"銀行員の妻も列に並んだ日" 第5話
「どういうことや!」
「昨はいとったやないか!」
「はどうなるんや!」
清吉はを止めた。
正面入には固く鍵がかけられ、その央に「臨休業」のが貼られている。
昨まで客を迎えていたが、今は枚のでのを拒んでいた。
「昨は全だって言ったじゃないか!」
その声がんできた瞬、清吉の胸が痛んだ。
自分が何回も言った言葉だった。
預は全です。
今、同じ言葉を客から突き返されている。
「説してください!」
「俺たちのはどうなる!」
「員なら分かるやろ!」
清吉は答えようとした。
しかし支から、勝な説をしてはいけないと言われている。
本と政側で対応が協議されており、正式な通がるまで何も断言できなかった。
「現、本からの連絡を待っています」
そう言うのが精杯だった。
「そんな話を聞きたいんやない!」
鳴り声が返ってきた。
を投げる者はいなかった。
殴りかかる者もいなかった。
ただ、皆が清吉へ向かって言葉をぶつけた。
それだけで分だった。
やがて群衆の端で、1の老女が面へ座り込んだ。
清吉は昨見た顔だと気づいた。
のに並んでいた老女だった。
老女は膝のに通帳を置き、の扉を見げていた。
「孫のために貯めたおだったのに」
周囲がし静かになった。
老女は清吉を見た。
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「あなたが丈夫って言ったから、昨は全部ろさなかったのよ」
清吉の顔が張った。
老女は鳴らなかった。
泣き叫びもしなかった。
ただ疲れた声で、それだけを言った。
その方が、清吉にはずっとかった。
清吉はをげた。
「申し訳ありません」
ほかに言える言葉がなかった。
「本当に返ってくるの?」
老女が聞いた。
清吉は顔をげられなかった。
「今、対応を――」
「返ってくるかって聞いてるの」
周囲の々も、答えを待っている。
清吉は迷った。
昨までなら反射に、
「丈夫です」
と答えていたかもしれない。
だが今は、その言葉を簡単ににできなかった。
「私には今、絶対とは言えません」
ざわめきが起こった。
それでも清吉は続けた。
「ただ、預者の皆さんにできる限り返すための対応がめられています」
老女はしばらく清吉を見ていた。
やがて通帳を胸に抱いた。
そのの午、支払猶予の措置が取られるという話が広まった。
の営業や預の払い戻しをに止め、混乱を抑えるための措置だった。
言葉だけ聞けば、
「を返してもらえない」
というにえる。
しかし実際には、を置いて融関が現を用し、連鎖な混乱を止めるためのものだった。
支内では、員たちが夜まで説資料を用した。
森田が清吉へ尋ねた。
「主任、本当にこれで収まるんでしょうか」
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清吉は類から目をげた。
「分からん」
森田は驚いた。
昨までの清吉なら、「丈夫だ」と言ったはずだった。
「でも、収めるしかない」
清吉は続けた。
「俺たちは、そのためにここにおる」
数、には混乱が続いた。
聞がしい報を伝えるたび、々は憂した。
しかしが経つにつれ、預そのものが永久に消えてしまうわけではないことが分かり始めた。
のを埋め尽くしていた々も、しずつへ帰った。
浪共栄の扉が再びくまで、清吉たちは毎勤した。
表では営業していなくても、帳簿を理し、本との連絡を取り、問いわせに対応した。
その、清吉のには何度も老女の言葉が浮かんだ。
――あなたが丈夫って言ったから。
員がにする言は、単なる説ではない。
その言葉を信じて、を変えるがいる。
に帰るがいる。
列に残るがいる。
をろすも、ろさないもいる。
清吉は21に勤めてきた。
それでも、自分の言葉がのにこれほど直接触れているとじたことはなかった。
が落ち着きを取り戻し始めた頃、藤田にもしずつ以の活が戻ってきた。
は朝になると弁当を作り、子どもたちは学へかけた。清吉も決まったにをるようになった。
ただし、以とまったく同じではなかった。
朝の、聞にの記事が載っていると、族全員が何となく黙る。
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