"壁の中の13年" 第11話
と聞かれたにも、く黙ったあと「いません」と答えたという。誠がそのらせを受けた、母親を守ろうとしたつもりでついた嘘が、結局は母親の晩まで壊したのだと初めて実した。
刑期を終えてへた、誠がかつて暮らした町はさらに変わっていた。古い宅は姿を消し、再発された角には商業ビルが建ち、田があった所にも舗が入っていた。かつて寝だった位置がどこなのか、から見ただけではもう正確に分からなかった。
々はそこで買い物をし、コーヒーをみ、待ちわせをしていた。13、その所の壁のにの女性が隠されていたことをらないがほとんどだった。誠は何度か建物のにったが、へ入ることはできなかった。
所、誠はさなへ職を得た。以と同じようにとく付きうことを避け、決められた作業を黙々と続けたが、酒だけは完全にやめた。酔って記憶をくすることは、もう自分に許されないとったからだという。
毎週末。
誠は美智子の墓へ通った。
を替え、墓を拭き、い座っていた。
以なら妻に話していたであろう仕事のことや気のこと、町が変わったことまで、さな声で報告した。返事がないことは分かっていたが、それでも妻の名をにさなければ、自分がまた13の嘘のへ戻ってしまう気がした。
広告
ある、墓で美智子の実母と偶然会った。
誠はくをげた。
実母はしばらく何も言わなかった。
以の彼なら、許してほしいと言ったかもしれない。
けれど、そのは言わなかった。
許しを求めることさえ、自分のためなのだと分かるようになっていたからだった。
実母は墓にを置き、帰り際に度だけ誠を見た。
「娘は、あなたを待っていたといます」
誠は顔をげられなかった。
「助けてくれるのを」
それだけ言い、実母は歩いていった。
その言葉は、判決よりもく誠のに残った。
事件からさらにが過ぎると、美智子を直接るはますますなくなった。かつて所で産の相談に乗っていた佐藤さんも齢になり、ニュースで事件の結末をった、「あんなに赤ちゃんを楽しみにしていたのに」と泣いたという。スーパーの元主・鈴さんも、公衆話のために10円玉を渡した自分が、結果に最のながかりのつを見ていたことをった。
あの、美智子が話をかけなければ、茂は埼玉へ来なかったかもしれない。けれど、美智子が助けを求めたこと自体が違いだったわけではない。問題は、その訴えを聞いたたちがそれぞれ自分のやを優先し、最まで彼女を守る側へ回らなかったことだった。
広告
義母はの秩序や跡取りを気にし、息子の失敗を嫁のせいにした。誠は兄との相続争いに傷つきながらも、その鬱屈を妻とので解決しようとせず、酒と仕事へ逃げた。茂は自分の活を守るため、倒れた美智子を救護せずにちった。
そして最に誠は、兄を守るという名目で妻を壁のへ隠した。
どの瞬にも、別の選択肢はあった。
救急を呼ぶこと。
警察へ話すこと。
実へらせること。
なくとも翌朝、失踪届ではなく真実を伝えること。
しかし兄弟は、つの罪を隠すために別の罪をねた。その結果、数で終わるはずだった事実確認は13の失踪事件へ変わり、美智子の実母は娘がどこかできているという希望を捨てられないままをねた。
誠自も、その13を幸福に過ごしたわけではなかった。仕事を失い、酒に依し、との関係を閉ざし、妻を探しているふりをしながらのどこかでは所をっていた。兄を守った代わりに自分のを守れたわけでもなく、最には母親も庭も失った。
茂もまた、京で平凡な会社員として暮らしていた13を、完全に忘れていたわけではない。子どもの運会へき、族写真を撮り、昇祝いを受けながら、夜になると美智子がに現れることがあったという。のの彼女は何も責めず、ただ倒れた所からこちらを見ていた。
事件がらかになった、茂の妻は「それが番怖かった」
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
10年目のゲームボーイ
1991年、8歳の誕生日会の最中に、篠原恵美の息子・直樹は忽然と姿を消した。 公園には多くの親子がいた。ほんの数分前まで、直樹は青いゲームボーイを手に友達と遊んでいたはずだった。だが、気づいた時にはどこにもいない。目撃者も、手がかりも、残された物もなかった。 それから10年。 息子を見失った母の時間だけが、あの日のまま止まっていた。 そんなある日、友人に連れられて訪れたフリーマーケットで、恵美は古い玩具の山の中から一台の青いゲームボーイを見つける。そこには、直樹が自分で貼ったはずの3枚のシールが、記憶のまま残されていた。 それを売っていたのは、かつて地域で信頼されていた元警察官の男。 なぜ、消えた息子の持ち物が10年後にそこへあったのか。 そして男が思わず口にした「息子」という言葉が、隠されていた10年の闇を少しずつ暴き始める――。ミステリー|裡の顔2.1萬字5 56 -
完結第13話
消えた23人の観光団
2025年9月29日、福岡に約2700人の団体観光客が一斉に降り立った。 その日を境に、日本各地で不可解な失踪が相次ぎ始める。タクシー運転手、配達員、宿泊施設の関係者――いずれも夜、一人で行動することの多い男性たちだった。 やがて糸島の海岸で発見された身体の一部が、事件の扉を開く。 捜査を進める刑事・鈴木健二は、失踪した観光客、黒いワゴン車、古い倉庫、医療機器販売会社、そして横浜港へ向かう冷凍コンテナという、ばらばらに見えた点を追い始める。 これは単なる失踪事件ではない。 観光の人波に紛れ、日本の空き倉庫や港を利用して動いていた国際犯罪組織。その裏には、人間を“商品”のように扱う恐ろしい取引が隠されていた。 救える命はまだ残っているのか。 そして、海へ消えた男と「王」と呼ばれる人物の正体とは――。 福岡から始まった小さな違和感は、やがて日本全体を揺るがす闇へとつながっていく。ミステリー|真相2.0萬字5 131 -
完結第12話
床下の小さな指輪
1991年、群馬県山川町の古い油屋で、嫁の佐藤美優が幼い息子を残して姿を消した。 家族は「男と駆け落ちした」と証言し、町にもその噂は広まった。働き者で、息子を誰より大切にしていたはずの美優は、いつしか“子供を捨てた母親”として語られるようになる。 それから6年後。 借金で差し押さえられた油屋の離れを壊した時、床下のセメントの奥から、人骨と小さな金の指輪が見つかった。 美優は本当に家を出たのか。 なぜ姑は、離れを壊すことだけを必死に止めたのか。 そして彼女が最後まで握りしめていた指輪は、誰のためのものだったのか――。ミステリー|真相1.8萬字5 129 -
完結第12話
膨腹の老人ホーム
長野県郊外の老人ホーム「日和の里」で、ある日を境に高齢女性たちの腹部が次々と異常に膨らみ始めた。 82歳の梅香、78歳の静江、85歳の時子。三人は同じフロアで暮らし、夜になるたびに何かを恐れるような表情を見せていた。介護士の佐藤美咲は異変に気づき、医師への連絡を求めるが、主任の神崎さゆりは「ただの便秘」と取り合おうとしない。 やがて美咲は、三人が夜中に小さな包みを飲まされていたことを知る。 家族との面会は制限され、記録は改ざんされ、施設長と主任は何かを隠している。誰も声を上げられない閉ざされた老人ホームで、美咲だけが真実を追い始める。 しかし、彼女が証拠に近づいた時、今度は美咲自身が地下の暗い部屋へ閉じ込められてしまう。 高齢者たちのお腹に、一体何が入れられていたのか。 そして、すべての真相を知った瞬間、あれほど冷酷だった主任・神崎は、その場に崩れ落ちた――。真相|介護1.8萬字5 504 -
完結第11話
11年目のコロッケ
14歳の秋、黒田み咲の母・裕子は「夕飯のおかずを買ってくるね」と言って家を出たまま、二度と戻らなかった。 父は、母が家の金を盗み、近所の男と駆け落ちしたのだと親族に告げた。置き手紙も見つかり、周囲の大人たちは皆それを信じた。残されたみ咲は、“泥棒の娘”として11年間、父と継母、そして親族たちから辱められ続けることになる。 しかしある法要の日、裏山の古い井戸から、母が消えた日に買ったコロッケのレシートと、泥にまみれたカーディガンが見つかる。 母は本当に男と逃げたのか。 なぜ、継母の失くしたはずのイヤリングが井戸の底にあったのか。 そして、11年間沈黙していた“目撃者”が現れた時、黒田家が守り続けてきた嘘は音を立てて崩れ始める。 母に捨てられた娘だと思い込まされてきたみ咲が、封印された真実へたどり着くまでの、愛と復讐の物語。ミステリー|行方不明1.6萬字5 1318 -
完結第11話
聖火と十円玉
昭和39年10月10日。東京オリンピック開会式の朝、町中が歴史的な一日に浮き立つ中、大田区の小さな町工場では、職人・佐伯正治がいつも通り旋盤の前に立っていた。 急ぎの部品6個を仕上げ、「俺が届けてくる」と自転車で工場を出た正治。取引先には確かに到着し、部品も無事に渡していた。 しかし、その後、彼は家にも工場にも戻らなかった。 妻も仲間も警察も行方を探す中、正治は4日間姿を消す。そして4日目の朝、髭を伸ばし、汚れた上着のまま、左手に包帯を巻いて工場へ戻ってきた。 彼が作業台に置いたのは、1枚の病院の領収書。 東京中が聖火を見つめていたあの日、名もなき職人はどこで何をしていたのか。 歴史には残らなかった、けれど誰かの人生を確かに支えた、昭和の小さな選択の物語。人生逆転|真相1.6萬字5 1157 -
完結第10話
終電の風呂敷
昭和36年の冬、東京郊外の小さな私鉄駅に、毎晩必ず終電だけに乗る老婦人がいた。 午後11時38分。灰色の着物に黒い羽織、そして胸に抱えた紺色の風呂敷包み。彼女はいつも同じ時間に現れ、同じ行き先――工場前駅までの切符を買っていく。 昼間には一度も姿を見せず、帰りの切符も買わない。翌朝戻ってくる姿を見た者もいない。それなのに、次の夜になると、老婦人はまた何事もなかったように駅へ現れる。 若い駅員・高木修一は、次第にその風呂敷の中身と、彼女が毎晩終電に乗る理由が気になっていく。 そして小雪の降る夜、高木は初めて老婦人の後を追った。 終電の先にあったのは、眠らない工場街と、夜勤を終えて戻ってくる幼い少女たちの姿。老婦人が風呂敷をほどいた時、高木はようやく知ることになる。 彼女が毎晩運んでいたのは、ただの荷物ではなかった。 誰にも頼まれず、名前も残さず、昭和の片隅でそっと続けられていた小さな恩返し。その温もりが、時代を越えて誰かの心に受け継がれていく――。人生逆転|真相1.4萬字5 2671 -
完結第15話
灯油札の密告
2005年11月、長野県の山あいにある静かな村で、工藤家の住宅が深夜に炎に包まれた。 家の中には、父と母、そして7歳の息子。近所の人々が助け出そうと駆けつけるが、玄関には外側から鎖と南京錠が掛けられ、勝手口も角材で封じられていた。 これは事故ではない。 誰かが一家を逃げられないように閉じ込め、火を放ったのだ。 村人たちは涙ながらに犯人探しを願い、特に隣人の男は誰よりも深く悲しんでいるように見えた。だが刑事・星野は、焼け跡に残された不自然な痕跡と、その男の身体にあった小さな傷に違和感を覚える。 そして事件から数日後、町の貴金属店に持ち込まれた大量の一万円札が、捜査を大きく動かす。 その紙幣には、かすかな灯油の匂いが残っていた。 炎で消されたはずの夜に、いったい何があったのか。 そして、最後まで燃え残った“匂い”は、誰の罪を指し示していたのか――。ミステリー|遺體発見2.3萬字5 251