"銀行員の妻も列に並んだ日" 第8話
清吉は黙って聞いた。
「でもね」
は続けた。
「あの、私にそれをさせるなら、も預者のことを忘れたら駄目やとった」
「……」
「のために客がすることがあるなら、客のためにもしなきゃおかしいでしょう」
清吉はその言葉をく覚えていた。
を守る。
預者を守る。
見同じように聞こえる。
だがには、そのつがぶつかる。
を潰さないために払い戻しを止めれば、預者は困る。
全員へ度に返そうとすれば、そのものがちかなくなる。
どちらか方だけを見れば、答えは簡単だった。
難しいのは、そのにつことだった。
男も商業学へんだ。
根も修理した。
藤田が貯めたは、しずつ族の活へ使われていった。
通帳の残は増えたり減ったりした。
は以ほどを絶対しなくなった。
それでも預をやめたわけではない。
ある、清吉が冗談半分で聞いた。
「まだを信じてないのか」
は笑った。
「は信じすぎたら駄目」
「ひどい言い方やな」
「でも全部疑ったら暮らせない」
清吉はその言葉に笑った。
「じゃあ何を信じる」
はし考えた。
「見て、聞いて、自分で決める」
昭2の、は員の妻でありながら、預をろす列に並んだ。
夫がで「預は全です」と叫んでいる、その列に。
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それは夫を裏切るではなかった。
族を守ろうとしただけだった。
同に清吉も、族を危険にさらしたかったわけではない。
員として、自分のだけ先に逃げることができなかった。
何経っても、夫婦のであのの正解はなかった。
だが、正解がないことをとも受け入れるようになった。
「あの、全部ろしてたらどうなってたかな」
ある晩、が聞いた。
清吉はしばらく考えた。
「にはがあった」
「それだけ?」
「ああ。それだけや」
「は?」
「俺がもっと肩狭かったやろな」
は笑った。
「じゃあ、あれでよかったのかね」
清吉は答えなかった。
ただ湯呑みを持ちげた。
よかったかどうかは分からない。
それでも夫婦は、その選択の続きをきてきた。
それで分なのかもしれなかった。
清吉がをねるにつれ、昭2の騒ぎを直接らない若い員が増えていった。
彼らにとって、のへ100もの預者が押しかけ、夜で営業が止まるという来事は、教科や昔話ののことにかった。
あるが昼休みに言った。
「本当にそんなに急に皆がをろしに来たんですか」
清吉は弁当の蓋を閉じた。
「来たよ」
「何か触れは?」
「噂や」
は笑いそうになった。
「噂だけで?」
清吉はその顔を見た。
「噂だけ、とうやろ」
「はい」
「には、それで分なことがある」
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若い員の笑みが消えた。
清吉は窓のを見た。
昭2421の朝も、くのが最初は同じようにっていたはずだ。
自分のだけは丈夫。
あのとは違う。
聞がげさに騒いでいるだけだ。
しかし誰かが通帳を持ってりす。
それを見た隣もになる。
に列ができる。
列を見たが、
「何かあるに違いない」
とう。
そして列がさらにくなる。
理由が現実を作り、現実がまた理由を作る。
清吉は言った。
「の庫にいくら札があるかだけ見ても、が全かどうかは分からん」
「じゃあ何を見るんです」
「の顔や」
が議そうにした。
「預ける側と、貸す側と、員。それぞれが何を考えとるかを見る」
清吉は昔より数のない男になっていた。
それでもへ同じ話だけは何度もした。
窓へ来る客を、通帳の残だけで見ないこと。
をにした客を、面倒なだとわないこと。
分からないことを「丈夫」と言い切らないこと。
そしての都だけで、預者へを求めないこと。
ある若が聞いた。
「でも主任、員がな顔をしたら、余計に客がになりませんか」
清吉は頷いた。
「そうや」
「じゃあ、させるためにく言うことも必ですよね」
「ああ」
「どっちなんです?」
清吉はし笑った。
若い頃の自分も、それをりたかった。
「だから難しいんや」
それしか答えられなかった。
勇気を持ってさせることと、根拠のない言葉でを押し込めること。
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