいることを隠そうともせず、まだ性別を聞いていない美智子に向かって「男だったら誠も落ち着くでしょうね」と何度もにした。誠はそんな母親を止めることもなく、「母さんも悪気があるわけじゃない」と言って済ませていた。

美智子には、所で唯気軽に話せる佐藤さんという女性がいた。美智子より10歳ほどで3の子どもを育てており、端で会えば産や育児の話をしてくれた。「初めてのは誰だって怖いよ。でも、まれてきたら忙しくて怖がってる暇もなくなるから」と笑う佐藤さんの言葉に、美智子は何度も救われていた。

方、にはもう、誠の兄である茂がいた。茂は京の会社に勤め、妻子とともに暮らしていたが、弟とは父親の遺産をめぐってく対していた。父親がくなった際、を兄弟で分けたものの、誠は「兄貴の方が価値のを取った」と満を募らせ、は正に顔をわせてもほとんどを利かなくなっていた。

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美智子は兄弟の問題には関わらないようにしていた。しかし、夫のが失敗して借が増えるにつれ、茂が相続したへの満が誠のから何度もるようになった。「兄貴だけ得をして、俺だけこんな目に遭ってる」という言葉を聞くたび、美智子は自分まで責められているような気持ちになった。

10末、町のから赤や黄の葉が落ち始めた。美智子は産まであと1かほどとなり、歩く速度もずいぶん遅くなっていた。それでもに閉じこもっていると息が詰まり、検診や買い物のついでにだけが、彼女にとってささやかな気らしになっていた。

その頃から、誠の帰宅はさらに遅くなった。玄関をけると酒の匂いをまとっていることもく、美智子が「どこにっていたの」と聞くと、「現の連んでただけだ」と嫌になるため、次第に何も聞かなくなった。では夫婦の会話が減り、もうすぐまれる子どものことさえ、でゆっくり話す夜はほとんどなくなっていた。

そして117の朝が来た。

その、美智子はいつもよりく起き、台所を片づけ、縁側を拭き、玄関先の落ち葉まで掃いていた。の夜、義母から「午に寄るから」と話があり、何か言われないようにしておきたかったからだった。

9頃、を通った佐藤さんは、箒を持ってのそばにつ美智子を見かけている。

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