"白いハンカチの約束" 第3話
けれど畳へ腰をろそうとしたところで、に力が入らなくなった。
そのまま体が崩れるように倒れた。
どれくらいが過ぎたのか、トメ自には分からなかった。
朝刊は聞受けに入ったまま。
玄関は内側から鍵がかかっている。
買い物にるはずだったになっても、誰もそのことをらない。
団の廊では子どもたちの音が響き、隣の部では洗濯が回っていた。階からはラジオの音も聞こえていたが、そのどれもトメの部のの異変には気づかなかった。
夕方になって、同じ階の主婦が聞受けに朝刊が残っていることに気づいた。
「林さん、今はかけてるのかしら」
最初はそうった。
だが朝刊の端がそのままへ突きている。
トメは毎朝聞を取るだった。
審にった主婦が何度か扉を叩いた。
「林さん?」
返事がない。
隣を呼び、管理にも来てもらった。
ようやく部のへ入ると、トメは畳のに倒れていた。
すぐに病院へ運ばれた。
幸い発見がにい、事には至らなかった。
数。
退院したトメが団へ戻ってきた。
階段をがる取りはまだ々しく、が荷物を持ち、清がろからゆっくりついていった。
「もうし病院にいてもよかったんじゃないですか」
が言うと、トメは苦笑した。
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「病院は落ち着かないよ。やっぱり自分の部がいい」
部へ入ると、トメは窓をけた。
何かぶりに見る団の景だった。
空きでは子どもたちが遊び、ベランダには洗濯物が揺れている。
何も変わっていなかった。
その景を見ていたトメが、ふいにさく言った。
「怖いね」
が振り返る。
「何が?」
トメはしばらく窓のを見ていた。
「だとね、朝起きられなくても、誰にも分からないんだね」
は返す言葉を失った。
トメは冗談めかして笑おうとした。
「誰も悪くないんだよ。隣のだって、自分の暮らしがあるんだから」
けれどその声には、入院にはなかったさが混じっていた。
「娘だって埼玉だし、話もない。具が悪くても話ボックスまでけなきゃ同じだものね」
清は何も言わず、窓の向こうを見た。
正面には3号棟がある。
トメの部からなら、松田のベランダがよく見えた。
その夜、松田へ戻ってからも、清はトメの言葉を気にしていた。
夕を終え、が茶碗を洗っていると、聞を畳んだ清が突然言った。
「毎朝訪ねるのはどうだ」
が振り返る。
「トメさんのところへ?」
「朝、無事かどうか見るだけだ」
「でも毎来られたら、トメさんも気を遣うんじゃない?」
清は黙った。
確かにそうだった。
トメはに世話を焼かれることを好まない。
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毎朝扉を叩けば、かえって負担になるかもしれない。
「話を引いてもらう?」
「話を引いたところで、毎朝話するのか」
「それも変ね」
は布巾を絞りながら笑った。
「用もないのに『今もきてますか』なんて聞けないもの」
清も苦笑した。
そのだった。
窓のを見ていた清が、何かをいついたようにちがった。
「」
「何?」
「い布、あるか」
「い布?」
「くから見えるやつだ」
は議そうな顔をしながら箪笥をけ、真っなハンカチを1枚取りした。
「これ?」
清はそれを受け取り、ベランダへた。
向かいの5号棟を指さす。
「トメさんの部から、ここが見えるだろう」
もを見る。
「ああ……」
清はハンカチを軽く広げた。
「毎朝、これをせばいい」
はまだが分からなかった。
「どういうこと?」
「俺たちが元気ならいハンカチをす。トメさんにも何かしてもらう」
ようやくの表が変わった。
「図にするの?」
「げさじゃないだろ」
清はい布越しに5号棟を見た。
「話す必もない。訪ねる必もない。ただているか見るだけだ」
翌、2はトメの部へった。
清が説すると、トメはしばらく呆気に取られていた。
そして声をげて笑った。
「旗でも振るのかい」
「旗じゃ目ちすぎる」
「いハンカチだって分目つよ」
「くから見えないとがないだろ」
トメは笑いながら押し入れを探し、古い茶の座布団を引っ張りした。
「じゃあ私はこれにするよ」
こうして翌朝から、議な図が始まった。
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