"銀行員の妻も列に並んだ日" 第4話
「、はかないかもしれない」
のが止まった。
「……やっぱり」
その声には驚きより、諦めにいものがあった。
「まだ決まってない」
清吉は続けた。
「朝までに本から資が来るかもしれん。別のもある」
はえた噌汁の椀を見たままだった。
「でも、けられない能性があるんでしょう?」
「ああ」
い返事だった。
はしばらく何も言わなかった。
計の音だけが茶のに響いている。
やがて、昼よりもずっと静かな声で聞いた。
「それなのに、どうしてあんなことが言えるの?」
清吉は顔をげた。
「何がだ」
「預は全です、って」
その瞬、昼のの景が浮かんだ。
通帳を抱えた々。
窓へ殺到する客。
そして列のにいた妻。
清吉は線を逸らした。
「俺が危ないと言ったら、本当に潰れる」
「だから嘘を言うの?」
「嘘じゃない」
わずく言った。
が見つめ返した。
「じゃあ、本当に全なの?」
清吉はを閉じた。
全か危険か。
そんな簡単なつの言葉で説できる状態ではなかった。
には貸し付けたがある。
も証券もある。
帳簿の資産はある。
しかしの朝、預者全員が現を求めれば、それをそので返すことはできない。
「昨から危ないってってたのね」
が言った。
「なのに私には何も言わなかった」
「言えるわけがないだろう!」
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清吉は初めて声を荒らげた。
奥の部で子どもが起きないかとい、すぐに声を抑えた。
「俺が族だけに教えて、先にをろさせたらどうなる」
「……」
「員のだけ逃げるのか。自分たちだけ先にを持って帰って、客には『丈夫です』と言うのか」
の顔が張った。
「じゃあ、うちの子どもは?」
清吉は黙った。
「芳子の学費がなくなっても?」
の声もしきくなった。
「商業学へきたいって言ってる息子のもなくなって、それでも員の族だからしろっていうの?」
「そんなことは言ってない」
「同じよ」
「違う」
「何が違うの?」
のに、答えのない沈黙が落ちた。
清吉にも分かっていた。
が違っているわけではない。
族を守ろうとするのは当然だ。
方でも、清吉のが分からないわけではなかった。
もし清吉が昨夜、
「危ないかもしれない。朝番で全部ろせ」
と族だけに伝えていたらどうなるか。
所の誰かにられる。
「員の妻が先に全部引きした」
その言が広がれば、今の列は100では済まなかったかもしれない。
どちらも正しい。
だからこそ、どちらも相を納得させられなかった。
はちがり、えた夕飯を温め直した。
清吉は何も言わず、茶ので待った。
しばらくすると、が膳を置いた。
「べて」
「……ああ」
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清吉は箸を取った。
はほとんど分からなかった。
事の途、がぽつりと言った。
「今、列に並んでるね」
清吉は箸を止めた。
「にいたおばあさんが、ずっと通帳を撫でてた」
「……」
「孫のためのおだって言ってた」
清吉は何も返せなかった。
「そのろの男のは、を始めるためのだって」
は続けた。
「みんな、ただ数字をろしに来たんじゃないんだね」
その言葉に、清吉はゆっくり顔をげた。
通帳にかれている額の向こうには、それぞれの暮らしがある。
娘の学費。
老。
商売。
病気。
結婚。
子ども。
それを毎扱っているはずなのに、清吉はい、数字としてしか見ていなかったのかもしれない。
夜がくなった。
清吉は寝へ入ったが、ほとんど眠れなかった。
翌朝。
まだが起きるに支度をした。
玄関をようとすると、背から声がした。
「清吉さん」
がっていた。
「何だ」
「昨ろしたお、に置いてある」
清吉は黙って聞いた。
「でも残りはろさない」
清吉が驚いて見ると、は言った。
「あなたを信じるんじゃないよ」
しを置いた。
「昨、全部ろさずに帰った自分の決めたことを信じるだけ」
清吉は何も言えなかった。
ただ度頷き、をた。
だがへ着いた、正面入にはすでに1枚のが貼られていた。
「臨休業」
その文字のに、昨よりくのが集まっていた。
清吉がへづくと、群衆のざわめきが気にきくなった。
「員や!」
誰かが叫んだ。
数が清吉の方へ寄ってきた。
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