みかん小説
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"銀行員の妻も列に並んだ日" 第1話

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阪の朝は、まだ空がみきらないうちから騒がしかった。いつもなら魚が戸板をし、豆腐のラッパが響き始める頃だったが、そのは商のあちこちで、々が聞を広げながら声を潜めていた。

「またが休んだらしいで」

「昨までは丈夫言うとったやないか」

「うちの預はどうなるんや」

噂は商からへ、から町へと、晩で広がっていた。聞には、別のが休業に追い込まれたという記事がきく載り、まで「うちは関係ない」と笑っていた者まで、通帳と印鑑をしていた。

8

共栄には、すでに100い預者が並んでいた。

列はの正面からの角を曲がり、隣の呉まで伸びていた。誰も黙って待ってはいなかった。

「昨まで丈夫や言うてたやないか!」

「俺のを返せ!」

「全部ろすだけや! 何が悪い!」

まだの扉さえいていないのに、鳴り声がび交っていた。から来た者が列のさを見て青ざめ、さらにそのろへ並んでいく。

その列のっていたのが、43歳の員、藤田清吉だった。

清吉は浪共栄に勤めて21になる。若い頃は納係として札束を数えるところから始まり、今では預係の主任を任されていた。

朝7勤した、すでに支には数がいた。

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は玄関脇に清吉を呼び、声を落として命じた。

「藤田君、てくれ」

「私がですか」

「君はい。顔をっている客もい。とにかく騒ぎをきくしないでくれ」

清吉はた。

たい朝のが頬に当たった。

「皆さん、落ち着いてください!」

腹の底から声をした。

「当の預全です! しましたら順番にお取り扱いいたします!」

方の男がすぐに鳴り返した。

全なら、なんでこんなに並んどるんや!」

笑いとも声ともつかない声が広がった。

清吉は表を変えなかった。

「押さないでください。全員、順番にご案内します!」

朝から何度同じ言葉を言ったか、途から分からなくなった。

「預全です」

「落ち着いてください」

「順番にお取り扱いいたします」

言葉だけを繰り返しているうち、が乾いていった。

だが、本当は清吉自、その言葉を信じきれてはいなかった。

の夜。

の支には、主任以員だけが集められていた。

机のには帳簿と報が何枚も並べられ、誰も茶にをつけようとしなかった。支は普段より回り老けたような顔で、数字の並んだを見つめていた。

「今で、現が予た」

その言で、部の空気がさらにくなった。

も同じだけ払い戻しが続けば、持たん」

誰も声をさなかった。

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庫に現がまったくないわけではない。しかし、は預者から預かったを、そのまま全部庫へ積んでいるわけではなかった。

へ貸し、へ貸し、会社へ貸す。そのが町のを回り、商売をかしている。

ところが全員が同じに、

「自分のを返してくれ」

と押しかければ、話は変わる。

は額の汗を拭った。

「本から追加資が来る保証はない。も現を欲しがっとる」

「ではは……」

誰かが言いかけた。

はすぐにげた。

では絶対ににするな」

全員の顔を見回した。

でも員が『危ない』と言えば、それだけで預者は倍になる。族にも余計なことは言うな」

つまりを守るためには、員自を信じているように見せなければならない。

清吉はその夜、何もらない顔でへ帰った。

そして今、で叫んでいた。

「預全です!」

そのだった。

列のほどに、見覚えのあるの羽織が見えた。

清吉の声が止まった。

30ほど先。

柄な女が、両で通帳を握っていた。

妻のだった。

瞬、別であってくれとった。

しかしもこちらを見た。

の目がった。

は驚かなかった。

逃げもしなかった。

列からようともせず、ただ通帳を胸のに抱いたままっていた。

清吉はゆっくりと顔をへ戻した。

「皆さん、押さないでください!」

声がし掠れた。

自分の妻まで、ここへ来ている。

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