"米はあるのに、田を売った" 第10話
「百姓を続けるためだ」
庄吉も笑った。
その答えは、何もに息子が父へ言ったものと同じだった。
庄吉が町へ向かった、源蔵はで田へた。
朝に濡れた刈り跡を踏みながら、川向こうの方を見る。
かつて自分の物だった田も、同じ朝を浴びていた。
もう胸を締めつけられることはなかった。
失った田は戻らない。
だから、この話には奇跡はない。
隠されていたが見つかることもなければ、誰かの悪が罰を受けて、が源蔵のへ返されることもない。
ただ、のき方だけが変わった。
父の世代にとって、百姓とはを耕すことだった。
息子の世代には、そこへ「値段」を考える仕事が加わった。
娘の世代は、田をれ、現を稼ぐを選び始めた。
治という代が始まり、暦が変わり、分の仕組みが変わり、の持ち主をで示し、税の納め方まで変わっていった。
役所のにかれた「改革」という言葉は、の百姓には難しかった。
けれど源蔵のにとって、そのはもっと単純だった。
蔵に米があるだけでは、できなくなった。
豊作でも、米がければ必なを作れない。
凶作でも、を持つ限り税のことを考えなければならない。
そして先祖から受け継いだ田でさえ、暮らしを守るためには放さなければならないがある。
そのの夕方。
庄吉が町から帰ってきた。
源蔵は庭先で農具を入れしていたが、息子の姿を見るなり尋ねた。
「いくらだった」
庄吉は町で聞いた米価を伝えた。
源蔵はし考え、蔵の方を見た。
昔なら米俵の数だけを見ていた。
今は違う。
「まだ売るな」
源蔵は言った。
「もうし待とう」
庄吉は頷いた。
の向こうへが沈み、のが刈り終えた田を渡っていく。
源蔵は残った田を見つめた。
それは祖父の頃と同じだった。
けれど、そののできるために必なものは、もう祖父の代とは違っていた。
米を作る。
米を売る。
を残す。
そして、変わる。
源蔵はようやく、それもまた田を守ることなのだと分かっていた。
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