"銀行員の妻も列に並んだ日" 第7話
清吉は帳簿を閉じた。
「させることと、したふりをさせることは違う」
森田は黙った。
「分からんことまで丈夫と言うたら、あとでその言葉ごと信用を失う」
清吉は自分に言い聞かせるように言った。
それは昭2421、で叫び続けた自分への反省でもあった。
数が過ぎた。
世のはしずつ変わった。
同士の理や統もみ、浪共栄にも再編の話が持ちがった。
最初に噂がた、古参員たちは誰も信じようとしなかった。
「うちがなくなるわけがない」
それはあの融恐慌のにも何度も聞いた言葉だった。
だが今回は、扉が突然閉まるという話ではなかった。
別のへ吸収され、支も員もくはそのまま残る。
ただ「浪共栄」という名だけが消えることになった。
最の営業。
閉、員たちは古い板を見げた。
若い頃から20以この文字を見てきた清吉は、しばらく玄関からかなかった。
「寂しいですか」
隣にいた森田が聞いた。
森田も今では堅員になっていた。
「そらな」
清吉は答えた。
「自分のみたいなもんやった」
「でも仕事は続きます」
「ああ」
板が変わっても、預者はも来る。
料を預ける。
商売の売を持ってくる。
娘の嫁入りのために貯める。
孫の学費を積みてる。
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名が変わっても、そのたちの暮らしは続く。
清吉はその、初めて自分が守ろうとしていたものをし理解した気がした。
の名ではない。
建物でもない。
帳簿でもない。
そこへを預けに来るだった。
しいでも、清吉は働き続けた。
肩きもしずつがり、若い員へ仕事を教えるになった。
ある、入員の研修を任されたのことだった。
緊張した若者たちが机を並べて座っている。
清吉は黒板のにった。
「員は何を守る仕事でしょう」
そう尋ねた。
1がをげた。
「預です」
別の者が答えた。
「の資産です」
「信用です」
最の答えに、清吉はし笑った。
昔の自分なら、おそらく「預」と答えていた。
しかし今は違った。
「どれも違いではない」
清吉は言った。
「ただ、俺はこうう」
若い員たちの顔を順番に見た。
「預者を忘れない仕事や」
何かが首を傾げた。
清吉は続けた。
「通帳には数字しかいてない。でも、その数字には理由がある」
教が静かになった。
「子どもの学費かもしれん。を始めるかもしれん。病気ののために何も残したかもしれん」
清吉のには、あののへ座り込んだ老女の姿が浮かんでいた。
孫のために貯めたおだったのに。
20以で働いても、あの声は消えなかった。
「数字の向こうにがおる。
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それを忘れたら、員は帳簿を扱うだけのになる」
若い員たちは黙って聞いていた。
清吉は黒板へ何もかなかった。
ただ最に、言だけ付け加えた。
「信用はが持っとるものやない。預者から預けてもらっとるものや」
その言葉は、12歳だった芳子との会話からまれたものだった。
が経つにつれ、藤田の暮らしも変わった。
芳子は女学へんだ。
あの、が窓で引きした学費が、実際に使われるが来た。
制を着た芳子が玄関にった朝、は帯を直しながら目を細めた。
清吉はしれて、その様子を見ていた。
「何?」
芳子が父親に気づいた。
「いや」
清吉は首を振った。
「あの、このがなくなるかもしれんとったんやな、と」
が横から言った。
「あんた、まだ気にしてるの」
「忘れられんよ」
「私はもう忘れかけてた」
そう言いながらも、の顔にはあのの記憶が残っていた。
何ものへ並んだこと。
窓の向こうに夫がいたこと。
「全部」と言った自分に、清吉が「部だけにしてくれ」と頼んだこと。
結局、は残りの預をろさなかった。
支払猶予が終わり、の混乱が落ち着いたも、そのは座へ残した。
清吉は度だけ尋ねたことがある。
「どうして全部ろさなかった」
は洗濯物を畳みながら答えた。
「分からない」
「俺に頼まれたからか」
「それだけじゃない」
はし考えた。
「みんなが全部ろしたら、本当に駄目になるって分かったからかもしれない」
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